沙漠を車が走っている。
D地区収容所だろうか? ミサイル基地だろうか?
「刑務所に戻って、アーヴァイン・キニアス!」
パルプンテの声がする。
なるほど、D地区収容所でアーヴァインがパルプンテだけを確保した時のことか。
散々引っかかれてアーヴァインが戻ったというところだな。
アーヴァインは実は俺の中で評価が高いので
ひっかかれて仕方なく戻ったというのは彼一流の照れ隠しだと思っている。
その真偽が、いま。
「あんたの親父さんの命令なんだ……いてえ!」
あ。
いま、引っかかれた。やっぱりほんとだったんだ。車が急停止する。
「戻ってみんなを助けるの!」
車からパルプンテが飛び降りる。
アーヴァインが諭す。大丈夫だよ。
「みんなその気になれば自力で脱出するって」
アーヴァインだって、おそらく、たぶん、みんなを助けることを検討したはずだ。きっと。
しかし皆はSeeDである。
自分と地力は同じ、さらに師匠の加護を得ている乱暴者ぞろいである。
自分とお嬢ちゃんが助けられるようなザルな警備であれば
そもそもあいつらが内側から食い破るはずだ。
その気持ちが「自力で脱出するって」には込められたと思いたい。思わせてくれ。
しかしパルプンテが危惧していたのは彼らの力不足ではなかった。
ヒャダルコなんて命令されてないからとかいってずっとあそこにいるかもしれない。
 そんなのダメよ! だから助けに戻るの! 力ずくでもいいからね!」
よく見てるじゃないか。
しかしアーヴァインはその言葉では納得しなかっただろうな。
アーヴァインは自分の人生でもっとも動けなかった瞬間である
『育ての親』を『暗殺する』という重責を
ヒャダルコに負ってもらった。
だから、ヒャダルコの意志力を高く買っているに違いない。
悪名高い収容所でのんびりしている場合ではないよなあ。
誰もがそう思う状況なのだから、ヒャダルコなら抜け出すだろう。
そういう信頼があったのではないだろうか。
だから、まずは危なっかしいお嬢ちゃんを父親のもとに送り届ける仕事を果たそう。
美人だし、二人でドライブしていれば何かいいことがあるかもしれない。
そう考えてもおかしくはないと思う。
やっぱり引っかかれたからだったのか。


ガーデンの中、ゼルとパルプンテが話している。
ガーデンが飛ぶようになって、ガルバディア・ガーデンとぶつかるまでの時期だろう。
ニーダは不眠不休で大変だったけれど
戦闘組はみなのんびりしていたのだろうか。
ヒャダルコの指輪? どこで買ったかなんて知らないなあ」
ゼルが質問に答えたようだった。
そうか。このあとガーデンとぶつかり
ゼルは非常事態にもかかわらずヒャダルコの指輪に妙にこだわり
その結果、前途有望な若者が何人も死んだと思われる
ゼル株大暴落の遠因がここにあるのか。
「同じのが欲しいんだ。あれ、かっこいいもんねえ」
「よし、オレが同じのつくってやるよ。こう見えても手先は器用なんだ」
ゼルはそれがどこの製品か知らないし
詳細も知らない。
それなのに俺なら作れると太鼓判を押してのけた。
それを聴いて無邪気にパルプンテは喜ぶ。
しかし、より正確に作るために本物を見せてもらおうと言われると
地面に「の」の字を書いて躊躇してしまった。
「はずかしいじゃない」
何がどう恥ずかしいのかわからない。
どうせできあがったらこれ見よがしに人前でつけるんだろうが
おそろいの完成品を身につけることはよくても
それを作ろうとしていることが察知できるのはいやなのか。
これが乙女心なのか。
なにか感づいたようなゼルの態度に
「ちがうのちがうの!」とパルプンテはあわてて打ち消した。
何が何から違うんだろう。


