画面をざっと見渡すと、目に付くのはあのエスタ兵の奇抜なファッションである。
どうやらラグナたちもエスタに来ていたらしい。
そういえばティンバーマニアックスにそういう写真があったな。
いまのところ3人は一緒であり、エスタ兵に何かを命じられているようだ。
その場には3人のほかにD地区収容所で見かけたオレンジ色の小さな生き物もいた。
「そこの細いのとデカい奴は……ルナティックパンドラの中で働いてもらおう」
ルナティックパンドラ? なんだそりゃ。
怪物はみんな月から降ってくるというが、怪物をパンドラの箱のようにあつめた動物園だろうか?
動物園の飼育員は確かに危険でキツく汚い仕事である。
日本の飼育員はものすごく狭き門らしいがこの世界ではよそ者に押し付けられるものかもしれない。
それはそうだろう。
確かに現代の動物でも大半は人間を殺せる力を持っているが
この世界の動物園といったら、大半の動物が全体攻撃をしてきそうだから。


仕事をしろといわれたものの、なにをすればいいのやら。
とにかくエスタ兵に話しかけてみようとするが、おなかが減って声も出なかった。
どうやらここは、あまり食べさせてもらえないくらい苦しい環境のようだ。
奴隷労働か、あるいは虜囚に近いのだろうか。おかれている状況がよくわからない。
ただ、魔女戦争の真っ只中か直後なのだろうから
外国人が歓迎されていないことはよくわかる。
私語をした罰とエスタ兵に言われたラグナと赤い怪物は
作業が終わるまで昼食抜きを命じられた。
ラグナはそれに反対する。
自分のものは2〜3時間(それでも大変だ)で終わるのだがその怪物のものは何日もかかるものだと。
しかしエスタ兵は取り合わなかった。
こういうの、いたたまれないな。
これが、いまはもう魔女に支配されていないとはいえヒャダルコたちが協力を仰ごうとしている人々なのか。
不安になってくるが仕方のないことでもある。
この物語の中で二面性のない人間といったらセルフィとゼルくらいだから。
それにしてもこの生き物は一体なんなのだろう。
バラムはもちろん、ガルバディアでも都市部では見かけなかった。
D地区収容所にはいて、そしてここエスタにいる。
どうもエスタや沙漠に住む生き物なのではなくて
奴隷労働力として狩られてきたのかも知れない。
善良そうな動作をしているだけにかわいそうだ。


作業を続けていたら、監督のエスタ兵が他の兵士に呼ばれた。
彼一人だとでかい奴が手におえないとか。
やっぱり動物園なのか?
でかい奴、といったらさっきのモルボルか何かだろうか。
そりゃ手に負えないよ。人間じゃ無理だ。
兵士はラグナに釘を刺して応援に行く。監視カメラが見張っているのだそうだ。
しかしラグナは気にせず怪物のことを心配していた。
「だいじょうぶか? ふらふらしているぞ?
飯もらってるか? 熱でもあるんじゃないのか? 高いところ怖いんじゃないのか?」
会話が成り立たないその特技は相手によらないらしい。相変わらずだ。
その話を聴いて、ずっと沈黙していた同僚が笑い出した。
その怪物のことを気遣う奴はラグナが初めてだという。
ムンバというその怪物の扱いはひどく、食事も睡眠も人間たちの半分なのだとか。
なまじ知能があるだけにこき使われている生き物なのだろう。
「いつかこっから出られる時が来たら、オレん家でたらふく飯を食わしてやる」
そういえば二面性のない人間の一人であるラグナは心からそう言って励ました。
いい奴なのに、何で俺はラグナ編がいらつくのだろうか。
「実験! 実験! やってみるでおじゃる」
「失敗でおじゃる〜」
誰の声だ? おじゃる丸の叫び言が聞こえてきた。
「また上の研究室で……オダイン博士が、なんかやり始めたらしいな」
するとあれがオダイン博士か。
17年で改心していない限り、イデアはあれに頼ろうとしているわけか。
引き返した方がいいんじゃないのか。
このルナティックパンドラ研究所というところでオダイン博士は研究しており
ラグナたちがここまでやってきたというのであるなら
やはりオダイン博士はエルオーネの力に気づいたか
アデルが気づいて命じたのだと思うだろうがそれは違う。
ラグナは道を間違えることだけは天才的な男だ。
きっとここにはエルオーネはいないだろう。