学園長はやはり保健室にいた。カドワキ先生は面会をしぶったが、本人が大丈夫だという。
「……ほんとにいいのかい?」
ふつう、そこを判断するのは医師の役目だから
これを訊いたということは学園長の不調は精神的なものが大きいのだろう。
「ええ。もう、じゅうぶん泣かせてもらいました」
って、泣いてたのか、学園長。
たとえ人払いしても学園長室じゃ泣けなかったんだな。
頼りないとはいえ学園長だものな。
たぶんカドワキ先生は色々と事情を知っていて先生になら愚痴を言えるのだろう。
だから保健室まで泣きに来た。
殿様てえのもつらい職業である。


「君たちには、恥ずかしいところをたくさん見られてしまいますねえ」
シド学園長は強がったりとりつくろったりしなかった
生徒でありガーデンの子どもであっても
ヒャダルコたちのことは頼りにしているのだろうな。
家長が父親であっても成人した息子には意見を訊くし責任を負わせるようなものかもしれない。
報告をしようとしたらそれには及ばないと断られた。
だいたい何が起こったのか想像がつくという。
それでも詳細な報告によって予想を微調整するもんだとおもうが
シドの場合は敵の親玉が奥さんだものな。
少なくとも本人はよく知っているつもりなのだろう。
だから、おおまかな推移だけつかんでいれば充分と思っている。
それは間違いだと思うのだが。
まあ、聞きたくないというのなら「失敗しました」と言うことはないし
状況はめまぐるしく動いている。いまさらドドンナにだまされたとかは必要ないが。
それにしてもわからないのは
どうしてゼルとセルフィの不在を気にしないのかだ。
もう、シド学園長に対する黒い商人のイメージはなくなって
奥さんの暴走を止めようとする一念に取り付かれたが基本的に無力なおっさんとみなしているのだが
ヒャダルコの無事だけで思考を停止してしまっているところからすると
お前はやっぱりガンブレードSeeDが大事なんじゃないのかと疑惑がもちあがってくる。
まあ、キスティス先生経由でそのあたりの報告はされているのかもしれない。


報告をしないでよくなったので、ヒャダルコは質問を開始する。
SeeDの本当の意味を教えてくださいよ。
その質問に、最初はシドもとぼけようとしたが
すぐにヒャダルコが何か気づいているとわかったようだ。
その言葉にヒャダルコ
(俺はいつだってなにもしらない)と苦い思いを新たにする。
そういう悔しさをもう味わわないためにここにきたんだ。
さあ、尋問してやれ。
でも力ずくはできないぞ。保健室で戦闘を開始したらカドワキ先生に怒られる。
案外シドはその危険を回避するために保健室に篭城しているのかもしれない。
「SeeDは魔女を倒します。ガーデンはSeeDを育てます。
 SeeDが各地の任務にでかけるのは魔女を倒す日のための訓練のようなものです。
 魔女が世界に恐怖をもたらす存在となった今
 SeeDの本当の戦いが始まったといえましょう」
魔女イデアのSeeDに対する憎悪と不安感。
学園長のSeeD無断出動。
この二つとは符号があうが、一番大事なことが邪魔をする。
どうしてお前さんは自分の奥さんを倒すためにわざわざ学園を作ったんだ?
質問の選択肢の中には「イデアについて」があるから
とりあえずこの疑問の回答はそこを待つことにする。


それにしても、ノーグは一体なんだったんですか。人間かあれ?
ノーグはシュミ族という生物らしい。
初耳だ。ヘルプにも載っていなかった。
つまり、普段彼らは人間とは没交渉なのだろう。
しかしノーグは金の魅力にとりつかれ人里に下りてきた。
そしてガーデン建造の資金繰りに奔走しているシドと知り合い
資金援助をしてもらったという。
しかし維持にも莫大な金が必要になってしまって
そのために、SeeDの派遣業務を開始したのだという。
ノーグの金儲けの才能は卓抜しており
ガーデンは莫大な収入を得るようになる。
そして、ノーグやガーデンは変わっていった。
当初の魔女打倒の理想よりも利益重視となってしまった。
……そこだけ話を聞くと、そしてシドの人となりを考えると
全てはノーグの予定通りだったんじゃないかという気がするよ。
シド学園長にしても、それらの日々で最初の理想は衰えたのだろう。
一向に現れない魔女と、支援した各国貴賓からの感謝の言葉と名声。
シド学園長だって、充分ノーグになるおそれがあったはずだ。
それをノーグもある程度は感じていただろう。
なのに魔女登場によってシドは当初の理想を思い出してしまった。
何しろイデアが奥さんなので第一級の当事者といえる。
知らん振りなんかできない相談である。
そこがノーグとは違い今回の仲たがいになったのか。
それにしてもシド学園長は結局おいしいところだけもらった結末になったじゃないか。
やっぱり黒い商人なんじゃないか。
ラスボス説ももう少しとっておこう。