キスティス先生も同じ推測に至っていたようだ。
やはり、エルオーネはあの子であると……って、あれ?
エルオーネを見ているのはヒャダルコと、キロスになったアーヴァインだよな。
ゲームに表れない時間の中で、ラグナの夢に関する情報は共有されているらしい。
もちろん原動力はセルフィ閣下だ。
居場所がわからないから手分けして探すことになった。
しかし夢を見ていないパルプンテはわけがわからない。エルオーネって誰?
「あっちの世界の登場人物だ」
説明はそれだけ。しかし詳しい様子も聞かずパルプンテは走り去ってしまった。
セルフィ、アーヴァイン、キスティス、ゼル、ヒャダルコ
自分を除く全員がへっぽこ3人組の夢を共有していることはパルプンテも聞いているだろう。
自分だけがそこに入れないことが
この娘にしてみたら悔しくてさびしいことだったのかもしれない。
だから、「あっちの世界」というだけでさらに詳しいことを質問できなかったのだろうか。
かわいそうだからフォローしたいんだけど
ヒャダルコたちも好きで見ている夢じゃないからなあ。
いやセルフィだけは好きで見ているんだが。


さあ、探しに行こう。
犯人は犯行現場にふたたび現れる。
つまり、怪しいのは保健室であり訓練施設である。まずは訓練施設に向かった。
しかしいない。ついでに恐竜をカードにしてみたが
恐竜おっかないよ恐竜。
しかもカードにしても、二枚でようやく恐竜の骨1個だし。
さあ、保健室に行こうかと歩いていたら
ベンチに座っている男が「図書館に行った女の子がかわいかった」と言っていた。
行ってみることにする。
……いた。
「な〜に、ヒャダルコ?」
やっぱり、エルオーネはヒャダルコをよく知っているようだ。
怪物にラグナと間違われたヒャダルコ
ラグナによくなついていたエルオーネ。
記憶障害を引き起こす師匠たち。
おぼろげながら話が見えてくる。
だが、このゲームでは単純な解釈で早とちりすると却って混乱することは
この二日くらいで痛いくらいにわかった。
とはいえ「考えすぎながら」なのでいまさら思考停止はできないが。
ちょっと今日は疲れましたよ。情報量が多すぎる。


「もしかして、エルオーネか?」
ヒャダルコの質問にエルはうなずいた。
「そう、エルオーネ」
それにしても、あんな女の子も年をとれば落ち着いた女性になるのだな。
レインは、ラグナは無事なのだろうか。
なぜ彼女だけがイデアと学園に守られているのか。
そもそもイデアとどういう関係なのだろう。
「あんたがエルオーネ? あの、エルオーネ?」
エルオーネはうなずいた。
「ラグナを……知っているな?」
エルオーネはしかしさびしそうだった。
「知ってる。大好きなラグナおじさん」
あれからお父さんにはならなかったのだろうか。
「教えてくれ! あれは、なんなんだ?」
恐ろしく説明不足の言葉がヒャダルコの必死さをあらわしている。
あれ、というのはもちろん彼らが夢見たラグナのことだが
この質問ではわかりっこないはずだ。
しかし、あれが何を示すのかエルオーネにはわかっているようだった。
彼女はうまく説明できない、と謝ったのだ。
「でも、ひとつだけ」
言えることがあるという。
「あれは『過去』よ」


そりゃまあ、ガルバディアvsエスタで、魔女云々とやっていれば過去だとは思うが
それでも実際それをゲームの中で把握している人間がいるとなると驚きだ。
「過去は変えられないって人は言う。でも、それでもやっぱり、可能性があるなら試してみたいじゃない?」
ヒャダルコはそれをばかばかしいと却下した。
ばかばかしいと思うのはエルオーネも同じだろう。
それでも、かすかな可能性にかけたいほどにエルオーネの現在は苦痛なのだ。
そして、変える方法というのがヒャダルコたちの意識をラグナに見せること。
あるいは、ヒャダルコたちのもつ師匠の能力をラグナたちに与えることかもしれない。
ウィンヒルの街以降の過去でラグナは強力な敵に倒されてしまうが
エルオーネはその過去を変えたいのだとしたらどうだろう。
現在にいるヒャダルコを送り込むことはできないが
意識と一緒に師匠と魔法の力は与えられることが判明している。
三度、ラグナにそれを経験させることで師匠の力の使い方を学習させ
「力及ばず殺される」という運命を変えたいのかもしれない。
そしてそれはつまり、夢を見させたのがエルオーネだということだ。
「あんたがあっちの世界におれたちを連れて行くのか!?」
エルオーネは否定せず、ただ謝った。
自分のしていることがヒャダルコたちにとっては理不尽な暴力であるとわかっているのだろう。
でも、その理由は説明できないしやめるとも言ってあげられない。
だから背を向ける。これ以上の説明はしないと態度で示す。
人との付き合い方が下手なヒャダルコ
拒絶を前にして、手管を変えることで聞き出す能力に乏しい。
だから、もうこの場では真実は手に入らないとあきらめてしまった。
またかよ。ヒャダルコの心はふたたびうちに向かう。
また、わけのわからないことで俺は混乱する。
それでも、ひとつだけ。
自分が選ばれてしまったから、こんなに悩まなくてはならない。
どうして自分なのか。それだけははっきりしておきたかったようだ。
「どうして俺なんだ! 俺はいまの自分のことで精一杯なんだ! 俺を、俺を巻き込むな!」
必死な叫びにエルオーネの背中が震えた。しかしただ謝ることしかできない。
彼女もまたせっぱつまっているのだろう。


そこにシュウ先輩がやってきた。
他の二人は会ったこともないからそもそも見つけられない。
頼みの綱のヒャダルコは恐竜と遊んでいたからかなり時間が経っているのだろう。
痺れを切らしたシドに差し向けられたと思われる。
「エルオーネはいた?」
「あの……私です」
シュウもエルオーネの存在は知らなかったらしい。
自由に歩き回っていると思っていたが、生徒たちとは関わらないようにしてきたのかもしれない。
シュウ先輩はヒャダルコの様子に気づいたようで、いたわりの言葉をかけた。
ヒャダルコは答えず、エルオーネは近寄って
「頼れるのは、あなたたちだけなの」
と囁いた。
「あなたたち」とはどういうことだろう。
D地区収容所で怪物がヒャダルコとラグナを見間違えたように
ヒャダルコとラグナにはなんらかの因縁があるようだ。
その因縁が、エルオーネの現在を変えてくれるのだったら
「たち」はつけないだろう。重要なのはヒャダルコだけだ。
では、SeeDってことだろうか。
あるいは他の人間も過去編と因縁があるのだろうか。
明らかに因縁があるのはジュリア→パルプンテだが
これはまあ「引き裂かれた恋人たちが子どもの代で」とかいう
ヘドが出るようなロマンチシズムだと思うので無視する。
あー、だめだ。考えてもまとまらん。