Disc3になったというのに、ヒャダルコは相変わらず部屋でごろごろしている。
あれからどれくらい時間が経ったのだろう。
イデアは正気を取り戻し、ガルバディアは魔女の支配から抜け出したことだろう。
ガルバディアの政治は一時的にカーウェイ大佐が掌握するのではないだろうか。
彼なら悪いようにはしない。
魔女に更迭された人間ということで各国ともうまくやれるだろう。
そんな安心ムードでヒャダルコは虚脱している。
(……終わったのか?
 ……何が終わったんだ?
 ……終わったのは
 ……終わったのはパルプンテの)
え? パルプンテは死んだのか? と不安になったものの
意識を失っただけらしい。保健室で寝ていた。
それを見下ろすヒャダルコに、キスティス先生の放送が響いた。
『急いでイデアの家へ行ってちょうだい』
まませんせいがイデアの家へ帰っているらしい。
パルプンテも心配だが、やはりまませんせいから話を聞かなければなるまい。
主がいないときはイベントが起きなかった石の家も、今度は中に入ることができた。
メンバーは、ゼルとキスティス先生を連れてきたが
関係者であるセルフィとアーヴァインも無断でついてきた。
「まませんせいにはいろいろ聞きたいことあるよね〜」
その通りだ、アーヴァイン。理不尽な謎もここで打ち止めになってくれるはずなのだ。
「あたし、ヒャダルコのあとから行くからね。いいよね? いいよね?」
何言ってんだいまさら。里帰りじゃないか。みんなで行こう。


ガーデン設立時に、おそらく最後の子どもたちであるサイファーとヒャダルコがガーデンに移った。
つまり、この家に人が住まなくなって最長で12年だろう。
それにしては不思議なくらいに石の家は廃墟と化していた。
ガルバディアともバラムとも似つかない石造りの建物は
あえて分類するならセントラ遺跡に近い。
もしもセントラ時代の石造りの遺跡を孤児院として利用したのであれば
12年でこれほど崩れるほどオンボロな設計じゃないと思うのだが。
なんらかの戦争に巻き込まれたのだろうか。
ラグナがなぜかセントラ遺跡に派遣されたのは
そこからエスタがなにかを発掘していたからだ。
つまり、エスタにとっては要地だったと思われる。
あるいはエスタ本土 vs ガルバディアの戦は終わったものの
この地に残っていたエスタ兵に攻撃されたのかもしれない。


石の家でひょっこりと出てきたのは
この大変な時に隠れていた学園長じゃないか。
「……ああ、ご苦労様でした。……アハハ」
シド学園長にはもう威厳というものが感じられなかった。
いやもともとなかったんだけど、せめて偉そうにする気概は以前はあったのだ。
その心労の度合いは想像もできないものだと思うけど
それでも大人として、責任者だった人間としてあまりにもがっかりなふるまいだった。
「怒ってますか? ……アハハ、そうですよね。
 私は……えらそうなことを言い続けてイザというときに逃げ出したわけですからね」
怒る人間の気持ちもわかるが、これはまた仕方ないのかもしれないな。
種をまく人と、その果実で調理する人が一緒じゃなくても別にいいわけだし。
シドはSeeDという種をまいて、それが無事にイデアを正気に戻した。
それでもういいんじゃないだろうか。
でもまあ、何度でも言うがシド個人に対してははなはだしくガッカリだけどね。
俺は種をまいた。おまえたちが育った。だからあとはがんばれ。ちょうがんばれ!
そう言い張ってくれたらまだ共感することができるのだが。
「君たちの敗北は君たちを失うこと。君たちの勝利の報告は妻を失うこと。
 どちらも……耐えられそうにありませんでした。私は……いいです。
 ただ、イデアは許してください……」
シドはそういい残して廃墟から外に去っていった。
ついていくと、灯台が見える中庭にシドが立っている。
背後にかばっているのはイデアだろう。
あー。
なんか、その姿だけでこの学園長を全部許せそうな気になったよ。
イデアはかばわれているだけではなく自分から近づいてきた。
「……ごめんなさい。私の子どもたち。
 本当の子どものように思って育ててきたあなたたちを私は……」
「俺たちも同じです」
ヒャダルコがめずらしく慰めを口に出した。
本当の母親のように育ってきた相手を『敵』と断定するのは
なんどもなんどもそれを念押ししたようにヒャダルコにとって苦しかったのだろう。
ヒャダルコの狭い世界はずっと
おねえちゃん、まませんせい、ずーっと小さくなってサイファー、最近になってパルプンテと仲間たち。
こんな成分でできていたのだろうから
その限られた他人の一人を敵にしなければならない事態は
狭い世界を揺るがすほどの不安だったろう。
それを乗り越えたからこそ
まませんせいの苦しみも思いやってやれるようになった。


イデアは続ける。
「あなたたちはSeeDですから戦いを避けるわけにはいきません。立派でした。
 でも、まだ終わったわけではありません。こうしている瞬間にもわたしはまた……」
やっぱり、イデアの意に沿わない行動だったのだ。
「私はずっと心をのっとられていました。私を支配していたのは魔女アルティミシア
あれ? アデルではないのか。
アルティミシアは未来の魔女です。私の何代も何代もあとの遠い未来の魔女です」
なるほど。
だから、イデアの身体にいたアルティミシアにとって、SeeDが伝説になる時間があったのだ。
アルティミシアの目的はエルオーネを見つけ出すこと」
でもおかしいな。
エルオーネの時間遡行は、複数であってもラグナたちの心を乗っ取ることまではできなかった。
アルティミシアの場合はイデアの自由を奪っている。
どうしてアルティミシアはエルオーネを狩ろうとしているのだろうか。
でも、これでわかった。
アデルもアルティミシアに乗っ取られたのだ。
それでエルオーネを手に入れるためにウィンヒルに兵を差し向けたが
ラグナのおかげで失敗してしまった。
おそらく、過去の意識を乗っ取る術に
『100年まえで失敗したから今度は120年前に〜』というようなやり直しはきかないのだろう。
アデルの代で失敗したアルティミシアは、今度はイデアに目をつけたのだ。
「私はエルオーネをよく知っていました。
 アルティミシアは恐ろしい魔女です。心は怒りに満ち溢れています」
イデアがエルオーネを知るようになったのは石の家に引き取ったからだろう。
子どもたちの一人で、自分を助けてくれるおねえちゃんを
そんな怒りんぼに渡すわけにはいかないと思うのも当然だ。