一方、時計台にいるアーヴァインとヒャダルコであるが
必死になだめすかしてみてもアーヴァインはダメだった。
本番に弱いらしい。ふざけたりかっこつけたりなんとかしようとしたけどダメだった、という。
「いいから撃て」とヒャダルコは容赦ない。
「僕の銃弾が魔女を倒すんだ。歴史に残る大事件だ」
そう。そしてアーヴァインは魔女が味方になったと喜ぶ市民を見ているのだ。
ガルバディア・ガーデンの生徒はよくデリングシティにあそびに行っているだろう。
見知った笑顔があったのかもしれない。
たかだか学園と軍人の依頼でその笑顔を摘み取っていいのか。
17歳の彼に判断できるはずはない問題である。
「もうしゃべるな! 撃て!」
しかしヒャダルコはアーヴァインの気持ちを想像できない。
授業だから 命令だから 仕事だから
常に自分の行動を他人のせいにして、自分の気持ちを見つめることなく
その結果迷いなく生きてきた人間にはアーヴァインの悩みはわからない。
「アーヴァイン・キニアス。落ち着け」
ここが正念場だ。珍しくヒャダルコが饒舌になっている。
「みんながお前を待っている。
 外してもいいから撃て。さきのことは俺たちに任せればいい。
 ただの合図だと思えばいい。俺たちに行動を起こさせるサインだ」
「ただの合図……」
これは効果的だった。
一人で歴史を変えるのではない。少なくとも時計台に三人、凱旋門に三人、大佐邸宅に一人
それぞれのガーデンに少なくとも一人ずつ
重責を一緒に持つ人間がいてくれる。
弾丸がイデアを殺してその時点で終わったとしても
その行動の始末は自分ひとりではなく最低九人でもつべきものだと教えてもらえた。
それで少し楽になったようだった。
ヒャダルコはうなずいた。そうだ、ただのサインだ。
「たのむ」
「……ただのサイン。」もう一度つぶやき、アーヴァインは腹を据えた。
腹を据えたら動作にはよどみがなく狙いは正確だった。
しかし、魔女の見えない防御で止められてしまう。
「気にするな。狙いは正確だった。あとは俺に任せればいい」
思わず脱力するアーヴァインをヒャダルコはなぐさめた。
「俺は今から魔女に突っ込む。アーヴァインとパルプンテも念のため装備をしておけ」


官邸の演壇から飛び降りた、下の広場はなぜか乱戦になっていた。
どういうことだろう。
同時にカーウェイ大佐が魔女反対派を動かしたのだろうか。
とにかくヒャダルコは止めてあったオープンカーに飛び乗り


とびだすな おれはぜったい とまらない
そんな交通標語をほうふつとさせる勢いでパレードカーのところまで突っ走る。
迎えるのは魔女イデアと嬉しそうなサイファーだった。


「こういうことになった。よろしくな」
サイファーはどうやらヒャダルコのことを覚えているようだった。
洗脳というわけでもないらしい。
彼なりの選択で魔女の味方についたのだろう。試験、試験の毎日で疲れたのだろうか。
「魔女のペットになったのか?」
というヒャダルコの皮肉にも
「魔女の騎士と言ってくれないか?」
動じない。それにしても騎士って。恥ずかしい奴だなあ。
「これが俺の夢だった」
そうなの?
魔女戦争〜電波障害と世の中は魔女に対して悪いイメージだけが膨らんでいただろうに
そんな中でサイファーは魔女のために戦う騎士になりたかったのか。
サイファーの見ていた魔女は一体どちらなのだろう?
イデアが否定した、恐怖の存在としての魔女のイメージなのか
あるいは本当の姿なのか。
無理を通すことこそが生きがいであり退かない媚びない顧みないサイファー様だから
破れてもなお強烈な印象を残した魔女の力に純粋に憧れているのだろうか。


戦いがはじまった。
くそっ! サイファーめ、わかってやがる。
いつのまにかかけられた回復魔法でヒャダルコのHPが満タンになっていた。
うおお! これじゃ連続剣が出せない。
恐怖を感じながら切りつける。普通に切るの、久しぶりだ。
こちらはR1がうまくはまると600くらいダメージがあるが
サイファーは相変わらずR1が押せていないようで100がいいとこである。
そして三回切り結んだ時サイファーの夢はくだけ散った。
「この俺が負けただと?」
「腕が落ちたな、サイファー」
ちょっとまてヒャダルコ
サイファーは師匠を身につけていないんだぞ。
それなのにHPが1200以上あったんだ。
電波塔で最後に見たサイファーは600くらいだったと思う。
懲罰室から抜け出す大乱闘に魔物がうろつくガルバディアを一人で踏破した日々
そして放送局でのガルバディア兵士へたいする雑魚散らし。
それらの戦いの日々はサイファーをまったく別種の生き物に変えたと思うのだが。
このサイファーとヒャダルコが師匠なしでやりあったら絶対にかなわないと思う。
なんかさ、要領のいい奴が結局成功するんだよな。
いやな哲学を撒き散らしているゲームだな。


