それにしても。
セルフィいわく、過去を変えたい原因はただ一つである。
現在が幸せではないこと。
何世代もあとのアルティミシアの心が怒りに満ちているということは
その時代は魔女にとっての暗黒時代なのかもしれない。
魔女に対する恐怖が排斥を呼び、排斥に対する抵抗が恐怖を育み
今よりもずっとずっと魔女にとって住みづらい世の中なのかもしれない。
でも、その現在をなんとかしようとアルティミシアが選んだ方法は
アデルやイデアを使っての恐怖政治だった。
それではさらに魔女への憎悪をかきたててしまう。
本人もその悪循環に気づいているのだろうが
もう抜け出せないところまで来ているのかな。哀れな女である。
「そんな魔女にエルオーネを渡すわけにはいきませんでした。
 私にできることは……。
 私の心をアルティミシアに明け渡して私自身をなくしてしまうことでした。
 そうしなければエルオーネを守れなかったのです」
それがどういう理屈になるのかわからないが
ラグナたちは当然ヒャダルコたちの憑依に無意識に反発したろう。
アルティミシアは空き家となったに入り込んだから、イデアを利用できた。
そうなると、エルオーネの複数同時過去遡行憑依はアルティミシア以上の能力ともいえる。
「その結果が……みんなの知ってるとおり。
 ガルバディアに現れたのはアルティミシアに屈した私の抜け殻でした。
 アルティミシアはまだ目的を果たしていません。
 だから、また、私の身体を使って行動を起こすでしょう
 今度は私も抵抗するつもりです。でも……それでもだめだったら……。
 あなたたちとふたたび戦うことになるでしょう。
 たのみますよ、SeeDたち」
つらいことを言うね。
「あなたがたは魔女アデルのことをきいたことがありますか?
 ガルバディアの人々は、私が魔女アデルの力を引き継いだ現在の魔女だと思ったようです」
それが違うということを、シド先生の話からヒャダルコたちは知っている。
シド先生は、彼女は子どものころから魔女だったといっていた。
アデルが君臨する以前のことである。
「でも、私は違います。私は五歳くらいのときに先代の魔女から
 力を引き継いで魔女になったのです」
ということは
「魔女アデルは生きているのだと思います。そしてアルティミシアが私の身体を解放したのは……。
 魔女アデルの身体を使うためではないでしょうか……」
あら。
つまり魔女アデルはアルティミシアに乗っ取られてエスタを支配したわけではなくて
それ自体が本人の意思だったってことか。
いつの時代も魔女は大変なんだな。


「魔女アデルは力を自分の欲望のために利用することをためらわない魔女です」
しかしわからない。
アデルはどうしてエルオーネをもとめてウィンヒルを攻め立てたのだろう。
でも考えてみたら、エスタのウィンヒル侵攻がエルオーネ目当てだとは限らないことに気がついた。
ラグナがウィンヒルにやってくる二年前、最後のウィンヒル侵入のとき
おそらくレインの家にエルオーネを隠し、エルオーネの両親は殺された。
でも、軍隊の目的がエルオーネだったら隠し通せるとは思えないのも事実である。
「そのアデルに未来の魔女アルティミシアの力と怒りが入り込んだら
 その恐怖はどれほどのものか……」
もう、聞けるのは泣き言だけだろう。
そう判断したヒャダルコが立ち去ろうとする。
ヒャダルコは一刻も早く帰りたそうだ。
(まま先生の話を聞くのは大切。そんなことわかってる。でも、パルプンテが……)
お前、変わったなあ。
ガーデン突入の直前には『みんなが俺たちをくっつけようとしている』
なんて、嫌がってもいないようだったが喜んでもいないようだったのに
いざ自分に惚れていると思っていた女が目の前で昔の男にキスしたくらいで
いきなり独占欲を発揮するとは。
これだから恋に免疫のない男は怖い。
「まませんせい、パルプンテに何が起こったのかわかりますか?」
パルプンテの容態は常識では考えられないものだ。
アルティミシアに何かされた可能性は捨てがたい。
ならば、同じ魔女のまませんせいなら何かわかるかもしれない。
パルプンテというのは……水色の服を着た女の子ですね?
 かすかに覚えています。何があったのですか?」
「ママ先生との戦いに参加しました。戦いが終わって、気がついたら……
 身体が冷たくて、全然動かない」
そこまでを聞いてシドが驚いた。
パルプンテは死んでしまったのですか?」
ヒャダルコはむきになって否定した。とはいえ、お前の表現だけを聞くとそう思ってしまうよ。
しかしまませんせいは何もわからず、ヒャダルコはすねてしまった。
ヒャダルコ、気持ちはわかります。でも君は指揮官なのです。
 ガーデンの他の生徒たちも自分たちの戦いの結果や行方を知る権利があります。
 ここで聞けるだけの情報をガーデンに持ち帰りなさい。
 パルプンテだけじゃありません。みんなが戦ったのです」
シドの言うことは正しい。正しいのだけれど
正しい言葉を相手にそのまま聞いてもらうには、やっぱり普段の態度が必要なのね。
やっぱり言葉は内容(テキスト)ではなくて背景(コンテキスト)なのですよ。
「わかってます……でも」
「でも、けど、だって。指揮官が言う言葉ではありませんね」
ヒャダルコは憤りを込めて壁を殴りつけた。
どこからともなく
(……黒くなれ)
そんな声が聞こえる。


