埒の明かない会話にゼルが痺れを切らしたら
「指揮官どのに指示を仰げ! 指揮官どのなら今はパトロール中だ!」
たらいまわしにされた。
なんだ、お前は指揮官なのか、雷神。
仕方なく雷神を探しに行くことにする。
雷神の好きなものは虫だから
きっとのあるところか、海辺の昆虫を探しに波止場だろう。
それにしても、ここまでしてエルオーネを探すということは
イデアのSeeDの船はやはりイデアと敵対行動をしているのだろう。
それとも、もうイデアはエルを手中にしているのだが
エルオーネを探している、という行動を誘蛾灯として不穏因子を洗い出そうとしているのだろうか。
まあ考えすぎだろう。シド学園長がそもそもイデアのSeeDを信頼しているのだから
彼らはイデアの意志に反していると思ったほうがいい。


やはり雷神は波止場にいたらしいが、昆虫探しではなく魚釣りだったようだ。
昆虫に限定するのではなく、いきもの大好きな子どもなのかもしれないな。
獲物をどこかの家で焼いてもらうだろう、というヒントをもらってから街に戻ったら
ゼルの家から煙が出ていた。よりによってそこでか。
家に帰るとやはりお母さんがきょとんとして
偉そうな人が来たんだけど、魚を焼いて出て行ってしまったとキツネにつままれたようだ。
部屋中が魚のケムリに包まれている。よほど脂身の多い魚を焼いたか、大量に焼いたかどちらだろう。
バラム・ガーデンの近くにある海で釣れる魚は
なんとなく、いやーなものを食っているような気がするんだよな。
とにかく、雷神の手がかりとしてケムリの臭いがわかった。
これを思う存分ハンカチにでもしみこませて
港にいた犬にその煙の臭いを追ってもらえばいいのだ。
とはいえゼルは握手する時に手をゴシゴシするような男だから当然ハンカチは持っていない。
パルプンテのような人間が自分のハンカチを魚のアブラをふき取るために提供するはずがない。
ため息をついて、ヒャダルコがふき取ったことだろう。
また、サイファーに仕返ししてやることが増えたな。


港にいる犬に臭いをかがせると、一目散に走り去っていった。
待て待て! 紐をつけるの忘れてた!
慌てて追うものの、犬の足にかなうはずがない。
なんとか見失わないようにするだけで精一杯だった。
そして犬は駅へと走っていく。駅に停車してある、食糧貯蔵車両に飛び込むと
奥側の出入り口から雷神が燻し出されてきた。
よう雷神! 久しぶり!
そう声をかけようとしたが、雷神は気づかずに一目散に逃げていく。
でかい身体なのに、昆虫が好きで犬が怖いのか。
学園では実は隠れファンがいたような気がするよ。
ともかく、雷神を追わなければ。兵士たちに行き先を聞いていると、ホテルに戻ったようだった。
案の定ドアが開け放たれている。そして雷神が風神に蹴り飛ばされて転がり出てきた。
よう、久しぶりじゃないか雷神。サイファーは元気か? どうやら風神は元気そうだが。
「ふ、風神。ヒステリーはよくないんだもんよ
 ちゃんとパトロールしてたもんよ。サボってた探索犬を叩き起こしてきたもんよ」
そこに、三人の姿を見て雷神は驚いた。
生まれ育った街の住人を好き放題にされて怒りが臨界点まで達していたゼルが
うろたえる雷神に啖呵をきった。
「バラムを解放しにきたもんよ!
 じゃなくて
 バラムを解放しに来たぜ!」
あー、わかるよゼル。うつるよな、雷神の言葉づかいって。
三人に囲まれているとはいえ雷神は余裕だった。
サイファー、『ヒャダルコたちが来たら、かる〜くひねってやれ!』言ってたかんな!」
え? お前そんなに強くなったのか。
サイファーも、久しぶりに会ったらとんでもなく強くなってたからな。
もしかしたら雷神もドーピングを開始したのだろうか。