外に出たいんだけど、扉が開かないよう。
しかたなく最高権力者である大統領を追って、一度ルナ・ベース内部に戻る。
おーい、非常事態かもしれないがちょっと開けてくれ。
早いところパルプンテを連れ戻さないと、お前が17年間アデルを見守っていた苦労がフイになるぞ。
行ってみたら大統領がなにか騒いでいた。
ルナ・ベースを放棄するから避難しろという補佐官に対し
大統領は、自分はあとにしろと言い張っていた。
こんなのがエスタの大統領なのか。
自分の命が他の人間と同じ価値だと思っているらしい。
しかしそんな理屈は補佐官には当然通じず
文字通りひきずられて連れ去られてしまった。
たまたまその場にいたヒャダルコにエルオーネ護衛を任せて。
この周りを気にしない一途な責任感と
周りの人に丁重に扱ってもらえないキャラクター。
そしてエルオーネへの強い義務感。
まさか。
エスタの大統領はラグナだってんじゃあるまいな。
いやいや、ラグナだったらいくらなんでもエルオーネが教えてくれるはずだ。
だって、ヒャダルコの父親ですよ(推測)。
普通、父親が大統領だったらみんなそのことを話すだろう。
ジョージ=ブッシュじゃないかぎり。
あ、話さないかもしれない。


とにかく命令に従ってエルオーネのもとに到着すると
ガラスの向こうの真空の中ではまさに
パルプンテがアデルのところにたどり着いたところだった。
見守る中で封印を解除するパルプンテ
封印の知識もないパルプンテがどうして操作方法を知っているのだろう。
俺はアルティミシアイデアから乗り移ってパルプンテを操っていたと思っていたが
だとしたら操作方法を知っているはずがない。
まさか、あの大講堂でパルプンテに乗り移ったのは
ありとあらゆる電波を越え、60km以上の距離を超えた魔女アデルだったのだろうか。
……それにしても、アデルはでかくないか?
パルプンテの二倍くらいの身長があるんだけど。
しかも、魔女だよな。りりしい顔立ちで魔女にまったく見えないよ。
封印を解かれたアデルの目が妖しく光る。
酸素がなくて目が充血しているのかしら。
これはゲームだし、結局異世界だし
男みたいな外見だし、身長が四メートル近くありそうだし
「私は酸素がなくても生きていけるのよー!」
と言われそうな気がしてしまう。
いや、この顔を見る直前まではそんなことを言われたら憤慨しただろうが
この顔をして、このガタイをして
普通の人間と同じように酸素がないくらいで死んだらウソだろう。
だって考えてみてくれ。
もしも大統領がラグナだとしたら、アデルはたんまりとラグナの特殊技である『デスペラード』を食らったはずだ。
それでも生きている人間ですよ。
空気がないくらいで死ぬなんて、誰が言った?
とにかくお願いだから、目の前で死ぬ映像をだして安心させてくれ。
その結果パルプンテに憑依してもいっこうに構わない。
まだ『馬鹿女』の方が
『馬場よりでかい女』よりは御しやすそうじゃないか。