学園長との会談を終わらせてエレベーター前ホールにやってきたら
シュウ先輩に名前を呼ばれた。なんですか〜?
シド学園長、知らない?
息せき切って、どうしたんですか?
「事件な感じ?」
こらパルプンテ。先輩になんて口の利き方をするんだお前は。
それというのもヒャダルコがタメでしゃべるからだ。
しかしさすがにシュウ先輩はこんな小娘は気にもしていないようだった。
船が近づいてきているのだという。
「も、もしかしたらガルバディアの船かもしれない。
 ま、魔女が報復にきたのかもしれない。
 と、とにかく学園長に報告しなくちゃ」
内紛の時にはすぐれた指揮能力を発揮した先輩も
今は虚脱状態なのだろうか。なんとなく頼りない。
とにかく観にいこう。面白そうだ。
そう思って階段を登ろうとしたらSeeDランクが下がってしまった。
まあ、テント錬金術を身につけたいまになってはSeeDランクは惜しくないんだけど
いかにゆうざん師匠に頼って怠けていたか教えられたようで悔しい。


やってきた船はガルバディアのものではないようだった。
そこにいる人間の服装は、SeeD就任パーティーの夜に訓練施設で見かけたものだ。
そこでキスティス先生のことを「キスティ」と愛称で呼んだ女性を助けたことがあったのだが
彼女をエスコートしていたのが彼らだった。
てっきりVIP護衛用SeeDなのかと思っていたが
いま目の前で違う船に乗り、シド学園長を探しているところからすると
やはり他国のSPなのだろうか?
案外トラビアのエリートたちかもしれない。
「学園長はいない。お前たちはガルバディアの船か?」
「我々はSeeD! これはイデアの船! 我々は魔女イデアのSeeD!」
……わけのわからないことが またひとつ ふえた。
えーと、えーと?
魔女イデアがSeeDを作ろうと思いはじめて
それなのにイデアはSeeDのことを忘れガルバディアと手を組んだ。
しかし、イデア管理下のSeeDがいるってわけか?
「そちらへ行きます! 武器は持っていません!」
シドとイデアは夫婦喧嘩の最中なのにそのSeeDはどうにも腰が低いようだ。
ちょっと、本当にわけがわからないのですけど。
返答を待たずにすさまじい跳躍力で飛び移ってきた魔女のSeeDたちに
さすがにこちらも臨戦態勢になる。
しかし彼らは戦意を示さず、そこに学園長がやってきた。
「シドさん、エルオーネを引き取りにきました。ここはもう安全ではありませんよね?」
……わけのわからないことが またひとつ ふえた。
エルオーネ、ってあの? ラグナの夢で見た、レインのお隣さんのお嬢さんか?
あのころ4〜5才だと思ったから、今は22〜23っていうところか。
その彼女が、『安全な』バラム・ガーデンに保護されていたって?
誰から?
そして『安全じゃなくなったから』引き取りに来たって?
だって、安全じゃなくしたのはあんたたちのイデアだよ。
いまさら何言ってんだ。


そうか。全部が全部シド vs イデアという線に乗せるからややこしくなるのか。
シド vs イデアという戦いは確かにある。
しかし同時に、シドもイデアも何者かの手からエルオーネを守らなければならないということは同意している。
シド vs イデアの戦いのとばっちりでバラム・ガーデンの安全性は損なわれた。
そのため、イデアはエルを保護しようとしている。
ってちょっと待て。
バラム・ガーデンにエルがいることを知っておきながらミサイルを撃ち込んだのはどこの誰だ。
もうダメだ。理解が及ばん。
ヒャダルコじゃなくたって投げ出したくなるぞ、こんな事態は。
えーと、とにかく装束から推測して訓練施設で助けた女性がエルオーネだったのだろう。
そして、エルはヒャダルコとキスティス先生を知っている。
とくにキスティス先生に対しては愛称で呼ぶくらいの仲である。
先生自身はエルを覚えていないようだが、それは師匠の記憶障害にご出馬いただけばいいだろう。
とにかく。
バラム・ガーデンはもう安全な場所ではないという指摘をシド学園長は苦いものを飲み下すように認めた。
そしてシドがヒャダルコにふりむいた。
「君はエルオーネを知っているはずです」
これもおかしいな。
訓練施設で出会ったことを言っているなら「君たち」もとなるはずだ。
ああ、そうか。
訓練施設で出会ったことはシドには報告していないのだ。
そりゃそうだ。夜中に逢引の場所で目撃した/されたなんてのはお互いにスキャンダルだものな。
知っている、というのは保健室のことだったか。
ガーデンのどこかにいるからつれてきてほしい。
そう頼まれたがヒャダルコには疑問が渦巻くばかりだった。
こいつらはなんだ。
どういう関係なんだ。
どうして魔女のSeeDが大切にしている女性がバラムにいるんだ。
なんでいま魔女のSeeDの要求にこたえて動かなければならないんだ。
まともな情報を与えられても納得しがたい情況なのに知りうることは断片化されている。
昔のヒャダルコだったら「とにかく考えずに探そう」と思っただろうが
そういう自分が、現在の状況を招いたのだともう知っている。
なかなか動けなかった。
ヒャダルコ?」
シドが重ねて指示をした。
「……了解」
事情を知りたいと思っても、今はその状況じゃないだろう。
しぶしぶ命令に従う。