あれ? 一周してしまった。
ということは、セントラはここだけではないのかな?
と、北にある大陸に上陸して地図を確認すると、なるほどこちらもセントラである。
しかしここ、小島も入り江もとんでもなく多いぞ。
げんなりしながら周回を始めると、半分ほどまわったところで白いSeeDの船を見つけた。
「君たちは……?」
バラム・ガーデンのことは知っているだろうが
それでもわざわざやってくるとは思わなかったのだろう。
白いSeeDの船の代表者は警戒していた。
手紙をもらっておいてよかったよ。
「……エルオーネにあわせて欲しい」
リーダーは驚いたようだった。
イデアはもうアルティミシアの支配から逃れた。そうヒャダルコに教えられ
エルオーネを保護するために来たのだといわれても白いSeeDは信じなかった。
どうしてだろう。もともとエルオーネはバラム・ガーデンにいたこともあるのだし
イデアがガルバディアから消えたことは知っているだろうに。
まあ、エルオーネは彼らにとったら家族だから
この船に恋仲の人間がいたって自然ですらある。もしかしたら彼がそうなのかも。
いきなりでてきて引渡しはしないだろうな。
お引取り願おう、そういい捨てられて彼らは散ってしまった。
渡さないといったら渡さない。まさか同じイデアの子どもが実力行使には出ないだろう?
そういう信頼は感じられる。あるいは同じSeeDのよしみで
いろいろ見せてくれるつもりかもしれない。探検してみることにする。
でも、一人に話しかけてみたら
「……話すことはない。そう聞こえなかったか?」
冷たいじゃないか。
舳先では、女性のSeeDが子どもたちにお話をしていた。
子どもたちは、ヒャダルコたちと話すなというリーダーの指示を不思議に思いながらも
彼を信じてヒャダルコたちを無視する。
母であるイデアがいなくなってから、彼らは合議制ではなくリーダーに全てを任せることにしたようだ。
兵站をシュウ先輩が、精神面のケアをキスティス先生とカドワキ先生が担ってくれても
ヒャダルコの重責は重かった。
おそらくヒャダルコよりは年長とはいえリーダーの心労と警戒は並大抵のものではないだろう。
それがわかっているから、船の仲間たちも彼の判断には従うのだ。
気分のいい奴らじゃないか。
とりあえず、リーダーにイデアの手紙を見てもらって判断してもらおう。


と、思ったらワッツだ!
森のフクロウのガセネタ担当のワッツがなぜかいる! 相変わらず〜ッスって言ってる。
お前無事だったのか。もしかしてゾーンもいるのか?
おお。森のフクロウの腹痛担当であるゾーンも無事だ。久しぶりだなあ。
「こんなところで会うとは思わなかったッス! みんな元気だったッスか?」
ゾーンの話によれば、ガルバディア兵に追われていたところを拾ってもらったらしい。
やっぱりティバーにはい続けられなかったんだな。
どこで拾ってもらったっていうと、勢いあまって海に逃げたらしい。よくもまあ命があったもんだ。
「あれ? ……パルプンテは?」
来た。
この質問が来た。ちゃんと教えないと。彼女の生前の雄姿を。まだ死んでないが。
「……魔女だったイデアと、俺たちは戦った。
 その戦いの後から、ずっと意識がない……今もガーデンで眠っている。
 どうしてそうなったのか……わからない。
 俺たちはクライアントを……パルプンテを……守れなかった
 すまない」
やはりゾーンは怒った。そりゃそうだ。
大枚(?)はたいて雇ったSeeDである。
一緒に活動していた頃はなにかにつけて馬鹿にされた。
それがこの体たらくである。
怒って当然だ。
しかしたしなめたのはワッツだった。
ヒャダルコたちが……パルプンテをみすてるわけないッスよ」
そ、その通りだ。見捨てるわけないっすよ。
彼女が意識を失うほんの数時間前にヒャダルコはアーヴァインから
「あんた今あきらめただろ?」
と図星を突かれているのだがそのことは黙っておこう。
「俺たちが、この船にエルオーネを探しに来たのは
 ある人物より先に保護するのが目的だ……
 でもエルオーネにパルプンテをあわせることができれば……
 うまくいけば……もしかしたら、パルプンテを」
これはヒャダルコの本心である。
そして、ガセネタとはいえ情報にまみれてレジスタンス活動をしてきたワッツは
その本心を感じ取ったのかもしれない。
そのワッツにふたたび言われ、ゾーンもしぶしぶながら納得した。


