「なんだ、おまえたちは? この街の住人か?」
これまで会話は主にヒャダルコに任せていたゼルも黙っていられないらしい。
そうだ住人だ!
「住人くらいはいれてくれたっていいだろ?」
しかし兵士の対応はにべもなかった。
ヒートアップするゼルに比べてヒャダルコは相変わらず落ちついていた。
「出入り禁止だと言ったな?
 それは情報の出入りも禁止というわけか?
 残念だな。エルオーネという有益な情報も……」
おお。でかした。
下っ端を蹴散らす時は、彼の権限じゃ処理できない問題をちらつかせるのがいちばんである。
案の定、兵士はうろたえた。
「その話、今すぐ詳しく聞かせるんだ! それが誰だか知っているのか?」
しかしヒャダルコは慎重さを示して見せた。
「まだ確かじゃない」
確かじゃない情報を鵜呑みにするとどこかの代議士みたいなことになる。
それは兵士も避けたいだろう。
「この街で確かめたいことがある。だから、街に入れてくれ」
とても上手なやり方だった。あたまいいわ、この子。
ガルバディア兵は少し考えたが
結論として司令官に案件をくりあげることにしたようだ。
司令官はホテルに滞在しているらしい。
やり口に粗暴な臭いがしないからサイファーじゃないだろう。
マスター・ドドンナが学園ごと魔女に屈服したのかもしれないな。


街への潜入に成功した。
くたびれたように座っている女性に訊くと
街の物資が残り少ないらしい。
ゼルのお母さんがパニックを起こさないように鎮めているけど
それももう限界だとか。
兵士たちの立ち話を聞くと、やはりエルオーネの捜索隊のようだ。
その口ぶりから、すっかりとガルバディア兵はイデアの私兵になってしまっているとわかる。
17年前に魔女と戦った国にしてはあっけないような気もするが
実際はこんなものかもしれないな。
ゼルの家に行く。街の人の話どおりお母さんは無事だった。
そして、どうやって入ったのかと驚いた。
「そりゃ、頭の使いようさ」
頭をつかったのはヒャダルコだがな。
「また、私はあなたが考えなしに兵士をぶん殴ってしまったのかと思ったわ」
また、って……。
実際にそれをやろうとしていたし。
「もし騒ぎが起きたら魔女がこの街を一瞬で焼き尽くすってあの兵士たちは言っているから」
慎重な性格である。息子であるゼルにも「あなた」と丁寧な呼び方をするし。
どうしてこの親からゼルのような子どもが生まれたのだろうか。
とにかく、お母さんを見習っておとなしくしていてくれな、ゼル。
お前がしゃべると話が大きくなるだけだからな。


お母さんの話にヒャダルコは驚いた。魔女イデアがここに来ているのか?
しかしお母さんの見かけた女性は違った。
「灰色の髪をして、片目を隠した……」
風神かあ! すっかり忘れてた。
それにしてもどのタイミングで学園を出たのだろう?
内紛の時は沈静化に働いてくれていた。
責任感が強そうだから、一度やると言ったことを放り出しはしないだろう。
その後、F.H.に到着するまでは海の上である。
やはりF.H.で、撤退するガルバディア軍にもぐりこんだのだろう。
そこでサイファーに面会する。
それだけでいきなり疑うことなくこの街の司令官にしてしまうとは。
サイファーからのこの二人への信頼が透けて見えるようでほほえましいが
同時に手ごまを持たない様子が目に見えるようだ。
そんなことに関係なく、ヒャダルコサイファーが来ているのかどうか気になっていた
どうやら仕返しがしたくてしょうがないらしい。
順当にいけば、風神と戦うことになるだろう。
そして雷神がくっついている可能性もある。
なぜなら風神雷神では風神が格上だから
彼らがピン芸人として活動するなら、まず雷神が相手になるからだ。
しかし司令官は風神だった。つまり、雷神はこの街で風神の前に
前座として現れるか、同時に部下として出てくるのだ。
そこまでわかったら話は簡単だ。
属性防御にサンダガをくっつける。これで、食らうべきダメージの50%ぶんHPを回復できる。
もうひとつの属性防御にはエアロをつける。ダメージが8割引きだ。
これでもう死ぬ気がしない。


街の入り口で話したホテルマン夫婦の娘はもう我慢の限界に近づいていた。
こりゃだめだ。
駅には兵士の食料はあるのに住民には配られない。
苛立ちは日々つのり、街の住人同士でも険悪な空気になっているらしい。
こうなったら風神に談判して出て行ってもらおう。
ホテルの入り口には兵士が二人番をしていた。
エルオーネの情報だ、とほのめかすと
しかし二人は警戒していたガセネタも多いらしい。
そのガセネタの奴らはどうなったのだろう?
それで風神の本気度が読める。
目の前でひそひそ話す声が聞こえる。
「さすがに今度確認しなかったら給料を減らされるよな」
「うちの軍って上司の気分次第でへらされるからまいるよな」
え? そうだったのか。
ということは、ビッグスもウェッジの給料を減らしていたのか。
それにしても落ち着きのないな軍隊だよ。
先日まで少佐だったビッグスは気がついたら二等兵になっているし
上官は部下の給料を減らし放題だという。
ところで減らされた給料はどうなるのだろう。
それによっては、上官一人一人に給料を減らすノルマが課されていそうで怖い。
こういう仕組みを作ったのはカーウェイ大佐だろう。
戦力の有効活用を目指して柔軟な仕組みを作ったものの
末端では横暴がまかり通るようになってしまったのだ。
その結果、兵役への嫌気は根強くガルバディア国民にあるかもしれない。
それに、いくさ続きのガルバディア軍慢性的な兵士不足に悩まされていると思われる。
そこに安定的に優秀な兵士を投入するガルバディア・ガーデンである。
ドドンナはノーグの手先だったようだが
ガルバディア軍にこそよりシフトしていたのかもしれない。