F.H.は普段の姿をとりもどした。
パルプンテに憑依していたゆうざん師匠の守りがいなくても、敵と遭遇せずにすんでいる。
街の人の反応はどうだろう? そう思って色々歩いていたら
どうやら釣り少年が初めて爺さんに自慢できる釣果を得たらしい。
よくやったじゃないか、坊主。
よし、報告してやろう。そうすればあの爺さんはドローポイントからどくはずだ。
のんびりとした気分で爺さんのところに向かっていったら
アーヴァインが待っていてくれた。
狭いところにおしこめられて、ここが西の大陸だったら海まで越えて
さぞかし大変だったろうからしばらく休んでいればいいのに
学園長からの伝言を持ってきてくれたらしい。
F.H.からの修理をガーデンは受け入れるらしい。
そうか。いちどガルバディアの軍を追い払ってしまった以上
イデアは再度攻めてくるだろうけど
バラム・ガーデンがくっついてたら政治的解決もクソもないものな。
早めに出て行くに越したことはないな。
それともう一つ
F.H.の人たちにアーヴァインが個人的に直してもらいたいものがあるという。
なんだろう。
アイアン・クラッドだろうか?
確かにあれは硬かったけれど、師匠をたっぷりつけたらたぶんお前一人の方が強いぞ。
まあ、迷惑にならなければいいんじゃないかと許可しておいた。
それにしても、どうしてヒャダルコがそこの許可を出す?
あるいはシドの中ではもうヒャダルコがF.H.担当の渉外になっているのかもしれないな。


爺さんに報告したら、ひとしきりからかわれた後で宿屋に呼ばれた。
『説教』をしてくれるという。なんだろう?
長い階段を駆けたヒャダルコたちに難なく追いついたフロー駅長みたいに
異常に健脚な爺さんを追って宿屋に行ったが一階にはいなかった。
仕方なくお金を払って客室に行くと、爺さんは奇妙な立体映像をヒャダルコに見せた。
それは、ドープ駅長の若いころだという。
ヒャダルコたちを気に入って、あのガチガチの非暴力主義者の根っこを見せてくれるつもりらしい。
映像のドープはゆったりとして緑色を多用している奇妙な装束をつけていた。
ガルバディアの服装とは思えない。……エスタだろうか?
映像のドープは誰かにつめよっているようだった。
『なぜ、軍事目的にこだわる! あなた方が、そう言っても……』
やはり、ドープはもとはエスタの要人だったらしい。
エスタを変えようとしてがんばっていたのだという。
『……そんな』
映像の駅長はがっくりとくずおれた。
彼はどうやら、誰か偉い、おそらく指導者の側近だったのだろう。
しかし平和主義のドープの進言は聞き入れられることなく魔女戦争に突入した。
すると、話の相手は魔女アデルだろうか?
いや、イデアの恐れられ方からするとアデルも君臨はしたが協議はしなかったのではないか。
となるとそれよりもずっと前
魔女の力に手を染める前のエスタかもしれない。
駅長の映像を眺めながら、爺さんの説明は続く。
F.H.の住人はもとエスタ人が多いらしい。
「創成期は活気があって、職人たちはそれはもう張り切っていた」
なんと。近代国家、といわれるエスタであってもまだあの駅長の人生におさまるような歴史しかないのか。
エスタ人の平均寿命が恐ろしく長いという可能性はあるがそれは驚きだった。
爺さんは悲しげに言う。いつしかエスタは変わり、それらの技術を軍事目的に使うようになってしまったと。
何とかしようとドープたちは抵抗したのだが、だめだった。
そこで、協力者たちは非暴力主義の砦としてF.H.を作ったらしい。
しかしドープはあくまでもエスタを変えることを夢見ていた。
だが話し合いは通じず、ここにやってきた。
だから今でも話し合いにこだわっているのだという。


話し合いのみでは大国を動かすことができなかった。
でも、この小さな町は作ることはできた。
この結果は、話し合いという方法を否定してはいない。ただ駅長が力不足なだけともいえる。
F.H.の存在はまぎれもなく話し合いという信念が産んだ果実である。
確かに駅長の力不足でその果実は小さいが、確固たる成功の結果である。
駅長の屈折した態度は成功体験の確かさと小ささ、誇りと屈辱が影響しているのだろうか。
宿の一階、テレビ放送ではドープ駅長のコメントが流れていた。
自身が戦いによって守られ心中は複雑だが、方針を変えるつもりはないという。
駅長はそれでいい。変わらなくていい。
その背中を若い奴らはしっかり見ているから
少しずつ変えていくのはそいつらに任せればいいんだと思うよ。
駅長たちは何もないところにF.H.を作り上げた。
F.H.を土壌とすれば、若い奴らはもう少し大きなものを積み上げられると思うんだ。
それに、ヒャダルコみたいに
駅長たちの思いに答えてその暴力を使ってくれるような人たちもたくさんいるさ。
そいつらを引き寄せるためにも
理想は大声で話していかなくちゃダメなんだと思うよ。


