怪物たちを駆逐して、リフトが使えるようになった。
上昇した先は操縦席のようで、満面に星空が広がっている。
のんき者のパルプンテは大喜びをし、両手を広げて見入っている。
一方のヒャダルコは、目の前に広がる機器類にくらくらしていた。
こんなもの、俺動かせないよ。
D地区収容所のリフトやバラム・ガーデンの衝突回避を成し遂げてきた男でも
一見してチャレンジの度胸さえ奪うような操縦席らしい。
ぱっと見たところそれほど異質なものに思えないが
あるいはすべてのボタンにバカ殿のマークなど貼ってあるのかも。
それは確かにまともな人間では押せない。


そうやって途方に暮れていたら
とつぜん機械が鳴り出した。
ヒャダルコ、機械なんか言ってる!」
自分ひとりで魔女アデルを解放してみせた女傑のはずなのに(ちがう)
パルプンテはもうヒャダルコへのお任せモードに入ってしまったらしい。
仕方ねえ。ヒャダルコが通信機器の前に立つと
音声は『エスタ・エアステーション』
と名乗った。
やはりこれは、エスタ船籍の船なのだ。
エスタ人とは言葉が通じるから操作方法も教えてもらえるだろう。
これまでのようにヒャダルコが適当に乱打したり
なぜかアデルの解除方法を知っていたパルプンテ
なぜかこの船の操作方法も知っていたりするのかと危惧していたが
どうやら、常識的な解決策で地球に帰れそうである。


『飛空艇ラグナロク応答せよ。飛空艇ラグナロク応答せよ』
ラグナロク、かよ。オーディン閣下とは相性の悪そうな名前。
それよりも問題なのは、前三文字がラグナということかもしれない。
とにかくヒャダルコオーディン師匠にとっては不吉な名前のこの船に
エスタから連絡が入った。
いま、地上はどういう状況なのだろう?
いまここまで電波が届いている、ということは
もう地上には電波障害は起きていないのだ。
電波障害は宇宙でお休みのアデルを一切の情報から隔離するためのものだから
もうアデルの封印が解かれ
月の涙の先頭に立って地上に下りていくという事態は把握されているのだろう。
その中で、どうしてこんなはぐれものの船に対する呼びかけをしているのか。
内部にもぐりこんだヒャダルコたちが電源を入れたことで
基地への通信が回復したのだろうか。
それにしてもいちばんの大事はアデル対策のはずだ。
そんな中でラグナロクに手を割いているということは
この船はエスタにとって重要なものなのではないだろうか。
隠滅したい種類の重要なものでなければ
回収しようと思うはず。
前途が開けてきたよ。