二階奥のデッキから外に出ると
フィッシャーマンズ・ホライズンの住人に待ち受けられていた。
「察してはいると思うが上陸前に忠告をしにきた。我々は戦闘行為が嫌いだ。街の中ではバトル禁止。
 それがこの街のルールだ。理解したか?」
「はい。我々はガーデンの代表できました。敵対する意志はありません」
「ようこそフィッシャーマンズ・ホライズンへ!」
以後、F.H.と書くことにする。
それにしても意外な対応だった。なんでこんなにフレンドリーなのさ。
紳士的な対応までは予想していたがまさかここで「ようこそ」と言われるとは思わなかった。
だってえらい勢いで風車を壊してますよ、俺たちは。
あるいはそのあたりの賠償金などの話は
もうマニュアルができていて、当然払われるもんだと思われてるのかしら。
おかしいなあ。


「町の真ん中に駅長の家があるから一応挨拶しといてくれ」
なるほど。そこがイベント発生ポイントだな。
ではそこには近づかないようにして、見られるものを全て見てやる。
「話のわかる人間で助かったぜ」
なるほど、向こうも怯えていたんだ。
あんな奇妙奇天烈な建物だから
誰かしらが「あれはバラム・ガーデンだ!」とわかってもおかしくない。
その駅長の家とやらではカイジばりに「ざわ・・・ざわ・・・」となったのだろう。
「バラム・ガーデンってあの?」
「あの中にはSeeDがたくさん詰まっているんだ……殺される」
話し合いは紛糾しただろう。
とにもかくにも、ファーストコンタクトはなるべく威厳をもって
普段いちばん鼻息の荒いジョセフ(仮名)が選ばれた。
とにかく街中でバトル禁止の言質をとってしまえばもし彼らが暴れたら世論を背にして対抗すればいい。
どんな手段でもいいからYesと言わせるんだ!
ドキドキしながら桟橋で待ち受けるジョセフ。
扉が開いて出てきたのは、眉間の傷が妙な凄みを与えている少年と
怜悧な印象の金髪メガネだった。
一人だけまともかと思えた黒髪の美少女も楽しげに町並みを見回している。
今から略奪のめぼしをつけているのだろうか!?
ジョセフの脳裏にSeeDの噂がうずまいた。
いわく、十数年で傭兵ブランドトップに躍り出た戦闘集団であり
各国が使用をとりやめた、記憶破壊の副作用がある兵器に手を染める悪魔たち。
その戦闘能力は強大きわまりなく
ガルバディアを得た魔女が最初に攻撃したほどである。
ミサイルの直撃を受けても無事なその建物に
自分たちの釣竿がダメージを与えられるとは思えない。
俺は、ここで死ぬのだろうか。
海の男としてダイオウシャチとも渡り合ったジョセフの背筋が、初めての絶望に凍りついた。
頭に浮かぶのは、隣のエミリーのことである。
こんなことなら彼女に思いを伝えておけばよかった。
一瞬そう思うものの、やはり伝えなくてよかったのだと気づいた。
死んでしまう人間の思いなどこれからを生きる彼女には重荷になるだけだ。
そしてジョセフは覚悟を決めた。
俺はここで死ぬ。でも、エミリーをこいつらの毒牙にかけたりはしない。
みんなが逃げ切るまで、この桟橋を守り抜いてやる。
かみ締めすぎた奥歯がギリギリときしむ中でジョセフは別の音を聞いた。
それは目の前の少年が口にした言葉だった。
「はい。我々はガーデンの代表できました。敵対する意志はありません」
え、な、なんつった、いま。てめえ今なんつった。
信じられない思いでいると、少年は後ろの二人に合図をした。
金髪メガネはその恐ろしげな鞭を小さくぐるぐる巻きにまとめると、専用のケースの中に入れて背負い
黒髪の美少女は手につけている何かの発射器具をたたむと腰にぶら下げる。
傷のある少年の刀はさすがに隠すことはできないが
引き金のあたりをいろいろいじっているのは安全装置をかけているのかもしれない。
その反動でおもわずジョセフは口にしてしまった。
「ようこそフィッシャーマンズ・ホライズンへ!」
その言葉を聞いて黒髪は嬉しそうな顔をした。金髪は申し訳なそうに海面に浮く風車の残骸を眺めている。
傷の少年もほっとしているようだった。
それにしても、とその巨大な建造物となぎ倒されたいろいろな残骸を眺めて
思わず言葉が口をついて出た。
「ずいぶんハデに壊れたなあ」
失言か? 怒らせたか? ぎょっとしたが、しかし相手はすまなそうにするだけだ。
「申し訳ありません。ガーデンがコントロール不能になって避けることができませんでした」
なんだ。ジョセフは拍子抜けした。
彼らは海賊ではなかったのだ。難破船だったのだ。
ずいぶんと破天荒な難破船だが遭難者だったら慣れたものである。
「気にすんなよ。けが人もいなかったし俺たちは壊れたものを直すのが大好きなのさ。
 ゆっくりしていってくれ」
これで仲間内査定がプラス5だなあ。今頃俺の立派な態度で町は持ちきりだろう。
エミリーはなんて言ってくれるだろうか?
満足して桟橋をあとにするジョセフだった。
妄想にお付き合いいただきありがとうございました。


