ヒャダルコは背景を考えなければいけないが
パルプンテは何も考えないようにプログラムされている。
感激して背中にだきついてきた。
しかしヒャダルコはそれを払いのけたりはしない。
それが不気味だったのか、パルプンテはすごすごとひきさがった。
「この船はラグナロクでいいのか?」
『Wow! ホントにラグナロクか? 宇宙にいるんだろ?』
「宇宙の……どこかはわからない」
『ラジャー! ラジャー! 貴船の位置はこちらで把握している』
どうやら、ほんとうに地上に帰れるかもしれない。
それにしてもヒャダルコは17歳とは思えないくらい慎重だ。
事実を一つ一つ確認してそれを踏まえた発言をしようとしている。
少し分けて欲しい。俺も戦場に行けばそうなれたのかな(死にます)。
ラグナロク……17年ぶりだ』
電波が運んでくる声は感慨深げだった。
なるほど。
17年前、大統領がアデルに立ち向かった。
俺の中の大統領はなぜか、ロープにつかまり頭上を旋回しながら
相手を見もせずに大量の弾薬を叩き込む人でなしなのだが
ともかくアデルはとつぜん現れたチャレンジャーによって戦闘不能にさせられた。
ラグナの夢からすると、その反逆者の後ろ盾には科学者がたくさんついているはずである。
彼らの話し合いにより、アデルが昏倒したら誰かがフェニックスの尾を使う前に
とりあえず宇宙にすっ飛ばしてしまおうということだったのだろう。
そして、それまで宇宙の管制基地だったルナ・ベースを接収し
アデル監視の前線基地とした。
地上では同時に電波障害も開始する。
しかしその動きは当然周知されておらず
ルナ・ベースから航行中にいきなり電波の誘導を失った船がたくさんあったに違いない。
それでも大半の船乗りたちは自力でルナ・ベースや地上に帰還しただろうが
迷子の回収はエスタ大統領と反逆者グループの義務の一つだったのだろう。
そして、最後に残された迷子がラグナロク
名前からして一番最後に来るものであり
さらに最初の三文字は、このゲーム唯一の迷子である。
ラグナロク回収プランは、エスタ事務処理案件台帳における
いつまでも消えない未達事項だったことだろう。
アデル復活は困ったことだけど
未達案件が一つ減ったのはいいことだ、とひっそりと喜んでいるスタッフがエスタにはいるはずだ。
そういう人たちの力で街は動いている。


「俺たちは帰れるのか?」
『こっちにまかせとけ! 燃料は充分残ってるはずだ』
あの怪物たちは宇宙生物だろうから、酸素を消耗しなかったんだろうな。
帰るためには大気圏突入プログラムにデータを入力すればいいらしい。
大気圏に入った後は、自動操縦をしてくれるのだとか。
『大丈夫! なんでも教えてやるさ!』
このノリのよさ、17年ぶりのラグナロクを回収できるというだけではなく
なんとなくエスタ人には二種類いるような気がする。
首都にいるエスタ人たち、ある種ドープ駅長と同じく夢を食べて生きていそうな人々と
ルナ・ベースなどでばりばり働くトライ&エラーを恐れない人々と。
大統領が宇宙まで逃げてきているのも、彼にはこちらのほうが肌が合うからかとおもわれる。
『いま、操縦席についてるか?』
ヒャダルコはあたりを見渡した。
「シートがたくさんある」
こういうキメの細かい会話は大好きだ。
ガーデン関ヶ原のご都合主義の連続とは大違いだ。シナリオ書きが変わったのだろうか?
席について、指示されるままに場所情報を入力した。
そして指示に従い、重力発生装置を切った。
これで準備が完了した。