場面が変わった。軽快な音楽が流れている。
パンドラの箱の先陣を切って地球になだれ込むであろう災厄の
ヒャダルコパルプンテ、セルフィを乗せたカプセルは大気圏を離脱して宇宙空間を走っていた。
他の国とエスタと、同じ地表の科学力とはとても思えん。
ルナ・ベースではカプセル受け入れ準備が整っている。
でも面倒くさがられている。
「面倒なこと、おこらなきゃいいけどな」
この投げやりな男がここの指揮官らしい。一体何者なのだろう。
なんとなく、ラグナっぽい。
ラグナもあのだらしない性格のまま年を重ねて気力を失えば
こんな男になるかもしれない。
さらにエスタでは有名人である可能性が高い。
宇宙ステーションの警備管理職くらいは任されていそうだ。
警備の兵を配置するか? そう部下に問われて宇宙服の男はいらないと答えた。
根拠はカンだという。
それを聞いた部下は、兵士を配置することにした。
……ますますもって、ラグナっぽい。
いまのところ、彼をラグナ(仮)と名づけることにしよう。失礼な話だが。
「おまえら、普通そういうことするか? 俺を誰だと思ってるんだ?」
どうやら地位か過去の実績かのどちらかが高い男らしい。
しかし管制官は怯えもしない。ラグナ(仮)はあきらめた。
「じゃあ、俺はアデル見てくっから」
なんと、ここにアデルがいたのか。
ここなら安心だ。まさかアルティミシアもここには来れないだろう。
来たところですぐに息がつまる。


ルナ・ベースのムービーに思わず見とれてしまった。
慣性の法則そのままに基地に向けて高速で走るカプセルを
緑色の光でつくられた網とおぼしきものが受け止める。
網は簡単に破られるが少しずつ勢いを殺し、
十何枚目かのあとでカプセルは静止した。
そして流れ作業で基地内に取り込まれ、解凍され
ヒャダルコは人口重力で生まれた壁に降り立った。
すごくきれいなムービーだった!
やっぱり、二周目をやろう。
入力端子をHDレコーダーにつないで、ムービーだけを取り込もう。
解凍が終わったヒャダルコたちのところに白衣の科学者がやってきた。
「おおっ! 年のころなら17,8の若い娘……死んでるの?」
思わず伸ばされた手をヒャダルコが払いのける。
たまを地球に置いてきたのだが
番犬の役はヒャダルコがしっかりと受け継いでいるらしい。
辟易したピエットという医療クルーに連れられて、その医療室へといざなわれた。


パルプンテをカプセルのようなベッドに寝かせ、入り口で待っているクルーに触れるなと念を押した。
ヒャダルコが過敏すぎるのか
クルーがよほど女に飢えた目をしているのか
エスタ上陸後、エスタシティに向かうまでの道すがら
ヒャダルコは常に戦闘担当だったにも関わらず
パルプンテをおんぶする役を誰にも譲らなかった。
いまはもしかして、自分以外の男がみんな獣に見えているのかもしれない。
それにしても。
不必要に触れるなといいたいのだろうが、医者に対して吐くセリフじゃあない。
稚気まるだしの言葉にさすがに医療クルーもうんざりして
「君は……この子の騎士かなんかみたいだな」
とひどい侮辱を吐いた。
騎士といえばこれまで2人いる。
映画『魔女の騎士』を演じたラグナと
イデアにごみのように扱われたサイファーだ。
立場的にはイデアの夫であるシドもそうかもしれない。
まともな男が出てこないこのゲームでも
ダメさ加減のトップを争う3人だと思う。
争っている相手は当然ヒャダルコだ。
ああ、だからいいのか、騎士で。


病室を出て歩いている人に話しかけた。
危険なものはなくしたり遠ざけたりではなく、手元において制御することが重要である。
それがエスタ人がたどりついた考え方らしい。
つまり、アデルは危険な存在として幽囚されているのか。
ルナ・ベースはアデルをとらえて眠らせておくための施設らしい。
そのためにクルーが半年交代でつめているのだそうだ。
アデルは現在宇宙空間に浮かべられた檻の中で眠っており
あらゆる情報を遮断する電波でくくっている。
その結果が地上の情報障害ということだった。
なるほど。
ちなみに先ほどのラグナ(仮)はエスタ大統領その人だったらしい。
留守にしていると思ったら、こんなところに来ていたとは。
ということでラグナ(仮)ではなくエスタ大統領とすることにする。
それにしても大統領がこんなところにちょくちょく来ることを容認するのなら
エスタの宇宙旅行の技術は大したものだと言わざるを得まい。
アデルを倒し、封印したのは大統領その人だそうだ。
その功績で大統領になったのなら、17年間その地位にいることになる。
しかしこうやって警戒を怠らないのだ。
『ラグナだ』なんて言って悪かった。心から謝ろう。