ヒャダルコ君! SeeDのヒャダルコ君! すぐに学園長室まで来なさい』
来なさい、だ。来てくださいのような他力本願的なところはまだ薄い。
これならまだしっかりしているという希望が持てる気がする。
『繰り返します。ヒャダルコ君、学園長室まで来てください!』
……ああ、だめだ。やっぱりてんぱってた。
散歩はおあずけにして学園長室に急行すると、シドはとにかく生徒を鎮めようとしていた。
ガーデンから勝手に出てはいけない、という言葉を二度くりかえす。
風車やクレーンがあったことから、おそらく街のすぐ近くにぶつかったのだろう。
つまり生徒たちにとってはこの漂流教室から抜け出すチャンスである。
外に出たくもなるはずだ。
しかし先方にしてみたらいきなり衝突され風車を壊され
さらに戦闘の訓練を受けた若者たちが目を血走らせて降りてきたら
すわ海賊かと思うに決まっている。
さすがに教育者としての期間が長いからか、その最悪の事態は免れられそうだ。
ヒャダルコ、命令です」
予想に反して「どうでもいいからとにかくなんとかしてー!」ではなかった。
学園長はきちんと威厳をとりもどしてくれていた。思わずヒャダルコの背も伸びる。
「キスティス、パルプンテを率いてフィッシャーマンズ・ホライズンに上陸し
 エライ人にあってこの騒ぎを謝罪して
 我々に敵意がないことを知らせてきなさい」
おっさん謝るならお前がいけよと思わないでもないが
こんな乱暴な登場の仕方をした以上、最悪の事態ではいきなり拘禁されるかもしれない。
こんなでも、学園長は学園長だ。
まだシドが出て行くタイミングではないだろう。
「同時に、街の様子の観察も忘れずに」
どうして俺が謝らなきゃいけないんだ、どうしてそんな重要な役目が俺なんだ。
俺じゃなくたって、学園長派の教師とかシュウ先輩とかいるだろうに。
第一キスティスを率いてってなんだよ。彼女はもと先生だぞ。
ヒャダルコの不満と不審と不安は表情に表れていたらしく
「命令が気に入りませんか?」
と訊かれた。軍人ならこれにNoは言えない。
「……べつに」
精一杯の抵抗を示したが、Noは言えなかった。


それを聞いたシドは諭すような口調になった。
「SeeDは単なるバトル要員ではありません。君にはできるだけ外の世界を見てほしいのです」
なるほどなあ。
魔女討伐に放ったことでシドが個人的に目をかけていた
大人の判断ができるSeeDたちがいなくなってしまった。
シド学園長にとって、自分で判断ができて魔女退治という目的を共有できるSeeDの育成は急務なのだろう。
そこに戦闘能力と行動力ならピカイチのヒャダルコたちが育ってきた。
さらにエルオーネによれば何かの鍵らしい。
となると、ヒャダルコにはいろいろな経験を積ませようと思うのも当然だろうか。
そんな考えで事故の示談に行かせるのだから大した度胸だが
まあ、損害賠償関連の話はキスティス先生がいれば大丈夫だろうし
ヒャダルコが投げやりになってもパルプンテがきちんと手綱をとると読んでいるのかも。
事態を丸く収めるならシュウ先輩一人を先行させてあとで自分が行けばいい。
しかしそうせずにヒャダルコたちに経験を積ませるなんて親心じゃないですか。
でもこの場にシュウ先輩がいなかったのは、先に彼女に頼んで断られたからかもしれないが。


エレベーターを降りたらキスティス先生とパルプンテが来てくれていた。
散歩途中のパルプンテはともかく先生も、もはやヒャダルコと一蓮托生と思っているのかもしれない。
キスティス先生の他力本願主義はいまのヒャダルコにとっては重荷だが
かといって先生の成長物語も注目の的だから
そばにいてくれるのはやはりありがたい。
「新しい任務?」
というか、ヒャダルコ一人で何かやらせたら危なっかしく
そこにパルプンテがくっついたら危険だと骨身に染みているのかな。
「フィッシャーマンズ・ホライズンに上陸する。目的はこの騒ぎの謝罪と街の様子の観察だ」
……街の観察はヒャダルコに勉強させようと思って命じたことだが
やっぱりクソ真面目なところは抜けんな、ヒャダルコも。
それはさておき、フィッシャーマンズ・ホライズンか。
たしかティンバーかデリングシティで、そこから来た旅人と話をしたことがある。
彼の話ではフィッシャーマンズ・ホライズンはとても田舎らしいから
あまり見るべきものはないかもしれないが。
とにかく行ってみよう。ペットショップ、ないかしら。
魔導石をつくりたくてしょうがないんだ。
ヘルプを見てたら、どんなアイテムから何が作れるかの表があった。
それによると、魔法の書から魔導石が作れるらしい。
魔導石、欲しいんだ。属性攻撃用として6人全員にファイガ、サンダガ、ブリザガを100個ずつ持たせておきたい。
金? 大丈夫。テントがあればいくらでも生み出してみせるよ。