パルプンテが一人残っていた。どうした?
「さっき、セルフィたちに『おかえり、会えてよかった』って言ったよね」
ヒャダルコらしくなかったが、とっても優しかったという。
そう思ったから言っただけだよ悪かったな。ヒャダルコがそうふてくされると
相変わらずだとパルプンテは笑う。
別に悪いなんていってるわけじゃないわよん。
「仲間のこと心配だったんでしょ? みんな大切な友達だもんね」
そういうことになるのか。ヒャダルコはしぶしぶと認めた。
「あのね、ヒャダルコ。もし……」
(もし私でもそう思ったかどうか、か?)
「それは、そうなってみないとわからない」
「あ、わたし、言おうとしたことわかっちゃったの? なんかうれしいぞ〜」
……
なんか疲れるぞ〜。
風呂でも入ってくるか。
入ってきた。復活した。
疲れたのだが、こういう会話はヒャダルコの自立を支援する立場からするとありがたい。
ヒャダルコに必要なのは気づきである。
「他人の考えなんかどうでもいい。自分に迷惑をかけなければ」
そう言われて、ヒャダルコは自分と同じ考え方だと認めてから
それが他人にいやな気分を与えることに気づいた。
今も、自分の中に自然に生まれてくる優しさに気づかせてもらった。
アイアン・クラッドと戦う前のヒャダルコ
ドープ駅長に対して「それ見たことか」とは言わなかった。力が正義だとも言わなかった。
信念が通じなかった老人を気づかっていた。
ここからもわかるようにヒャダルコの背骨は非常に善良でいい奴なのだ。
しかし幼少期に姉を失った体験が歪んだ枠となっておおってしまっている。
これを外すには、枠の力を弱めてしまうしかない。
つまり自然の自分はもっといい人間なのだと
自分がかたくなに正しいと信じるものが、枠となって自分と周りを不幸にしていると
何度も気づかせるしかない。
確かにパルプンテのこの言葉の動機は、喜んでいるヒャダルコを見て
「これが私だったらこの男は同じように喜んでくれるだろうか?」
という不安と期待だったろう。
そこを口に出しちゃうパルプンテはやっぱり大したタマなのだが
その前に、話のほくちとしてヒャダルコに気づかせてくれている。
自然に振舞うだけで相手のためになれる。
そういう人間関係ってのはあるものなのですよ。


ドープ駅長は虚脱していた。
「命を……助けられたな」
「迷惑でしたか?」
普通の人間が言えば皮肉としか思えないが
たぶんヒャダルコはホントに心配しているんだろうな。
ヒャダルコは他人が何を考えているかずっと頓着しなかった。
頓着しなかった、というのは決め付けなかった、と同じことだ。
争いを徹底的に拒むとドープ駅長が言う。
それはもしかして、助けられることが迷惑に感じられるほどの信念なのかもしれない。
それならば、形は助けたことになってもやはりヒャダルコは彼を蹂躙したことになる。
そう心配してのセリフだと思う。
「そうは言わない。しかし、礼も言わない」
ドープ駅長は当然ヒャダルコの性格を知らないから、単に皮肉と受け取ったようだった。
「礼なんていりません。ただ俺たちのこともわかってください。ただのバトル好きの人間じゃありません」
駅長は興味をそそられたようだった。
続きを説明しなければならないのだが
なんどもヒャダルコの心に「めんどくさいな」という欲求が沸き起こる。
しかし、ここはがんばってもらいたい。なぜならこのゲームは君のリハビリ日記だからだよ。
「うまくいえませんけど」
ヒャダルコは挑戦する。それでいい。
言葉は何かをわかってもらうためのものだけど
わかってもらう相手は何も他人に限ったことではないのだよ。
口に出して、字に書いて、それですっきり整理される自分というのもあるものなんだ。
さあ、いってみよう。
「あなたが言うように、話し合って、おたがいわかりあって
 戦いの必要がなくなればとてもいいことだと思います。
 でも、自分たちのことを説明するのはとても時間がかかります。
 相手に聞く気がなければなおさらです。
 戦いで一気に決着をつけようとする相手と理解しあう。
 これはとても時間がかかるんだと思います」
話し合うためには双方が同じテーブルにつかなければならない。
でも人間はみんな同じじゃない。同じならそもそも話し合いはいらない。
たとえば話し合いそのものについてだって
『話し合いとはこちらの要求に対して、相手に公の場でYesと言わせる行為である』
と信じている人間がいるくらいだ。俺がそうだが。
その種の人間は、相手の両手両足を切断してから話し合いを始めるものと思っている。
だったら、自衛力が必要なのだ。
そういう意味では、自衛のための力もまた話し合いの一部といえるだろう。
「駅長たちがじっくり考えられるように。邪魔が入らないように
 俺たちみたいな人間が必要なんだと思います」
きちんと説明できてるじゃないか、ヒャダルコ。お父さんは嬉しいよ。