ヒャダルコたちは町へと向かう。
しげしげとガーデンを眺めている男がいた。
「あの模様って、バラム・ガーデンだよな?」
おや。
「そうです。知ってるんですか?」
おお。
F.H.の人間がバラム・ガーデンを知っていることも驚きだが
ヒャダルコが他人の知識に興味をもつことも意外である。
「あん? 知ってるも何も……俺たちが色を塗ったんだぜ。ずいぶん昔だけどさ」
へええ、そうだったのか。
シェルターを改造した作業はF.H.の人たちがしてくれていたのか。
自分で動ける人間たちが、なかなか親に顔を見せに帰らない昨今で
動けないはずの建物なのに親元に帰ってくるなんて殊勝な奴だなあ、お前も。
その帰省は大迷惑だったわけだが。


F.H.の中心には、おそらく太陽光発電と思われる皿状の設備があった。
発電をするなら、絶対に風力発電より太陽光発電の方がいい。
効率は知らないけれど、後者の方が明らかにメンテナンスが楽だからだ。
それをこれだけ大規模にする技術がありながら、風力発電をも行っている。
F.H.なんて名前をしているから漁師の町かと思ったが、その巨大な工場設備から見ても
大量の工業用電力を必要としている街なのかもしれない。
しかし巨大な工場がある条件の一つとして、きれいな真水がふんだんに使える場所ということがあげられる。
冷却、洗浄に必要だからだ。
それらにつかわれた水は当然に汚れる。それはおそらく海に放出されるだろう。
よくもまあ漁業と工業が両立しているなあ。
発電エリアを眺めている老人は、見たところ漁師とも工場労働者ともとれる風体だった。
話を聞いてみる。
「バラム・ガーデンコントロール不能だってな〜? ちゃんと整備しないからだて」
へえ? 学園が動かせるのはF.H.では知られていたことなのかな。
それとも熟練の機械工らしく「設計」「整備」「運転」のどこかがミスしなければ
機械はきちんと動くものと信じているのだろうか。
まあ、シェルターの改造時点でシド学園長がMD層のことを知っていたのは
当然F.H.の技術者から教わったのだろう。
その当時はわからなくても「壊れたものを直すのが好き」な奴らだったら
図面を持ち帰ってすでに解明しているのかもしれない。
とにかく、ガーデンは彼らの協力でなんとかなりそうだ。
お金が足りなかったらテントで錬金術をすればいい。


町を歩いて色々な人と話をした。
たとえば、この町の線路の先にはなんとエスタがあるという。
てえことは、西の大陸にまで来てしまっているのか?
どうも歩いていけるらしい。ぜひ行ってみたいな。魔女の情報がたぶんたくさん手に入るだろう。
また、こういう人もいた。
「もしかして、あんたSeeDってやつか? 金さえもらえば誰とでもバトルするんだよな。
 それ、幸せな生き方か?」
あん? 文句あんのか? 迷惑かけたか?
むっとするヒャダルコの空気を感じ取ったのだろうか、男は取り消した。
「いやいや、いいんだ。他人の生き方なんてどうでもいいんだ。俺たちに迷惑さえかけなければな」
エスタへの最短路に位置するこのF.H.は、常に海外の干渉を受けてきたのかもしれない。
SeeDの被害にも遭ったのかもしれない。
とにかく、F.H.の人たちは戦いを嫌うことがよくわかった。
一方でヒャダルコは、彼の「他人の生き方なんてどうでもいい」という言葉に引っかかっていた。
言うまでもなくそれは彼自身の考え方だ。仲間に対しても口に出してきた。
自然だと思っていた考え方だ。
しかし、それを面と向かって言われるといい気分はしなかった。


発電施設の中央に駅長の家は位置している。
それをとりまく外周上に店などがあるらしい。ぐるっと一回りしてみようか。
船の上にいる男に面白い話を聞いた。
「バラム・ガーデンのマスターはノーグだったよな。もう変身したか?
 ノーグはシュミ族だろ? だったら変身するはずだ。ノーグはどんな奴に変身するんだろ。怖えけど楽しみだな」
おーい! 孫悟空だ! 孫悟空がここにいるぞ!
オラすっげえワクワクすんだ! って言ってる!
あぶなかった。クレーンの上にいたのがこの悟空だったら
いまごろ元気玉で学園は消し飛んでいましたよ。
釣りに興じている少年が、埠頭の方に彼の師匠である爺さんがいるという。
そんなのあったかな? 下りる梯子を見落としていたりして。
そう思って戻ってみたら、目立たないけど降りる梯子があった。
その先にはガーデンを釣り上げた爺さんがやはり釣りをしていた。
「長年気に入っておった釣り場の多くがはちゃめちゃにぶち壊されてしもうた……」
す、すみません。謝ると
「まあ気にすることでもない(死にかけたけど……)」
と言ってくれる。それにしてもめげない爺さんだな。
せんべつとして「オカルトファンIII」という雑誌をもらう。
早速読んでみると、師匠を召喚することのできる指輪らしい。
しかし666個のアイテムが必要だとか。
師匠の情報となったらむげにもできない。この雑誌のほかの号を探すとしよう。
それにしても、爺さんに重なるようにドローポイントがあるのだが
ドローしようとすると爺さんに話しかけてしまう。
この爺さんをここから引き剥がす方法はないものだろうか?