またまた場面はゼルたちへと戻る。
まあとにかく待ったりしてないでさ、脱出方法を考えようよ。
キスティス先生も特になにかアイデアを出すつもりでもなかったらしい。
先生を首になってからの精彩の欠けっぷりはすごいものがあると思う。
任務の直前で現場を離れて閉じ込められたり
射撃失敗して突っ走ってくるヒャダルコに気づかず、さらに彼とサイファーの勝負を許したり。
それともここが先生の限界だったのだろうか。
教員試験は完璧にこなしてみせた。
しかし、優等生の悲しさでめまぐるしく変わる現状への対応力に欠けるのかもしれない。
一方でめまぐるしく変わる現状に動じる機能を欠落して生まれた我らがセルフィは
「この子の皮をベリベリってはいでそれを着て逃げるのは?」
と画期的なアイデアを出していた。
怪物はどうやら人語を解するらしくあとじさる。
あるいは言葉によらずとも邪悪な殺気を感じ取ったのかもしれないが。
冗談に決まっているじゃない、とはぐらかしたのだが
はたして人数分怪物がいたら冗談で済ましただろうか。
このメンバーの中でセルフィがいちばん肝っ玉母さんに思えます。


まほうが妨害されているのでとりあえず武器を調達しなければならない。
ゼルは格闘戦が達者だから、とりあえずゼルが武器を取り戻してこよう。
ウォードのときの記憶があるぶんだけここの風景には慣れているだろう。
初めて訪れた場所よりも自分の家のほうが落ち着いて行動できるようなものだ。
自分の家のほうが散らかっているから行動しにくいとかはいわないでくれ。
ゼルにはもともと落ち着きがないとかも言わないでくれ。
ゼルに任せるしかないんだ。殴り慣れていない拳で顔を殴ったらまず骨折するからね。
「看守! 看守! 明けてくれ!」
「どうしたんだ?」
「女子が倒れた! 毒蛇にかまれたらしい!」
とっさに出した嘘がよりによって毒蛇にかまれた、というからには
さっきからこの部屋にも蛇が出入りしているのだろう。
あんなに小さな生き物だから建物のそばにいれば家の中にも入ってくるだろうが
それほどたくさんいる、ということは密林の中なのかもしれない。
嘘を信じた看守はのこのことやってきて一発でのされてしまった。ゼルが勇躍して牢を出て行くと
さっきこの看守に殴られた怪物もついてきてくれた。


無駄に敵と出会いたくないので当然ゆうざん師匠に守っていただいて
とりあえずは上の階に行ってみる。すると青い軍服の兵士が二人いて
彼らの武器で遊んでいるようだった。
ガンブレードを珍しそうに振っており、他にはヌンチャクと鞭があるという。
パルプンテの武器がないのは彼女に返されたからだろうか?
やはり父親の顔を立てて解放されたのだろう。
アーヴァインの武器もない。
あいつも捕らえられてはいないのだろう。
それ、返してくれないか?
穏便に話しかけても結局戦うことになってしまった。
特殊技二発であっというまに蹴散らし、武器を回収した。
それにしてもここの警備はいろいろとザルだ。
レジスタンスといっても実行犯はその場で射殺されているからここにぶち込まれるのは首脳部で
インテリ少しの肉体的苦痛をまじえた教育で大人しくなってしまうのだろうか。
国中から怨嗟の視線を浴びていそうな施設なのに弛緩した空気に包まれているという事実が
かえって憲兵などの強力さを想像させる。


装備を持ち帰ったら水を得た魚とばかりにそれぞれの態度がでかくなった。
態度だけじゃなくて姿もでかくなった。
それぞれファイティングポーズをとるのだけれどセルフィかっこよすぎ!
そこに看守がやってきた。さっき怪物を殴るのを妨害されたやつだろうか。
「あなた方の腕前で思い知らせてやってください!」
用心棒がやってきたようだ。
かわいそうに。
って、お前ビッグスじゃないかー!
そして当然のごとくウェッジー
ドールの電波塔で出会った技術将校だった。
なんでこんなところにいるんだ?
いまさら収容所に新しい開発物件が生まれたのか?
なんとビッグスはドールでの敗北で左遷されてしまったらしい。
少佐だったのが、いきなり二等兵へだ。
思ったより軽いんだな、ガルバディア軍の少佐という肩書きは。
それなのに軍No.1は大佐なのだからおそれいる。
ビッグスは気を吐いた。大丈夫だ。ここは牢獄で奴らは無腰なのだ。
ここであったが百年目、今こそ決着つけてくれる!
「武器を持たないやからを相手にするのは
 いささか卑怯であるかもしれぬがこれも勝負の世界、悪く思わ――」
ヌンチャクと鞭のうなり声にビッグスのことばも途切れてしまった。
かわいそうに。