違ったのはどちらかといえば、みせられた過去とヒャダルコが期待していた過去とだ。
エルオーネはもう一度チャレンジした。
今度はズバリガルバディア・ガーデンの大講堂だった。サイファーが床に倒れている。
ああ、惜しかったな。
師匠の助けをもっていないラグナたちに憑依したら
ラグナたちは師匠の力を借りられるようになった。
もともと師匠の庇護があるこのVSアルティミシアイデアの時にさらに憑依したら
ダブル師匠ということにならないかとちょっと期待していたのだ。
そうすれば、オーディン師匠の出てくる可能性も二倍である。
何しろこのゲームは
蜂の巣にしようが刀身が爆発する鉄剣を何十回叩き込もうが重力で押しつぶそうが
相手はなぜか生きているから困ったものだ。
その中で、唯一敵に明確な死を与えるのが
北欧の大神と同じ名前にあきらかに負けているオーディン師匠である。
名前負けはしているが、師匠は敵を真っ二つにする。
これならばゴキブリよりもタフなサイファーとはいえ生きてはいられないだろう。
そして真っ二つになってしまったサイファーには、さすがにパルプンテも近寄らないに決まっている。
パルプンテの悲劇を回避する鍵はオーディン師匠にあり。そう思っていたのだが。
エルオーネは親切心からか戦いが終わった時点に飛ばしてくれた。
そして時は変えられないの言葉どおり、パルプンテサイファーの残骸に近づいていく。
彼を抱き起こし、しかしキスしたのではなかった。
パルプンテは魔女の騎士の残骸に話しかけたのだった。
『忠実なる魔女の騎士サイファーよ。魔女は生きている……魔女は希望する』
パルプンテに憑依しているのだから、当然彼女の言葉を知ることができる。
それは意外な内容だった。
アルティミシア? 未来の魔女がパルプンテの中に? イデアから移ってきた?)
『海底に眠ると伝えられしルナティック・パンドラを探し出せ
 さすれば魔女はふたたびお前に夢を見せるだろう』
ルナティック・パンドラを掘り出したのはサイファーだったのか。
ということは、サイファーはイデアの威を借りなくてもガルバディア軍部の実権を握れたのか。
なんだかそちらの方が驚きだ。
いいのかヒャダルコ
ガーデンの子どもたちの支持を得たことに安心して
女にうつつを抜かしている間に
子どものころからなぜかお前を目の敵にしてきた老け顔は
この世界のNo.2軍事大国のトップに登りつめたんだぞ。
ただ、No.1とNo.2との差が悲しいくらい大きいんだけど。


気を取り直す。
『仰せの通りに、アルティミシア様』
ヒャダルコ……こわいよ)
パルプンテにも意識があったらしい。
つまり彼女の身体には
ずかずかとやってきてコントローラーを奪い取ったアルティミシア
窓から侵入したヒャダルコがいるわけだ。
独り暮らしが似合う一人の身体に、三人ぶんの心が同居している。
まるで阿修羅マンである。そして泣き顔の役はパルプンテに割り振られたらしい。
怒り顔の役を貫禄で勝ち取っていたアルティミシアはどうやらヒャダルコに気づいたようだった。
『誰だ、出て行け!』
その言葉を引き換えに、エルオーネがぐったりと崩れ落ちた。
隆慶一郎の小説では術を破られると血を吐くものだったから
エルオーネもちょっとダメージを受けたのだろう。
パルプンテに何が起こったのか……わかった? 過去は……変えられた?」
駆け寄ったヒャダルコにエルオーネは尋ねる。
エルオーネも同じものを見ていたはずだが
経緯を何一つわからないエルオーネにとってはこの断片からでは何もわからないのだろう。
エルオーネのこの術はけっこう不便かもしれないな。
憑依する時間をしっかり選べるようにも見えないから
相手の時間に対する大まかな理解がなければ
自分がどの状況に居合わせたのかわからないだろう。
その状態で、最良と確信できる行動はなかなかできるものではないし
人間は、最良と確信できなかったら動けないものだから。
ヒャダルコも、状況を理解するので手一杯になり何もできなかった。
「だめだった……どうしたらいい?」
「あ……いま、同じだった。ヒャダルコ、子どものころと同じ目したね。
 子犬みたいな……すがるような……目……」
この緊急事態にも関わらず
エルオーネはお姉ちゃんとしての喜びを口に出してしまった。
ずっと弟と思ってきたラグナとレインの息子(推測)が
やっと再会したら全て忘れていて
しかもなんだか暗く歪んだ決意に揺るがない瞳で
いわゆる嫌な子どもで
そういうヒャダルコにずっと悲しい思いをしてきたのだろう。
だから、昔を思い出して思わずうれしくなってしまったのだろう。
しかし、ヒャダルコはもう子犬みたいにすがっていられる年齢ではなく
そういう状況でもないことを思い出したらしい。
そんな目をしていた頃のことなんか、忘れた。照れ隠しもあるだろうけれどきっぱりと否定する弟に
お姉ちゃんは同意した。
「……それでいいわ。大切なのはいまだから。私も……やっとわかった」
「オレにできるのは、今、あそこにいるパルプンテを助けることだけなんだな?」
パルプンテを安心させてあげなさい。きっと心は通じるから」
どうやらエスタの科学者は
パルプンテを包んでいる宇宙服に、推進力も大気圏突入に耐える頑丈さも与えていなかったのだろう。
パルプンテはどうやら危険な状態らしい。
回収するにせよ、それまではがんばってもらわなければならない。
今度は寸前のパルプンテに憑依して、がんばれメッセージを送る作戦に切り替えた。
行くわよ、ヒャダルコ
「限りなく今に近い過去へ……未来に一番近い……今へ……」


というところで、今回はこれまで。
ようやくか? ようやく次回でプレイしているところまで追いつく予定です。
もうなんどぽちがロゼッタ石を拾ってきたことか。
それにしても、Aランクが出てこないし
Bランクもロゼッタ石ばっかりだ。
もしかして、Bランクでもロゼッタ石以外のものを発見するには
Bランクだけで20とか30とか貯める必要があるのだろうか。
ちょっと今回は、Bランクが10個に達するまでぽちを回収しないようにしよう。