さて、チュートリアルを読み落としていたみたいだけどアデルは死んだわけではなかった。
ということは、単純にイデアの配慮はアデル相手だったのかもしれない。
考えてみれば、力を隠して生きることが自然である魔女たちの歴史において
この20年で野心ある魔女が二人も登場するというのは不自然だろう。
それも、アデルは失敗しているのに同じ手法で始めるというのはおかしい。
さらにそのイデアがこのときのためにSeeDを作るような人間だったらなおさらだ。
イデアの警戒の対象はアデル。そう考えたほうがすっきり来る。
エスタから放逐された魔女アデルは身を隠して再起の日を待っていたが
自分の顔は売れすぎていて身動きが取れなかった。
そこで目をつけたのが、子どものころに才能を見出して魔女の力を分け与えたイデア
彼女にとり憑くことにした、というのはどうでしょう。
エルオーネはよく知らん。だが、チュートリアルを見ると
ウィンヒルへの数度の攻撃はアデル直々の命令だったと書いてある。
エルオーネを抹殺しようとして、というのだったら話がつながりやすいかな。


って、チュートリアル読んでたら
白いSeeDってのがあるらしい。
魔女イデアに育てられた孤児たち、だそうだ。
かつてのイデアが愛にあふれた女性だというのはシドの話から想像できるから
孤児を育てるのは納得できるのだがわからないこともある。
白いSeeDたちの年齢はヒャダルコたちと同じかそれ以上だろう
つまり、なんでわざわざイデアの手元で育てたのかがわからない。
料金免除で学園に住まわせることはできなかったのかな? ノーグの手前。
ノーグといえば、シュミ族はトラビアに住んでいるらしい。
セルフィがあの場にいたら見破ってくれたのかもしれないな。


さて、いよいよセルフィをなぐさめに行こう。
……あー。
衝突のショックだろうか、ステージはひどい有様になっていた。
そこで呆然とセルフィが立ちすくんでいる。
たまに顔に手をやるのは、泣いているのかも知れない。
アーヴァインが言っていた「直してほしいもの」もこのステージのことなんだろうな。
話しかけようとしたら、セルフィから声をかけてきた。
それは気丈に明るい。
「ひどいね〜、これ」
「ガーデン、動き出したりF.H.にぶつかったり……」
動き出して着水したあたりでは原型をとどめていたのだが
まあ、いろいろとガタはきていたのだろう。その挙句の衝突である。
波まかせに進んでいたということは、海流と潮汐の力だけで動いていたということだ。
それがF.H.によって完全に食い止められた。
中にあるものへの慣性は大変なものがあったろう。
そんな状況を想定されて強度計算をしていないステージは
やはりもたなかったのだ。
「ここでバンドが演奏するの見たかったな。メンバーも、目をつけてる人何人かいたんだよ……」
一言目は気丈だったが、セルフィらしくもないしょんぼり加減である。
ちなみにヒャダルコもメンバーだから! と言われても
今のセルフィになら「うん」と言ってしまいそうだ。
仲間が来て力が抜けたのか、がっくりと座り込んでしまった。


そこで選択肢が出て
なぐさめるか、アーヴァインに任せるかがあるけど
ここはヒャダルコのぎこちない慰めが見せる「必死の力」が届くことを信じたい。
いや、アーヴァインに任せたほうがいいに決まっているのだが。
「元気出せよ」
……まさかそれで終わりじゃないよな?
セルフィは礼を言った。
「でも、あんたみたいな無関心男に励まされるなんて意外〜」
そうだよ。無関心男は無関心なりにお前のことを気にしてがんばってるんだよ。
ちなみに無関心男を引っ張ってきたのはそこのカウボーイだ。
感じ取れ、不器用なふたりのこの思い。
「そんなに落ち込んで見えるんだ、あたし」
自嘲的に呟いた。そうだ。もう死にそうに見えるぞ。それは似合わない。
アイコンを花のままにしてもいい。だから復活しなさい。
もてあましてヒャダルコは海のほうに歩いた。
彼は無関心なわけではない。もちろん人並みに意見も考えもある。
(でも……どうしようもないことやどうでもいいことが多いだろ?
 それに人と話すのは面倒だし、だから……)
セルフィがめざとく見つけてすねた。
「あ、またなんか考えてる〜? でも言わないんだよね」
ヒャダルコは他人の考えを察することを避けてきたから
自分の考えを他人が察しようと努力していると想像できないのだろう。
だから、口にさえ出さなければ衝突は起きないと思っている。
でもそうではなくて、こちらが何かを考えている、ということは伝わるし相手も想像するし
そして、「その結果飲み込まれた」というのは消化不良になるものだ。
普段のセルフィなら気にしないか、やさしく流すだろう。しかし今は余裕がない。
だからこの文句になったのだが
これもまたヒャダルコに一つ大事なことを教えてくれている。
しかしヒャダルコは心を読まれた動揺からか
今はセルフィの話をしているのだから俺のことはほっといてくれと思うだけだった。
まだまだ病の根は深いね。


「あたし、元気だからさ。ヒャダルコも元気だしなよ〜」
結果的にヒャダルコの慰めは成功した。
セルフィみたいなタイプは世話をするなかで自分をケアするんだから
とりあえず病人を目の前に置いてしまうのがよいのだ。
そしてとうとう耐え切れずにヒャダルコは逃げ出した。
「アーヴァイン・キニアス。ここは任せた」
班長命令っぽくフルネームなのだろうが、照れ隠しにしか思えない。
おそらくふたりとも心の中ではニヤニヤしてることだろう。
しかし面白い見世物を逃すものかと抗議しようとしたアーヴァインを制して
シド学園長の放送が鳴り響いた。
たまにはいいことするな、学園長。ヒャダルコはもう限界だったよ。
ヒャダルコ君、ヒャダルコ君。学園長室まで来てください。』
学園長のツルの一声にはかなわない。面白い動物は立ち去ってしまった。
「落ち込んでてもしっかたないか〜」
アーヴァインが、一生懸命考えてヒャダルコを連れてきてくれた。
ヒャダルコはそんなキャラじゃないのにコントを見せてくれた。
それだけで充分元気をもらったようだった。
「そうだぜ、セルフィ。楽しいことしようぜ〜」
「楽しいこと、なになに?」
がんばれ、アーヴァイン。お前の考えてることは、とりあえず気持ちを上向かせるには最適だ。
あとで下向く可能性もあるけどな。
と応援していたら、F.H.の人たちに頼もうという提案だった。
……優等生だな。
そんな奴だとは思わなかったよ。
って、FF8をやる世代はそうなのか。俺が下衆なのか? まあいいが。
「F.H.の人たちなら、これくらいのステージ直すくらい朝めし前だろ?」
やってくれるかなあ。
柄にもなく不安げなセルフィは落ち込んでいる余韻なのか
それともメカの中で日記を書いているとき
ガトリング砲でF.H.の駅前広場を壊したからなのか。
しかし日記を書いていないアーヴァインには罪悪感はない。力になってやると請け負った。
喜んで、セルフィはメンバー集めを開始する。