一方ヒャダルコはシド学園長への報告を済ませていた。
セルフィたちからも報告を聞いているらしい。
「セルフィは報告を日記に書いて公開すると言ってましたから
 まだなら君も見ておくといいでしょう」
なるほど。魔女イデアのこととか結局アップしてしまっているけど、学園長の検閲が入っていたのか。
セルフィの日記、という単語からラグナ様→エルオーネと続いたのだろう。
報告に漏れがあったことを思い出した。
「ガルバディア兵の目的はエルオーネを探すことのようでした」
報告をしながらヒャダルコは考える。
エルオーネには、人に過去の世界を体験させる力があると。
ああ、ヒャダルコはあれをエルオーネ単体の力だと思ってたのか。
俺はなんらかの仕組みがあるもんだと思ってたけど。
でも、エル個人をイデアが求める以上それは個人に根ざす力なんだろうな。
もしイデアがその力を利用しようとするとどうなるだろう?
イデアとシドの関係やアデル憑依説を頭から抜いて、単に覇権を狙う魔女として考えると
アデルの失敗の原因をさぐりたい、というのが考えられる。
西の大国エスタ、東の大国ガルバディアをそれぞれ支配した二人の状況には似ている部分もあるだろう。
アデルがなににつまづいたか、それを学べばイデアは対処することができる。
「魔女の手先となったガルバディア群がF.H.に現れてエルオーネの行方を捜している」
そういうことか? シドは確認する。その通りです。それだけではなく
「エルオーネ捜索の結果いかんに関わらず街を破壊する命令を受けていたようです」
シドはため息をついたようだった。
「街を焼き払うのはエルオーネの居場所をなくすためでしょう」
シドの予想では、エルオーネを見つけ出すまで魔女は同じことを繰り返すらしい。
さっきから、イデアという単語を使わないな。
奥さんが正気だとわかっていれば、そして旦那としてそれを止めたいのなら
シド vs イデアという構図で考えていてもおかしくないのだが
どうも学園長の内部では
SeeDの長 vs 魔女ととらえている、あるいはヒャダルコにそう思わせたがっているようだ。


もう迷ってはいられない。シドは決断をした。
そして館内放送を行う。
保健室ではキスティス先生とカドワキ先生が楽しそうに談笑していた。
キスティス先生は根っこはもろいから、案外子どものころは保健室の常連だったのかもしれないな。
そこにシドの放送が響いた。
『これからみなさんの生活に関する重要なお知らせです』
文法がおかしいのは、話す言葉の内容に力んでいるからだろう。
『ガーデンは移動装置の復旧作業中です。
 この作業が終わり次第、我々はF.H.を離れ旅に出ます』
お次は食堂で、当然ゼルだった。
旅に出る、という言葉に相変わらずのオーバーアクションで、前に並んでいる女の子を押してしまう。
しかし女の子の抗議には気づかない。
『この旅は魔女を倒すための旅です。ガーデンは魔女討伐の移動基地となります。
 ガーデンの運営は今までどおり私と職員が中心になってやっていきます』
図書館ではなんとパルプンテが聞いていた。
似合わない場所にいるな、お前さん。
『しかし、この旅は戦いの旅です。戦いには優秀なリーダーが必要です』
あ、やな予感。ヒャダルコは必死にはいあがってくる悪寒と戦っていることだろう。
この他力本願な学園長が頼る相手が、なんとなく想像がつくのだ。
『私は学園長として、皆さんのリーダーにSeeDのヒャダルコを指名しました』
ああ、やっぱりだ。
この学園は深刻にコマが足りないらしいな。
驚いて図書館内部にも関わらず、パルプンテは走り出してしまう。
まずい! パルプンテの思いは一つだ。
ヒャダルコがリーダーなのはいい。強いし引き受けたことはやり遂げるし
サイファーを通じてイデアには憎悪を感じている。適任だ。
でも、私がそばにいないとあの子はきっと断る!
そう思ったのではないだろうか。


場面はふたたび学園長室に切り替わった。うなだれるヒャダルコの前でシドが放送を続けている。
「今後、ガーデンの行き先決定や戦闘時の指揮を取るのはヒャダルコです」
……マジかよ。こんなやり方、ありかよ。
ヒャダルコは呆然として声も出ない。
軍人あがりだから一度出された布令を変更することの悪影響は知悉しているのだろう。
パルプンテの心配ははずれ、抗議はしなかった。
「この決定に意見のある職員、生徒は私に直接お願いします」
どうせ俺の意見は聞いてもらえないんだろうな。あきらめ気味のヒャダルコだった。
頭を抱えるヒャダルコに、シドはしゃらっと
「君の運命です」
と言ってのけた。それだけではなく
「魔女討伐の先陣に立つことはきみのさだめなのです」
とも。
サイファーとの因縁のためか?
エルオーネの庇護者だったラグナに似ているためか?
単純に、優秀なSeeDがみなサイファーとイデアに返り討ちにされたからの消去法だと思っていたが
ヒャダルコは、イデア〜エルオーネのつながりとあながち無縁とも言い切れないのだ。
だから、一刻も早くヒャダルコを成長させたいのかもしれない。
どっちにせよ、ヒャダルコが望んでなったものじゃない。
「俺の人生が最初から決まってたみたいに言わないでくれ!」
ゼルみたいなオーバーは動きはヒャダルコには珍しい。
命令でも番長でも受け入れてきたヒャダルコ
いやな人生だったら受け入れられないのだろうか。