お。
ワッツのガセネタコーナーだ。根掘り葉掘り聞いてみよう。
まず一つ。この船にいるSeeDはみな子どもらしい。
みな、孤児たちなのだから、大人になって自活できるようになったら船を下りるわけか。
今は上は17あたりから、面倒を見られる子どもたちがほとんどだという。
なんとエルオーネはここにはいないで、今はエスタ兵に迎えられてエスタにいったのだという。
エスタにさらわれたのに? どうして?
ただ、ラグナはレインの死に目に会えなくてエルが知っているところから
エルがのちにレインの死に目を過去にさかのぼってみたのでもない限り
レインはラグナ以外の事情で帰ってきたことになる。
魔女アデルがいなくなって反省したエスタが返してくれたというのがいちばんわかりやすいから
その経緯で要人と知り合いになったのかもしれない。
エルオーネにとってはエスタはそんなに悪い場所じゃないのかもしれない。
しかしそれは、ア行の魔女たちのことを考えると危険な行為だ。
すぐに確保しなければ。
リーダーに手紙を渡したら、さすがにまませんせいの筆跡を見分けてくれた。
彼らもまませんせいと呼ぶのか。そのことをヒャダルコがたずねると
「僕たちを育て、教えてくれた人だから」
子どもたちが単なる母親じゃない、単なる先生じゃないと思っているのなら
イデアはやはり教育者として少なくともシドよりは立派だと思う。
「俺たちも子どものころ、イデアに育てられた。
 いろいろなことがあってイデアと戦った。その結果、イデアを取り戻した。
 恐ろしい魔女イデアは優しい魔女イデア……まませんせいに戻った」


リーダーはその話を聞くと敬礼してくれた。SeeD式の、右腕の甲を顔の脇に見せる敬礼だ。
「敬礼まで同じなんだな」
「SeeDを作るときに敬礼だけは決まってたってまま先生が言ってたよ」
そうなのか。それもまた、ラグナの映画の影響とかなのか?
過去は現在につながっているけれど
ここまであざとく過去の代名詞がラグナだとちょっと気持ち悪いが。
とにかく、敬礼のことは覚えておこう。FF8のことだから何かあるはずだ。
そしてリーダーがエルオーネをおろした経緯を教えてくれた。
F.H.の近海でエルオーネを回収したあと彼らは魔女イデアから遠ざかるために東に向かったのだが
しかしガルバディアの船団に遭遇してしった。
全速力で逃げ出したが船が故障して、戦闘の準備を始めた時にエスタの船が現れた。
そこでエスタか! 情報封鎖を破ってまで何をしに出てきたのか。
普通に考えると、魔女アデルの反動で魔女憎しの一念に凝り固まっているために
ガルバディアに現れたイデアに対抗しようとしたのだろうが。
SeeDの船はガルバディアとエスタの海戦にまきこまれてしまって
横付けしてきたエスタの船は、避難するため乗り移るように言ったという。
しかしリーダーは拒否した。
説得をしても無駄だと知ったエスタの船があきらめて離れようとした時
なんとエルオーネが何か叫びながらエスタの船に飛び移ったという。
それはまったく『エルオーネらしくない』行動だったという。
何かに操られたりしたのだろうか?
そういえば直前に見たラグナの夢のとき、エルオーネは寝ていた。
自分が寝ていることすら気づかない不自然な眠り方だった。
はたして本心からエスタにいたいのだろうか?
ともあれ、エルオーネがエスタにいるのはおそらく決定だろう。
さあF.H.から歩いていこう。出航だ、ニーダ!


と、今日はここまでにしようと思って
何気なく保健室に行ったら
なんとヒャダルコパルプンテを拉致した。
お前……!
(悪いな、みんな。このままじゃ俺は何もできないんだ)
ちょっと待て!
まませんせいが、エルオーネをアルティミシアに渡しちゃいけませんって言っただろ!
お前は堂々と、偉そうな顔をしてゼルやらセルフィやらをつれて行けばいいんだよ。
真の魔女に対する戦いは、やっぱりバラム・ガーデンの戦いだ。そんなこといえば
みんな歯を食いしばりながら応援してくれるって。
しかしヒャダルコはそんなこと考えもせずパルプンテを背負って二階の出口から出ようとする。
どうやらもうF.H.に到着はしているらしいのだが
当然頼りになる仲間たちはいない。
お前は、パルプンテを心配するみんなの言葉を聞いていたのか?
「ちょっと遠いけどなんとかなるだろ」って
確かにゆうざん師匠に蚊取り線香を焚いてもらえば
敵は出てこないが、それでも退屈するじゃろうが。
食いもんとかはどうするんだ。
しかしもう戻れない。
仕方ない。みんなが気づいてくれて追ってきてくれるのを期待するとしよう。


