山を駆け下り、街を走り抜ける。
途中でお店の中からC班の隊員が飛び出してきた。
C班の人員は二人だけだった。
もう一人いたはずの人間がどうなったのか知りたくないな。
この班にも暴走班長がいたと想像しておこう。
いや、そっちのほうがいやだが。とにかく作戦とは違うであろう伝令による撤収の指令は
思ったよりも戦況が悪かったからだろう。
海岸にたどりついた。
体力なら任せておけ、のゼルと木製のヌンチャクを武器にしているセルフィ。
さらにセルフィは伝令として単独行動をしたのだから食料そのほかの装備を持っていないだろう。
だからヒャダルコが一人遅れてしまった。
暴走カニロボットに追われながら必死で砂浜を走る。
「死にたくない」から走っているのか
「ガーデンに到着するまでが任務です」から走っているのか。
前者であってほしい。周囲の理不尽な状況を受け入れ続けてきたヒャダルコでも
若者なのだ。死だけは受け入れてほしくないと思う。
出港準備を整えているボートにゼルが飛び乗った。
続いてセルフィは、しかしヒャダルコを振り返った。
暖気を終えたボートは爆音を響かせているだろうから。
カニロボットがどこまで追いついているかわかりにくかったと思う。
そんな中でヒャダルコを振り向いて待った。
ボートの中ではゼルがしっかりと位置を保持してヒャダルコを引っ張り込もうと待機している。
なんだ、いい奴じゃないかこいつら。
暴走班長と無気力主人公、シャイロック学園長にだまされていたが
存在感が薄い奴らはきちんといい奴らなんだな、この世界は。
ヒャダルコにはぜひとも彼らの仲間入りをしてもらいたい。
もともと存在感が薄い、という条件は満たしているのだから。
その最後の跳躍と同時に
キスティス先生が機銃を掃射した。
飛び散る薬きょう。カニロボットに山ほど穿たれる穴。
そしてボートは出航した。逃げ切ったのだ。
それにしてもカニロボットはがんばった。ちょうがんばった。
蜂の巣にされないと出航させてくれないほど頑丈だったのだ。
それをたつきち師匠はたった二回の雷で行動不能にした。
たつきち師匠おそるべしである。