ヒャダルコがくよくよとパルプンテのことを気に病んでいる間に
みんなは事態の整理をしていた。まずはその会話からお届けします。
アルティミシアの目的はエルオーネ」
「エルオーネの不思議な力。人の意識を過去に送る力」
アルティミシアはエルオーネの力を使いたいんでしょ?」
「そうか、アルティミシアはこの時代からさらに過去へ自分の意識を送りたいんだ」
「過去で何をする?」
「時間圧縮」
「ジカンアッシュク?」
「時間魔法の一つ。過去現在未来が圧縮される」
「世界はどうなっちゃうのかしら? そんなことしてどうなるのかしら?」
「時間が圧縮された世界なんてぜんぜん創造もできないよ〜」
「おい、ヒャダルコ!」「ぜんぜん聞いてない〜!」
またわけのわからないことを。
つまり、人間を過去に送る能力にはおのずと限界があるらしい。
たとえば限られた年月しかさかのぼれない、とか
自分の見知った人間の心にしか移動させられない、とか。
過去にさかのぼらせる力は、代々続く魔女の力とは別ものらしいが
エルオーネが自然発生的に得たのではなく、もしかしたらこれもまた受け継がれるものなのかもしれない。
アルティミシアは、同時代のその能力者の存在を知り、それが累々と続く力だと知り
とりあえず自分のいける限りの過去にさかのぼり、そこで誰かに憑依した。
その時代でまた時間遡行の能力者を探し出し、そいつを使って過去にさかのぼった。
そうしてようやくこの時代にまでさかのぼってきたのだろうか。
ご苦労様です。
それはそれとして、アルティミシアの目的だが
時間圧縮? なんじゃそりゃ。
4次元の時間軸(仮にtとする)の概念をとっぱらってしまうことになるのかな。
そうすれば、一つの世界にそれまでの全ての人間がいられるようになる。
でも、どういう世界になるんだそれ。
たとえば14年前の石の家と現在の石の家を重ねると
ちびヒャダルコといまのヒャダルコが話せるようになる。
ヒャダルコたちは動けるので、X,Y,Zを移動することで同時に二つの物質が同じ場所に存在することを防げる。
でも、石の家という建造物は移動ができないから、14年前の石の家と現在の廃墟とが同時に存在しようとする。
そんなことはもちろんできないから、t軸をとっぱらうなんてことはできるはずがないのだが。
わけわからん。
今後のトンデモ真相解明を待ちたい。


一方で、ヒャダルコパルプンテの思い出を追っている。
(初めて会ったのはSeeDになった夜。再会は……ティンバーだったな)
(最初は言い合いばかり。でも、だんだん変わってきた)
(ふと気づくとあんたは俺のほうを見ていた。目が合うとほほえんだ)
(おだやかな気持ちになった)
パルプンテ……俺にはもうチャンスはないのかな)
「おい、ヒャダルコ!」「ぜんぜん聞いてない〜!」
なんだ。そっけないようにしていたけど
ヒャダルコも実はパルプンテに癒されていたのか。
まあ、目の前でキスされて暴走している独占欲がそう勘違いさせている可能性はあると思うが。
というところで今回はここまで。
とりあえず敵の顔が見えたと思うのだが
また、わけのわからないことが増えた。
アルティミシアの目的は?
アデルはいまどこにいるのか?
エルオーネはいまどこにいるのか?
あるじを失ったサイファーはどこへ行くのか?
パルプンテはなぜ意識を失っているのか?
目覚める日が来るのか?


目覚めたら目覚めたで、色ボケしてる主人公が吐くだろうセリフに俺は耐えられるのか?