どうやら宇宙服は、接触すれば声を届けられるらしく
ヒャダルコの声が聞こえたからがんばれた、とパルプンテはしおらしく感謝した。
エルおねえちゃん、役に立ってましたよやっぱり。
でもすごい能力だ。
直前に取り付いて、シナプスの回路を操作することで
その人の考え方にかなり影響することができる。
今回は活かすためにがんばらせるために使ったが
これができたら、自殺させることもたやすいと思う。
エルオーネはアデルと会ったのだろうか?
アデルにはそういう方法じゃないと通用しない気がする。
「何も言うな……」
しっかりとかかえたまま、ヒャダルコパルプンテを黙らせた。
「わたしたち助かる?」
「俺が助ける」
やばい。ヒャダルコがかっこいい。
それでも現状は楽観視できるものではなかった。
(燃料はもうない……酸素も残り少ない。このまま宇宙の漂流者となるか……
 重力にひっぱられ燃えカスとなるか……
 俺はパルプンテを救えないのか?)
悪い想像がめぐる。
しかしヒャダルコが悩んでいるのは自分が死ぬことではなくて
パルプンテを救えるかどうかだった。
ほんとに変わったねこの子。


しかし、世の中にはヒャダルコたちの知らない事実がある。
一つはヒャダルコたちはゲームの主人公だということ。
さらに、エルオーネの憑依とかうんちゃらとかポッドの中で時間を浪費したくせに
月の涙に押しやられたパルプンテを回収できる位置にいたということは大変な幸運であるということ。
幸運な主人公には、犬死にの道は与えられないのです。
漂流者になりかけていた二人のもとを通りすがったのは赤い宇宙船だった。
持ち主はいないままルナ・ベースから切り離された船だろうか?
とにかく、地球人が作ったものだったら中に入れば酸素がある可能性はある。
二人はそこにとりつき開門して入り込んだ。


とりあえず出入り口を閉め、ふたりして弱重力のぴょこぴょこした足取りで船内を進む。
宇宙服を脱いだパルプンテは嬉しそうだった。
とりあえず、どういう事情かわかっているようだった。
寝ていた間、意識があったのかな。
それってつまり、ヒャダルコの独白も全部聞いていたってことなのか。
男は女に自分の気持ちを全部見せないほうがいいが
それは、全部見せあったら女にかなわないからだ。
強い女の視線を受けてヒャダルコはたじろぐ。
(な、なんだよ……)
「ありがとう、ヒャダルコ。また、助けてもらったね。いっぱい、いっぱい感謝してるよ」
「いいんだ、べつに。そうしたかっただけだ」
ガルバディア・ガーデンとぶつかった時は、偶然だとはぐらかした。
ずっと素直になっています。
でも、男が自分の気持ちに素直になってろくなことはないと思うんだけど。
まあいいや。17歳だしな。
それを聞いて、パルプンテは両手を広げる。
「さっきは宇宙服、ジャマだったからね」
(……は?)
「ハグハグ」
(……はぐはぐ?)
「ぎゅーって」
そうか、hugか。噛みつくのかと思った。
それにしても恥じらいのかけらもねえ女だな。
サイファーにも同じことを要求したのだろうか。
もし応じていたのなら、サイファーは案外と度量が広い。
「触れていたいよ。生きてるって、実感したいよ」
もしかしたら、ジュリアにそうやって抱っこされていたのかもね。