それにしてもなにやってるんだ、ヒャダルコ
F.H.もスルーして延々と線路を歩く。
遠いなあ。
(こんなに遠いとは思ってなかった)
さっそく後悔し始めているんだろうか。
ぐるぐるとヒャダルコの思考はまわる。
(俺……なにやってるんだ?)
エスタに行って……エルオーネ探して……エルオーネに会って……。
 エルオーネに会えば何もかも解決するとは限らないんだぞ)
この言葉ではっとさせられた。
そう。それがずっと、ヒャダルコの基本姿勢だった。
『××をしたって、うまくいくとは限らない。だから何もしない』
失敗を恐れる性格だから、努力などで克服できることは努力して優秀な結果を残すが
そもそもできないことにダメでもともとのチャレンジはしない。
そういう性格の子だった。
でも、パルプンテを思うあまりに、ほんの小さな可能性にもかけようとしている。
はっきりいって暴走だが
それでもめざましい変化だと思う。
(俺……変わったな)
ほんとにな。でももう少し落ち着いてくれてもいいんだけどな。
まあ、これまでの抑圧が強すぎたから
その反動でこんな無茶をしてしまったのだろうが。


歩き疲れてパルプンテを座らせて夕日を眺める。
思うのは同じくらいに大事になった仲間のことだった。
みんなどうしてるかな。俺のこと笑ってるかもな。怒ってるかな?
「どう思う?」
しかしパルプンテは答えない。だからか、ヒャダルコは素直になれたようだった。
「俺……本当は他人にどう思われてるか気になって仕方ないんだ。
 でも、そんなこと気にする自分も嫌で……。
 だから……自分のこと、他人に深く知られたくなかったんだ。
 そういう自分の嫌な部分。隠しておきたいんだ。
 『ヒャダルコは無愛想で何考えてるかわからない奴』
 みんなにそう思われていればとっても楽だ」
パルプンテは答えない。
「今の、みんなには内緒だからな」
また歩き出す。
線路が終わった。
そしてキスティスとゼルに待ち伏せされていた。
「遅かったわね、ヒャダルコ
「姫様はまだ眠ってるのか?」
ヒャダルコは言葉もない。
「王子様がキスすれば目覚めるかもね」
やめろ、そんなかさぶたにもなってないトラウマをえぐるの。
「そんなこと言うためにここに来たのか?」
ヒャダルコ、珍しくうろたえてます。


彼らはイデアの護衛としてエスタに向かうのだそうだ。
イデアは、エスタでオダイン博士に会うつもりらしい。
オダイン博士といえば、擬似魔法の技術を確立させたり
魔女の力を抑制する(不発だったけど)物を作ったりと意欲的な科学者じゃないか。
エスタの人間だったのか。そして生きていたのか。
会ってどうしようというのか。
「魔女アルティミシアは生きています。彼女はいつでも私の身体を支配することができます」
それを防ぐために、博士の助力がほしいのだと言う。
「私だって自分はかわいい。自分の身は守りたい。
 かなうならば魔女の力を捨ててしまいたい。
 オダイン博士ならその方法を知っているかもしれない。
 私を救ってくれるかもしれません」


イデアの第一声が「自分はかわいい」だったことで
ずっとこのゲームに対して感じていた違和感がかたちになった気がする。
このゲーム、ほんとに英雄不在なんだな。
みんな自分のことで精一杯で、好きな女がいたり友達と一緒にいたかったり
劣等感を克服したかったり何も考えていなかったりロ〜マンティックだったり
誰一人として、世界と自分との対比を真剣にしたことがないのではないか。
「自分は幸せだけど、世界の全ての人間のためにいま最後の戦いに挑む」
とりあえずそんな奴はどこにもいない。
みんな自分か自分が好きな奴らのためだけに戦おうとしている。
それは等身大の英雄伝であって非常に楽しい。
俺はヒャダルコの成長物語としてこれを見ているからいまさら「世界のために」といわれてもきょとんとするだけだ。
でも、出てくる人間が全員自分のためだけに動いていると
それで、その結果世界が救われたとしても「万事うまく転んでよかったね」という感想になってしまうのだ。
まだDisc3で、4が控えている。
『無愛想で何考えてるかわからない奴』は、好きな女のために暴走できるくらいになった。
とっととパルプンテには目覚めてもらってとりあえず心の飢えを満たしてもらって
そのうえで世界のためにがんばってくれるのだろうか。
それともやっぱり、17歳の悩みと迷いと愛のまま世界を救っちゃうのだろうか。
個人的には、クライマックスはアルティミシアに挑むラグナ&エルオーネで
ヒャダルコたちはそのための露払いで出てきた
とんでもなく強くなったサイファーと戦うというくらいが
これまでの展開にはつりあっている気がします。