でもがんばろう。ここがこのゲームの正念場だということは
過去二回(うち一回はここまでたどり着いていないが)のプレイでなんとなくわかっている。
ヒャダルコは大きくため息をついた。
「……踊れないんだ」
パーティーのシーンになって以来初めてヒャダルコが口を開いた。
すごいことだ。
しかしこれは別に女番長の愛嬌と容姿に心が動いたのではなく
沈黙では追い払えそうにないこの娘を
無視していれば通り過ぎてくれるわけではない敵と認めたためだろう。
しかし任務とは違い授業とは違い
できない理由を説明すれば納得してくれる可能性はある。
いや、実際はこのタイプはその可能性は非常に低いんだけど
対人経験が浅いヒャダルコではわかるまい。
「だいじょうぶ、だいじょうぶ」
ほら。くじけない。
ヒャダルコは内心驚いたんじゃないだろうか。
置かれた状況の中で常に最善を尽くすと考える彼は
風紀委員三人衆が港町から車をかっぱらって帰ってしまっても
歩くしかないとすぐに受け入れるほど「他人の決定」に対して口を出さない性格だ。
彼の考え方からすれば、踊れないと自分が言うなら女番長あきらめるべきなのだ。
しかし女番長はそんなヒャダルコの主張を歯牙にもかけていない。
「知り合いを探しているの 一人じゃダンスの輪に入れないから」
おいおいあんたさっきダンスの真ん中で星を見てたじゃないか。
踊りの輪の中にいるだろうと思ってさっきは単身突入したが
それは高速道路のなかで立っていても過ぎ去る車種がわからないのと同じで
よく探せなかったということなのか。
あるいは他の女性、おそらく女番長の容姿にパートナーがわき見をして苛立った女性から
一人の女は出て行きなさいよという光線を
散々食らったのだろうか。
女番長はヒャダルコがかっこいいからではなく
ダンスの輪の中で人探しをするつもりだったのだ。
こうなってしまったら、ヒャダルコが断れる可能性はゼロと同義である。
あれよあれよと踊りの輪の中に拉致されていった。