しかしアデルはパルプンテを置き去りにして
地球へと落ちる月の涙に飲み込まれていった。
アデルが死んだ描写は結局見られなかったことになる。
つまり、生きているのだろう。
ここに来るまでは、月の涙の先陣を切る災厄として
パルプンテとセルフィ以上の適任者はいないと思い込んでいたが
アデルなら充分だ。
アデルなら、ぜったいにモルボルにも勝てる。
だって、男らしい。
馬場よりでかい。
ラストバトルまでにモルボルまで強くならなければならなかったアルティミシア
どうか安心して欲しい。
アデルはとんでもないよ。男らしいよ。いや、漢(おとこ)だね。このゲームで唯一の。
単体で(師匠ドーピングなしで)強い生物のNo.1はモルボルで
No.2はサイファーかと思っていたが
アデルはそれを超越したと思う。
サイファーが10人くらい束になってもかなわないんじゃないだろうか。
だってあいつチームワークを知らない。


さて。
アデルのショックから醒めたあと、そういえばパルプンテはと思い出した。
パルプンテはもう用なしになったのだろう。宇宙空間に脱力して浮かんでいた。
まあ、何らかの推進能力がない限り宇宙空間で移動するのは難しそうだ。
例えば、足を蹴り上げるのだって
片足で地面を踏んでいるから簡単にできるんですよ。
浮いている状態というのはなかなかに身体の操作がむずかしいもんです。
ふわふわ浮いているパルプンテは重罪人だが無力である
それを見てとり、ピエットも回収して罪に問うことをあきらめたらしい。
一緒に見物していたセルフィ、エルオーネ、ヒャダルコに対してついてこいと言い残し
走り去ってしまった。
セルフィもなんだか聞き分けよく従って、こちらは残ったエルオーネに話しかける。
ヒャダルコが守るのは私じゃない。あなたの頭の中はパルプンテでいっぱい。
 パルプンテの頭の中はあなたでいっぱい。あなたを呼び続けている」
これはすねているのだろうか。
弟の恋心を目撃してお姉さんちょっとやきもち焼いているのか。
その言葉がヒャダルコに普段の妄念を呼び起こした。
いまからでも遅くない、俺を送り込んでくれとヒャダルコは懇願するが、
何しろこの場所は危険だ。そしてしっかりと送り込む自信がない。
お姉ちゃんはそう言って走り去ってしまった。
それは正しいと思う。
だって、画面がなんだか非常事態の色だ。
しかしヒャダルコは気にしない。
エルオーネとはくぐってきた修羅場の数が違うし
大概ヒャダルコは受動的にそれを乗り切っていた。
お願いだ。ヒャダルコは叫ぶ。
「オレは自分でこんなに考えて何かをしたいと思ったこと初めてなんだ」
その懇願にエルオーネも覚悟を決めた。
脱出ポッドに落ち着いてから、エルオーネは過去憑依の術を起動した。