おお、ヒャダルコが説得を開始しました。
説得が通じない男No.1のサイファーのシンパだから絶望的だとはいえ
自分が殺したくない、傷つけたくない相手にはできるだけ努力をしようという気持ちが芽生えつつあるのだ。
みんながよってたかって話せばわかると言ってきて
それによって自分も行動を変えることがたびたびあった。
その経験が、「こいつらはどうせ話しても聞かない」という気持ちを
「いややれるだけやってみよう」に少しずつ戻そうとしているのだ。
「引けないもんよ……」「……否」
二人とも考えた末に断った。でも考えてはくれたとヒャダルコも気づいたろう。
さっきまで殴り合っても(単なるイジメだったが)
真剣に話せばきちんと聞いてもらえるんだよ、ヒャダルコ
サイファー、手先はたくさんいるけど仲間は俺たちだけだもんよ……」
ガルバディア軍にとって、サイファーは
魔女がつれてきた、強い、でも偉そうな奴でしかないのだろう。
虎の意を借る狐と思われることもあるだろうし面従腹背に苛立つことも多かったに違いない。
そういうことを見ている二人だから「見捨てられない」という。
「ガルバディア兵たちゃ、魔女が怖いからサイファーに従ってるだけだかんな
 俺たち、いなくなったら、サイファー、仲間いないもんよ……」
ゼルの態度も軟化していた。もう頭に血が上ってはいない。
「仲間だったら……サイファーにバカなこと、やめさせろよ!」
しかし二人の回答は
一度サイファーに従ったのなら全部従う!
そんなケチ臭い仲間じゃない!
ということだった。
「そんなペラペラの仲間じゃないからサイファーのこと全部認めるもんよ!」
とはいえこの二人は決して服従しているわけじゃない。
こういう関わり方もあるのだろう。


「気持ちは……わかった」
ゼルとパルプンテが驚いた。ヒャダルコが、他人の気持ちをわかったって言った!
「ガーデンに戻る気はないんだな?」
うなずく二人。だったら、ここは見逃してやるが次は手加減しない。
腹を割って話せる人間同士でも、今回は敵だったし次も敵同士だろう。
なんだか悲しいな、とパルプンテが呟いた。
ティンバーを独立させようと躍起になっていたパルプンテにとって
敵の中にいい奴がいるということがなじめないのだろう。
しかしヒャダルコは違う。
「誰が敵で誰が味方であるかなんて流れの中でどうにでもなってしまう」
狙撃の前にアーヴァインから受けた問い『彼我の善悪を気にするか』への答えである。
善悪はなく、立場しかない。
ヒャダルコたちはそう教わって育ってきたし
D地区収容所ではバラム・ガーデン出身でガルバディアに雇われている先輩にも会った。
デリングシティでは迷いなくアーヴァインに反論できた。
しかし今ではつらく感じるようになってきていた。
そんな中で
サイファーの立場がどうなろうとその味方であることをやめようとしない風神雷神である。
彼らの中では敵味方は立場の問題ではなく(厳密に言えばサイファーの立場の問題だが)
サイファーかそうじゃないか、なのだ。つまり善悪に非常に近い。
すべてを敵味方で割り切る考えに疑問を持ち始めたヒャダルコ
せめて風神雷神の態度を尊重したくなったのかもしれない。