パルプンテが戻ってようやく全員そろったラグナロクの甲板では
パルプンテが面目なくしていた。
みんなのために犠牲になりますとエスタで収監されたのに
いざ助け出してもらったらうれしくてたまらないからだという。
まあ、そんなものだろう。
世界のために犠牲になる17歳もいいかもしれないが
もしそれを本人が望んでいないのならば、その犠牲の上でないと成り立たない世界こそが間違っている。
「うれしいのはいいよね〜」
やっぱり、セルフィはいちばん大事なところをわかっていらっしゃる。
この場合、パルプンテがうれしいならそれが一番自然なのだ。
和気藹々が苦手なヒャダルコはだんまりだったが
運転をしながらでも気配りを続けるゼルがそれに気がついた。
ヒャダルコは、いざ無我夢中で動いてみたものの
これからどうしようかと考えている。
しかしわからないことが多すぎて、その説明すらできないのだろう。


そこで登場するはキスティス先生だった。
ヒャダルコ研究家の私の考えでは……」
面白いな、お前。
「これから俺たちは何をすればいいんだろう? あれこれあれこれ……
 いろいろ先のことを思うと考えがどんどん悪いほうへ行ってしまうのよね」
さすが研究家だ。ずばりです。
もう少し明るいことを考えよう。キスティス先生はいつの間にか前向きになっていた。
ずっと昔、デリングシティのカーウェイ邸で
オダインバングルを握り締めた楽天パルプンテをやっつけたのと同じ人とは思えない。
お前がそれを言うか、とヒャダルコも思ったのかもしれない。
すねたように「悪かったな」と口癖で答えるだけだ。


でも、これからどうしよう?
ゼルが前向きな発言をする。
これはやはりゼルだけ操縦席で前を向いていて
ふてくされるヒャダルコやうれしいパルプンテや面白いキスティス先生や相変わらずのセルフィや影が薄いアーヴァインの
顔などを見ていないから、おそらく後部座席では視線で心が通じているのだけれど、彼だけは村八分だから
つまらなくなったのだろう。
俺がワンボックスカーを絶対買わない理由はそこにある。
5人でワンボックスカーを運転したとき、後部座席に4人が乗りやがったことがあるのだ。
しかしゼルは「おれも仲間に入れろよ」とは言わずに具体的な案を出した。
エスタに来た『ルナティック・パンドラ』をなんとかしなくちゃならねえよな?」
ああ、そういうのもいたか。
月の涙が起きて、ルナティック・パンドラはその直撃を受けて壊れたものかと思っていたが
考えてみれば、あの石柱にはこのゲームでもっとも愉快な男サイファーが乗っているのだから
そんなことはあるはずがないのだ。
ガルバディア軍がいて、サイファーがアルティミシアの言いなりになって悪さをしている。
SeeDでもありサイファーのクラスメートでもあり
おそらく地上でエスタ大統領一味の次くらいに強いヒャダルコたちは
その辺の面倒も見る必要があるんじゃないのか。
一部パルプンテに無神経な発言があってたしなめられたものの
それはパルプンテ=魔女という認識が足りないからであって悪意ではなく
後部座席のみんなも頭を切り替えられた。


「ねえ、ヒャダルコ、どこ行く?」
あれ、このセリフはアーヴァインなのか? キスティス先生あたりの口調だと思ったが。
ともあれ行き先を決めようとしたときにパルプンテから希望が出された。
イデアの石の家に行ってみたいのだという。
人間がいないところに行きたいと。
それだけではなく、いい判断だろう。それにそこはイデアが他人に心から好かれる人間としての人生を送った場所で
そこには魔女を愛したシド学園長もいる。
これからのパルプンテの身の振り方をじっくり考えるにはいい場所かもしれない。
それにしても
パルプンテが操られてアデルが復活しました。
そのアデルはおそらくルナティック・パンドラにいます。
それなのに、優先順位の先にパルプンテの希望が来るのだからさすがに17歳である。
そう、このゲームはあくまで17歳なのです。その辺間違えたらいらだつことになります。
では石の家に行きましょう。