まませんせいは隔離されるために立ち去り、大統領補佐官は街を見てまわれと言った。
「魔女の支配から抜け出して17年。人と科学の調和を目指したエスタ……。気に入ってもらえるといいが」
なんだか友好的じゃないか。
情報封鎖をして人間が入ってこれないようにトゥルーマン・ショウの仕組みまで実現したにしては
なんだかとてもフレンドリーだ。
本当に平和を願っているのかもしれないな。
自由に街を見て回れ、みんなと会話しろというということは
彼らの言っている言葉と住民の願いが一致している自信があるからだ。
つまりヒャダルコたちにウソはついていないに違いない。
出発しようとしたら教えてもらったのだが
街の東にあるルナゲートというところで何かを行うらしい。何をするつもりかは知らないが。
それまでに、少し歩き回ってみよう。


エスタのショッピングモールにやってきた。
どうやらネットショップみたいなものらしく
画面に触れることでいろいろ買えるらしい。
なにより充実しているのが本屋で
オカルトファン二冊と格闘王、それにペット通信などを大量に買いこんだ。
オカルトファンといえば、師匠の情報が載っていることで有名だ。
すでに見つけた一冊によれば、ある指輪を持って666個のアイテムを持っていれば
師匠に出会えるという。
しかし、このゲームでは1種類100個までである。
つまり、最低でも7種類は集めなければならないのだろう。
そしてオカルトファンの二冊を見たところ
鉄パイプと、モルボルから手に入る何かがそのうちの二種類のようだ。
まだどっちも出会ったこともないのだが。
鉄パイプはウェンディゴという怪物からぶんどれるか落とすかするのだという。
しかしこれまではウェンディゴと出会えなかった。
この大陸に生息しているのだろうか。
例のモルボルと出会うのは非常におっかないがしばらく探して徘徊してみようと思う。


街を走り回っていろいろと話を聞いてみた。
ここに来てからはもう、わざわざ歩いてなんていない。
のんびり歩いていたら日が暮れるほど広い街だ。
しかもいまいち位置関係が把握しづらい。
街の中にはドープ駅長たちのことを心配している人たちや
17年間の沈黙を後悔している人たちもいる。
彼らに共通するのは穏やかな態度だった。
これが、魔女に操られて戦争を起こそうとした人たちだろうか。
そういえば、『日本幽囚記』の中で
ロシアの海軍士官ゴロブニンは、開国直前の日本人を『臆病』と評している。
「……現在日本人にかけているものが一つだけある。それは我々が剛毅、勇気、果断と証するものであり
 また時には男らしさというものである」
そういう表現があった。
このたった70年後、日本は太平洋戦争に突入する。
狂信と穏やかな性情とは同居するものなのだ。
それは指導者によって左右されやすいものだ。
高度に洗練されたサラリーマン社会としての武家統治と
その彼らが腰に大小という殺傷力のありすぎる刃物をさしていた社会は
当時の日本人の危険な一面と、成熟した秩序を示すいい光景だと思うが
すばらしい技術力と穏やかな物腰のエスタにも通じるものがある。
日本が穏やかな江戸時代〜荒々しい二回の大戦期〜戦後と二度も人格の180度転換をしたように
エスタも今は穏やかな生き物でいる時期なのだろうか。
イザというとき、あまりこの国の人々を信用しないようにしよう。
とはいえそれらの問題は指導者次第であり
大統領に関してはたびたび住人が言及しているが
おおむね好意的でよい評価を受けていた。
17年間のかわらない姿勢から、もしかしたら終戦直後から同じ人物だったのかもしれない。
まさかラグナじゃないだろうな。
留守がちにするところなんか非常にそれっぽいのだが
そんな悲劇はいくらこのゲームでもありえない。
さあ、次回はいよいよエスタの土地を徘徊する。
いったいどんな化け物が出てくるのか。モルボルをどうにかできる日は来るのか。
ウェンディゴはこの大陸にいるのだろうか。
とりあえず今夜はここまでにしておこう。