急転直下でパルプンテ一色になってしまったヒャダルコだが、とりあえずすることをしなければ。
エスタにアデルが生きているかもしれないというイデアの情報を信じるなら
アルティミシアイデアに乗っ取りを仕掛ける前にアデルを無力化する必要があるだろう。
しかし一つ問題がある。
これまでぐるぐると色々回ったが、エスタへの上陸ポイントを見つけたことがないのだ。
F.H.から歩いて行けるらしいが、F.H.のあの駅の廃墟には
ヘイストのドローポイントはあってもエスタへのスクロール切り替えがあるとはあまり思えない。
となれば、勢いで動いてはならない。地理で困ったときはシュウ先輩である。
そう思ってブリッジに向かおうとしたら
ムダに身体を動かしている男がいた。
よう、ゼル。
お前って、周りの人の視線とか気にならないのか?
しかしゼルは当然他人の目など気にならず
彼が心配しているのはパルプンテの容態らしい。
だったら保健室に見にいけばいいのに。
トラビアで二人で待ってたときも微妙に距離を置いていたし
仲間だと思っているし、その危機にはもとすごくうろたえておきながら
まだ遠慮があるらしい。
「まだ、意識はもどらねえのか? 気ぃ落とすなよな。そのうち元気に、飛び起きるからよ」
ああそうか。
飛び起きられた時に、同じ直球タイプのキャラでありながら理不尽さで負けるゼルは
自分の影が薄くなることを本能的に知っているのだな。
確かにゼルが最後に印象に残っているシーンは
ティンバー大作戦の前の集合である。
それ以来、妙に漂う「戦闘じゃなければいてもいなくてもいい」感を
本人はパルプンテのせいと結論付けているのだな。
ともあれ。
これはもしかして、飛び起きるフラグが立ったのだろうか? ブリッジより先に保健室に向かってみよう。


保健室に行くと、ちょうどカドワキ先生が出かけるところだった。
あとは頼むって先生。無用心だな。
ヒャダルコが来なかったら一人で取り残していくつもりだったのか?
意識を失っているんだから、危険が迫っても目が覚めるわけじゃないのに。
そして黙っていれば美少女なのに。
まあ、この船の中ではヒャダルコの愛人だと思われているだろうから
いいんちょの愛人に手をだす馬鹿はいないということか。
ヒャダルコはベッドの脇にひざまづき、額に手を当てた。
フラグが立ったかという予想に反してパルプンテは目を覚ます気配がない。
やっぱりゼルではゲームは動かせないのだな。
それにしてもパルプンテの身体は冷え切っていた。
額に触れても、手袋越しにもわかるくらい冷たかった。
冬山で零下5〜6度の山小屋から出発する時に
アイゼン(足の裏の棘)をフリース手袋だけでつけようとするとようやく寒さを感じる。
つまり、パルプンテの身体は今零度に近いのだ。
大丈夫か? みんな勘違いしていないか? 本当は死んでるんじゃないのか?
「俺には何もできないのか!」
ヒャダルコは苛立って叫んだ。
気持ちはわかるよ。共感できないけど。
ようやく素直になろうと思った矢先に昔の男へのキスを目撃して
なおかつ不自然に意識不明になられたんだものな。
氷の感情をもつヒャダルコもさすがに参っているようだ。


「俺あんたの声が聞きたい……」
そういうことは生前に言ってやればよかったよな。
(これじゃあ、壁に話してるのと同じだ)
相変わらずヒャダルコは面白いな。
壁に話すのがどんなに辛いかわかったか?
だったら今すぐキスティス先生に土下座しに行きなさいよ。
SeeD認定式の夜、悩みを打ち明けようとしたキスティス先生に言った「壁に話してろよ」は
お前の人生でも一二を争う名言だと思うよ。
まあ、ヒャダルコも人の心の痛みがわかるようになったと思うから
次に会った時には謝るのだろうか。
いや、このまま死んだままなら死んだまま、生き返ったらそれこそ
自分の暴言をふりかえる余裕などないだろう。
とりあえず今はキスティス先生のことなど頭のどこにもなく
ただただヒャダルコパルプンテの回復を祈っている。
すると、突如意識を失った。
この感じはアレだろうか。
このゲームの癒し担当の時間がやってきたのだろうか。