宿屋から出る。
爺さんは街では有名人で人気者らしい。
のんだくれは真剣に酒をやめようと決心し
若い娘はその雰囲気にめろめろで
ヒャダルコたちは爺さんの付き人になっているというだけで尊敬された。
ねえ爺さん、死んだら俺たちの師匠になりませんか?
さんぺい師匠という名前を用意します。
すごくレアな戦利品を出すモンスターを自動的に釣り上げてくれるとかさ。
F.H.の名前も爺さんがつけたのだという。
爺さんたちエスタを出る時に言った
エスタにそれが求められんのなら創ればいい。
 俺たちの得意とするとこだ。イメージは漁師……地平線……
 すなわちフィッシャーマンズ・ホライズンだ」
というセリフにあるらしい。
……。
……?
あの、創る→漁師+地平線って俺にはわかりません。説明してもらえませんか?
疑問に思ったのは俺だけではなく、ヒャダルコがきちんと突っ込んだ。
「なぜ? 何か意味があるんだろう?」
爺さんがいま明かす衝撃の事実とは!
その場で誰かが突っ込んでくれると思ってたのに反論がなくてびっくりした。
そういうものだった。
なんじゃ、そりゃ。それってつまり
などとブレーンストーミングの足がかりにしようとしていたのに
みんなが遠慮してそのまま決まったってことか?
名前が名前だから、俺、てっきり漁業が盛んなのかと思っていたよ。
ヒャダルコには拍子抜けで済んだ命名秘話も住人であるジャンク家の主人には衝撃だったらしい。
絶望に震えるジャンク家の主人を見かねてヒャダルコが慰めた。
「まあ、いいじゃないか。結果が出たんだから」
そう。名前が結果を作るんじゃないよ。
結果が名前を育てるんだ。
俺もいろんな者への名前は適当につけているが
認知度がアップしてみんなが連呼すればそれなりにおさまるもんだ。
まあ、パルプンテはいくら経っても慣れないんだけどな。
ヒャダルコにはもう慣れた。


「考えすぎで兵器作ったろ?」
爺さん。もうしゃべるな。
「考えるだけが全てではないよの?」
いや、それはどうだろう。
兵器を作ってしまったのも考えるという行為の結果ならそれが悪いことだ、改めようというのも考えることだ。
まあ、たまには力を抜けよといいたいんだろうな。
逆らわないでいたら弟子にされた。
そして、名前の由来については駅長にはナイショだと釘を刺される。
そりゃそうだ。言えないよ。
いま、駅長の残された唯一の成功体験であるF.H.に瑕疵でも与えたら
若い者の前で伸ばさなければならない背筋が曲がってしまう。
というか、そんなくだらないこと伝えたくないし。


と、今回はここまで。
なんといっても今回特筆すべきはやっぱりセルフィ閣下(プラス2)が生きていたことだが
エルオーネの問題は困惑の度を増すばかりだ。
イデアが二人いるのでなければ、エルオーネを守るのも探すのもイデアの意志ということになる。
エルオーネを求めるイデアにはSeeDの知識が抜け落ちているのだから
やっぱりイデアには何か悪いものが憑いている気がする。
そして、憑かれる前のイデアはその可能性を予測しており
「もし私が憑かれたら、エルオーネだけは私に渡してはダメ」
とSeeDたちに命じていたのだろうか。
自分は絶対に道を踏み外さないと夫を安心させながら
その時の対応策も手配しているイデア
その不安と罪悪感、自分の存在に対する憤りなどを思うと
シドがどんなにアレでも受け入れてやりたくなるな。だってイデアの旦那さんだもの。
『ハーフ・ア・チャンス』という映画では
若かりし日のジャン=ポール・ベルモンドとアラン=ドロンに同時に愛された女性が語られる。
普通、同時に二人の男性と通じた女は不義とみなすが
男がこの二人だったらそりゃしょうがない、女が拒めるわけない
却ってその女性の格があがる、そういう不思議な効果を経験したが
それと同じだ。
もし、イデアが何かに憑かれているのだという俺の予想が当たっていたら
その日のあることを予想してエルオーネの配慮をSeeDに命じているとしたら
俺はイデアを尊敬します。
そのおまけでシドの好感度も上がるという話でした。