というところでラグナの夢が終わ……らない。
雨の音の中、接続が切れないという女の声が聞こえた。
エルオーネ? 元気なの?
まだ無事だったんだねえ。イデアも正気に戻って一安心だ。
考えてみたらエルおねえちゃんは師匠を使っていないから
イデアのこともサイファーのこともみんなのこともわかって見ていたのだろう。
しかしヒャダルコの心はいま全てをパルプンテに占められているから
ぼやくだけだった。
すると、そのヒャダルコの思念をエルオーネは感じ取った。
ヒャダルコなの?」
エルオーネも一体何人を過去に送ったか知らないが
こうやって対象と話すのは珍しいことなのではないだろうか。
「接続っていうのは、私がそう呼んでるだけ。私の不思議な能力を使うこと。
 わかった……私、眠ってるんだ。だから力をコントロールできないんだ。
 ごめんね、ヒャダルコ。あと少しだけ心を貸して」
普段は起きている状態で心を落ち着けて接続している接続を
眠っていても自然としてしまったというのは、もしかしたらせっぱつまっているのかもしれない。
しかしパルプンテのことしか頭にないヒャダルコは早く保健室に戻りたがっている。
このあたりもとても人間らしい、若者らしいのだが
もともと人間らしくなく、若者らしくなかった人間がいきなり塗り変わったという違和感と
何より「人間らしい英雄なんていらない」という万国共通な思いが
ヒャダルコを今ひとつ主人公にさせないんだよなあ。
今も、心を占領されていることに不満で一杯のヒャダルコをのせて
エルオーネは過去の旅を続けます。


場面が石の家に切り替わった。
ラグナとまませんせいが話している。
内容はどうやらエルオーネのことらしかった。
「やっぱり、ここにはいないよな〜」
「そのエルオーネちゃんはどうしたの?」
ふむ。まだ、エルオーネとヒャダルコが石の家に来る前のことらしい。
エルオーネが行方不明になり、ラグナはそれを探して歩いているようだ。
エルオーネも子どもだから孤児院を当たるのは正しい判断だが
エスタ兵に誘拐されたんだ」
なんと。
二年の沈黙を経てエスタ兵は再度ウィンヒルに侵攻したのだ。
そしてラグナはおそらく記者をしていてウィンヒルを留守にしていた。
レインと、そしてちびヒャダルコは無事だったのだろうか。
とにかくラグナはエルを取り戻そうと旅を続けているらしい。
それは立派だが。
ウィンヒルにいたエルオーネがエスタ兵に誘拐されて
それがどうしてセントラにある石の家に消息を尋ねに来ているんだ?
そういう大事な時ですら道を間違えるという自分のキャラに忠実なのか?
ところでエルオーネがさらわれた理由はその接続能力ではなく
アデルの後継者集めのようだ。だから男の子のヒャダルコはさらわれなかったのか。
つまり、この映像はまだ魔女戦争が続いている間なのか。
もし、先ほどのドラゴン退治の夢がこの夢よりも前であるなら
あの映画監督は、魔女戦争が続いているにも関わらず
『騎士に守られる弱い魔女』の映画を撮ろうと思い立ったということだろうか。
ヒットラーの脅威の中で長い長い演説をしたチャプリンのように
魔女とその騎士との愛を通して何かを伝えたかったのだろうか。
そう考えると、自主映画作家にありがちな
ありえないほどの段取りの悪さもわかる気がする。


エルオーネは娘なのか、と問われたラグナは
「ちがうけど、でも、かわいいんだよ〜。ああ、声が聞きたいな〜」
さらわれたというのに今ひとつ緊張感がないのはもう病気だろうな。
おどけて見せるしかないほど心配しているんだという弁明も聞かれそうだが
ラグナに限ってはそんな殊勝な奴じゃないと思う。
そして、その息子であるヒャダルコも同じように緊張感がなかった。
(オレはパルプンテの声が聞きたい)
お前何言ってんだ。
映画館に行ってずっと隣りの女の子を気にしているようなふるまいだな。
大丈夫なのか? 過去編現在編の主人公がそろってこんなので。
(俺、過去でもなんでもいいからパルプンテの声が聞きたい。動いているパルプンテが見たい。
 もしかしたら助けられるかもしれないんだろ?)
勝手な願いだが、かなわないならばそれは本人基準では不幸せだ。
過去を変えられるかもしれないエルにヒャダルコはすがる。
しかしエルオーネの声は無常だった。過去は変えられないよ。
「私、やっとわかった。
 私がエスタにさらわれたときにラグナおじさんは旅に出た……。
 でも、そのせいで、レインが死んじゃう時にラグナおじさんはそばにいられなかった。
 レインは生まれたばかりの赤ちゃんをラグナに見せたがっていた……。
 レインはラグナ、ラグナって呼んでた。だから、何があっても村にいるように……」
なるほど。
エスタにエルオーネがさらわれ、ラグナはエルをもとめてウィンヒルをあとにした。
どういう事情かわからないが、エルオーネがウィンヒルに帰ってきてもそれを知らずにラグナは旅をしていた。
そうこうするうちに、レインが(病かおそらく産後の肥立ちが悪くて)死んでしまう。
その子はおそらくヒャダルコだろう。それをなぜ本人に言わないのかはわからないけど。
レインは死ぬ前にラグナに会いたいと何度も言っていたから
エルオーネが望んだことはエスタに自分がさらわれないこと
あるいは自分をあきらめてでもラグナがウィンヒルにとどまることだろう。
でも、それはできなかったという。
ラグナが取材の旅に出ないでウィンヒルにとどまれば
おそらくエルは誘拐されなかっただろうが
その時のラグナにとってウィンヒルを離れることは自然な選択だった。
同じように、さらわれたエルを探しにウィンヒルを出るのは自然な選択だった。
「でも、ダメだった。もうあの瞬間には戻れない……。
 それに、私、会ったことのある人間の中にしかあなたたちを送り込めないの」
可能性は低いが、もうひとつ方法はある。
アデルの人攫いをやめさせる、あるいはその対象からウィンヒルをはずすということだ。
これはまだ可能性があるように思われる。
これからヒャダルコたちはアデルと直面するのだから
その時にエルオーネもつれていけばいい。
ちょうどパルプンテの位置が空いているし
エルオーネが戦力にならないなんてのは大間違いだ。
何しろ、SeeD3人に100%命中させるスリプルを使える女である。
今までどんな敵キャラのどんなスリプルにも
3人そろって眠らされたことはない。
それだけ考えてもエルオーネは頼りになる。
そうこうしているうちに、接続が切れそうになった。
「また、あなたと話せるように試してみるね」
消え行く声にようやくヒャダルコの素の部分が出てきた。おねえちゃん! と叫ぶ。
しかし接続は途絶えてしまった。