そしてエルオーネと対面した。
「ごめんね、いろいろ。あなたたちを巻き込んで」
「いいんだ。あんたが何をしたかったのかわかったから。
 オレたちは役に立ったのか?」
ずっとヒャダルコたちは被害者だった。
エルオーネは、レインをラグナの死に目にあわせたくて、同じ思いを抱いているはずのヒャダルコ
父親であるラグナの中に送り込んだ。
しかし問題が二つあって
ヒャダルコはレインが自分の母親だということも、その死に際が孤独に包まれていたことも忘れており
さらにどうしても過去は決定的に変えられなかった。
だから、ヒャダルコたちの都合を考えない度重なる干渉を行わざるを得なかった。
ヒャダルコじゃなくたって怒り狂うだろう。
しかしいま、ヒャダルコはエルオーネを許せている。
過去を変えたい人間の気持ちが、現在が幸せではない人間の気持ちがわかるから。
エルオーネの気持ちがわかるから、まずその目的を達することができたのか、と思いやる余裕もできていた。
自分がエルオーネの力を利用してパルプンテを救えるかどうかの参考にもしたいのだろうが。


「もちろん」
エルオーネは肯定した。あなたたちは私の目になってくれた。
つまり、誰かを送り込んでちょっとだけ過去を変えることはできるしそれを見ることはできるのだが
彼女がそこに行くことはできないのだ。
「あなたたちのおかげで私がどんなに愛されていたかわかった。
 過去は変えられなかったけどそれを確認できただけでじゅうぶん」
あれー?
いままでずっと、エルオーネの願いはレインお姉ちゃんの死に際にラグナにいてほしかったのかと思っていたが
そうではなく、レインの死からヒャダルコを連れて石の家に落ち着くまでの苦しみの中で
ラグナの愛情を信じられなくなってしまった反動だったのだろうか。
どうやら読み違えたらしい。
確かに、なんだかんだ言ってもまだ25歳程度のエルオーネが
既に死んだレインのためにあれほどの執着はおかしいかもしれない。
とにかくエルオーネはラグナが帰ってこなかった事情を理解した。
私もレインも愛されていたのだと納得できた。
方向音痴でさえなかったら……それを直せたらもしかして……
とは考えないで欲しい。それはたぶん、誰が指導してもどうにもならないことだと思うんだ。
それにしても、この物語に出てくるやんでる人のうち
ようやくひとりが更正できた。
登場時、精神に問題を抱えていた主要キャラといえば
ヒャダルコ、キスティス、アーヴァイン、パルプンテ、シド、イデア、エルオーネ、サイファー、ドープ駅長
などが挙げられるが
さすがにDisc3までくるとけっこう回復してきた。さすがは更正ゲーム。
あとはパルプンテサイファーだけだ。
パルプンテは心の傷とかではなく気が狂っているだけだからいいとして
サイファーか。
馬鹿につける薬はないというし
あいつがガルバディアでもその他の国でも実験を握る可能性は低いと思う。
アルティミシアさえいなければもうエンディングテロップに進んでもいいんじゃないだろうか。
一方、更正はしたが現在においていまだ不幸せなヒャダルコ
過去を変えるという可能性をあきらめたくなかった。
実際に判断できるヒャダルコは、エルオーネと比べて自分が影響を及ぼせる範囲が広い。
そこに期待をかけているのだろう。


エルオーネはゆっくりと諭す。
過去を変えるのではなく、現在を幸せにしようと思うべきだ。
現在が不幸であるのも、過去を知ることで変えられるかもしれない。
エルオーネはそうやって幸せになれた。
「変わるのは自分。過去の出来事ではないの」
しかしヒャダルコはくいさがった。
「そうなのか? 本当に過去は変えられない? 俺は自分で確かめたい」
そうか。
エルオーネはラグナの方向音痴を呪っているから
ウィンヒルでのパトロールを、ヒャダルコが左右したものと思っていないのかもしれないな。
しかしヒャダルコは、自分が憑依先の行動を左右できることを知っている。
過去のパルプンテの中に入り込みさえすれば、なんとかできますよ俺ならば。
その熱意は届いたようだが、エルオーネはやはり拒否した。
彼女は知っている人に知っている人を送り込むしかできないのだという。
それはヒャダルコも知っている。だからパルプンテをここに連れてきた。
知っている、というのは顔を見たことがあると同じだろうか? と疑問に思わざるを得ないが。
結局自分を含め誰も本当に知ることはできないだろうから、
顔を見ればいいのかもしれない。エルオーネが素直についてきたことからすると望みはありそうだ。