また不貞寝してます。
(……魔女と戦うのはいいんだ)
それは認めている。SeeDはそのために作られたものだし、何しろサイファーには仕返ししなければ。
おや? SeeDでいる限り?
サイファーへの怨念を捨てれば、あとはSeeDをやめるだけなのか?
やめられるか?
しかしその方向には進めなかった。
(やめてどうなる? 俺に何が残る?)
やめたって色々なものが残るだろう。頑丈な肉体と戦闘技術、かっこいい顔、すぐれた頭脳。
それは生きていくために充分な財産で
たとえいま持っている全てをうしなっても
また同じだけの価値のあるものを築き上げられるもとでになってくれるものだ。
でも、明らかに失うものがある。
SeeDであることで得られていた名声、誇り、師匠の技術。
そして何よりも、仲間たちとの縁はSeeDであるというそれだけにかかっている。
かつてお姉ちゃんを失ったのは不可抗力だったが、その喪失感はヒャダルコをゆがめるほどに強かった。
もう失いたくないからこそ、機械の中から現れたセルフィたちを
散々銃弾を浴びせてくれたにも関わらず喜んで迎え入れられたのだ。
また、それを失うのか。しかも自分の決断で。
それは、ヒャダルコには絶対に選べない選択肢なのだろう。
さあ、ドツボにはまってしまいましたよ。
パルプンテさーん、またこの子を救い上げにきてくださいよ。


しかしパルプンテはまだ来ない。
SeeDをやめることができないヒャダルコは、リーダーになるしかないと受け入れた。
もうちょっと、どうしてSeeDをやめられないのか考えればよかったのに。
まあ、それは次の機会にしておくか。
誰かが死んだりすれば「クリリンのことかーーーーーーーーっ!」って言って
『すなおヒャダルコ』に変化するに決まっているのだから。
とにかく今は、投げ出さず逃げ出さず責任を受け入れることにした。
それだけで充分だ。
(バトルはともかく、他人の面倒を見るのがな……)
まさに直前に、励まそうとしているセルフィに逆に励まされているのだ。
それはみじめな思い出として自嘲の材料としてヒャダルコを苦しめているだろう。
実はそれが同時にセルフィを支えていることに気づいていないから
「俺にはムリだろう。ムリだって!」と思っているのだろう。
とにかくやってみれ。
一生懸命やればみんなついてくるからさ。
(さっさと魔女とのバトルに持ち込んで終わらせるしかないよな)
そしてハッとする。
(魔女ってシド学園長の奥さんだろ? その人を倒せって命令なのか?)
自分は仲間を失うのが怖くて、SeeDをやめることすらできない。
しかしシドは奥さんを失うという目的のために
成長を見守った子どもたちを失うかもしれない決断をした。
どちらにしろ、大事なものを失う決断だ。
頼りないおっさんだけどつらいものを飲み込んでいるのだ。
(……そんな命令を出すのはどんな気持ちなんだろう?)
想像しなさい、ヒャダルコ。他人の気持ちを。
自分の気持ちを想像するのはまだ君には早いから。
心を覗き込むんじゃなくて、他人の気持ちを鏡として自分と向かい合いなさい。
とりあえず、パルプンテの出番ですよー!