ヒャダルコたちが目を覚ましたころを見計らって
車が6人のもとにやってきた。
中からは男が一人現れて、イデアの身元を確認する。魔女、ということはもう伝わっているようだ。
情報を隠蔽はしたけれど断絶はしなかったらしい。
バカ殿に会わせてもらいたいというまませんせいの要求も
先に彼らの事情聴取があるとしても受け入れてくれるようだ。
その話を聞きながらも、もちろんヒャダルコは自分のことしか頭にない。
エルオーネはどこにいる?
普通の17歳ならこの視野狭窄も許してやるべきかもしれないけれど
ヒャダルコの場合その一方で物怖じもしないんだよな。
だから周囲の良識ある大人がなんとなく譲歩を重ねてしまう。
本人はしっかり自分の性格が嫌いだとしても、今後は得をすると思います。
とはいえこの場ではエルオーネに関する情報は得られない。
オダイン博士がご執心だったし
エルオーネを助けに来た縁でラグナは打倒アデルに加わることになった。
そしてたまたま外洋航海に出ていた軍船が連れ帰ってきた娘である。
高官らしきこの男ならエルオーネのことを知っていてもおかしくはない。
それよりも、魔女がふたたびやってきたことのほうがおおごとなのだろう。


イデアに諭されて、ヒャダルコも従うことにした。
車はエスタの市内を走る。
ここまで広いなんて、とキスティスが呆然とつぶやいた。
キスティスの知っている街ででかいものといえばデリングシティがあるが
一隅を眺めるだけでそれよりずっと広いことがわかるくらい大きいらしい。
南ヨーロッパのひなびた国から来た人が
いきなりニューヨークを眺めるものだろうか。
これまで街の中の移動はできるだけ歩いていたけれど
そんなに広いのなら四の五の言っていられない。走ろう。
彼らは大統領官邸に連れて行かれるらしい。
やはり魔女はVIP待遇なのだ。
もしかしたら首脳部は魔女の力を使ってもう一度と考えているのだろうか。


大統領官邸に到着した。しかし大統領は面会してはくれないようだった。
まませんせいは高官に対して自分の状況を説明する。
オダイン博士の力で、自分を未来の魔女から遠ざけてもらいたい。
そこに、訊きなれた言葉遣いのバカ殿がやってきた。
「簡単なことでおじゃる。隔離してしまえばいいのでおじゃる。オダインに不可能はないのでおじゃる」
……それだけで、いいのか?
まあ、オダイン・バングルなんていうアクセサリーで魔女の力を制御できるつもりでいる男だ。
牢獄一つ作れば完全隔離はできる、と踏んでいるのだろう。
そして話はようやくヒャダルコのところにやってきた。
「キミは、エルオーネに会いたいと?」
「あんたたちは断ることはできない。もし断れば俺は……」
もうすっかりチンピラだ。
本当に、サイファーとヒャダルコというパルプンテに関わった二人の
この落ちぶれ方はなんなのだろう。
株価の大暴落を経てサイファーはパルプンテにあっさりと見切られた。
パルプンテが目覚めた時、チンピラと化してしまったヒャダルコが見捨てられるような気がしてならないよ。
バカ殿はチンピラの脅しに屈するでもなく、あっけなく許可してくれた。
「ただし条件付でおじゃる。この娘をオダインに観察させるでおじゃる」
なるほど。17年前にロリコンだった男は年月を経て対象年齢があがったのだ。
という場合ではなくパルプンテの容態が普通ではないことに気がついたのかもしれない。
魔女との戦いを経て食事もとらず寝続けて、死なない。
それだけで充分異常だろうが……。