お気に入りの騎士が蹴散らされ、魔女イデアヒャダルコを無視できなくなったようだ。
「……SeeDだな?」
おお、ご存知か。世捨て人の魔女にもSeeDブランドは響いているらしい。
「……腐った庭に撒かれた種か」
ん?
この世界は日本語と英語のチャンポン(つまり、限りなく現代日本語に近い)ようだから
庭は「ガーデン」のことで種は「SeeD」のことだよな。
SeeDという種子そしてそれを芽吹かせたバラム・ガーデンを魔女は敵視しているらしい。
この「ガーデン」がバラムのみか三ガーデン全てかはまだわからないが
少なくともバラムの庭の種子たちは魔女に害をなすものとして撒かれたらしい。
撒いたのはマスターか学園長かと考えれば明らかにシドだ。
てえことはなんだ。
シドは魔女のことも視野にいれてSeeDを育て始めたってことなのか。
ガルバディアに協力する魔女の存在が明らかになったと時をおかずに
いちばん最寄にいたと思われるヒャダルコたちにイデア抹殺指令が下されたのは
金でしか動かないSeeDという概念から外れたおかしなことだと思っていたが
あるいはこれは依頼ではなくシド学園長の独断か
魔女に対抗することがSeeDの存在理由だとしたら自然な行為なのかもしれない。


とにかく魔女が学園の敵ならイデアヒャダルコの敵である。
サイファーごときでは連続剣を出すほどのダメージをくれなかったが
魔女ならば相手に不覚なしだ。
刀のさびにしてくれる! と意気込んだところに
パルプンテとアーヴァインもやってきた。
「ひとりじゃなければやれるから!」
一人だろうがなんだろうが、一度戦いの怖さを思い知ったのに
それも魔女が生み出した怪物ですら怖かったのに今度は大本命である。
やれる、と自分に言い聞かせてはいるものの恐ろしい思いは消えないだろう。
それでも来た。父親への反抗だろうが子どもの意地だろうが
ここまでやれば立派なものだ。
そしてアーヴァインも参戦する。
「あのままじゃカッコ悪いからね」
ガルバディア国民からみれば、魔女に対して戦うヒャダルコは明らかに悪である。
それなのに、見知った人間がいるかもしれないこの街で
ヒャダルコの味方をするためにやってきた。
これまで〔ガルバディア一国〕or〔学園・軍の利益〕で揺れていた秤が
〔ガルバディア一国〕or〔自分の仲間〕に変わったのかもしれない。
ヒャダルコのアーヴァインへの励ましは
けっこうプレイしている俺もぐっときたから
アーヴァインがころりとだまされてもわからない話ではない。


ってお前らもHP回復させてきやがったのだな。
今度はアーヴァインの速射弾を試してみたかったのだが。
仕方ない。
弟子入りしたもののその実力を拝見していなかった師匠たちに
能力お披露目の場を提供しよう。師匠、お願いします!
最初はにくこっぷん師匠だった。
デカ弟がイデアの立つ地面ごと持ち上げて放り投げる。
まるでキン肉マンをみているかのような強引なスローイングだが
技はまだ終わりではない。デカ弟とチビ兄とでじゃんけんをしていた。
どうやら負けたようで、デカ弟がぎょっとする。
兄はその弟を野球のノックの要領で空に飛ばした。
涙を流しながら自分が放り投げたイデア+地面に向かう弟の脳裏では
いま走馬灯が回っているだろう。
弟が地面にぶつかって粉砕し、沢山の瓦礫と一緒にイデアも落ちていった。
おつぎはだいだげき!師匠である。
イデアと三人の間に丸い穴が開いたかと思うと師匠がひょっこりと顔を出した。
あたりを見回し、危険がないことを確認すると
ぴょーんと飛び出して三人になんらかの守りをかけてくれた。
なによあなた。だいだげき!なんて名前なのにダメージはないのか。
そしてシメはあけみ師匠だ。
あたりはいきなり海になった。そして海面のでている岩山には師匠が座っている。
竪琴を奏でながら師匠が「ぼえ〜」とその美しいのどを震わせると
あまりの素敵さにイデアがダメージを受けた。


ちょっとちょっと! 師匠は中止!
イデアは平気でサンダガだのファイガだのつかってくるのですよ。
ドーピングしてHPが無駄に高いヒャダルコたちならともかく
師匠たちがこんなのくらったら二発で死にます。
師匠たちにはお控えいただいて、地道に付き人が殴ることにする。
「こしゃくなSeeDめが」
いい調子で戦っていたと思うのだが、イデアはまだまだ本気を出していなかったようだ。
頭上に氷の刃が生まれそれをヒャダルコに投げつける。
はっとするパルプンテの脇を通り過ぎ、氷の刃はヒャダルコの右わき腹に突き立った。
即死か、少なくとも一撃で意識不明になりパレードカーから転げ落ちるヒャダルコ
あわててパルプンテが手を差し伸べるものの
その目にはもう何も映っていなかった。


ここでDisc1が終了した。
きりのいいところだし、プレイ時間もたいへんなことになっているので終わることにする。
これまで14日間ゲームしているのだが
なんと累積プレイ時間が24時間だ。
一日2時間弱やっていることになる。ちょっと何とかしないと。