さて、鉄パイプも何本か集まったので眼下に静まりかえるデリングシティを訪れる。
すでにサイファーが軍を掌握し、ルナティック・パンドラを掘り出したことはわかっている。
問題なのは、どのような力の見せ方をしてサイファーが実験を握ったかだ。
魔女イデアの時は、イデアへの恐怖とイデアからサイファーへの(よくできた道具への)信頼によって
軍はしぶしぶ従っていた、という見方もできた。
しかし今度は、アルティミシアは表に姿を出していない。
サイファーは自分の力と魅力だけでガルバディア一国を手に入れたのだ。
もと同窓生でありもと教え子であり、何より幼馴染であるヒャダルコたちにしてみたら
気になるところである。
でも、実際のところは「しゃあねえ」と重い腰を上げたカーウェイ大佐が実験を握り
サイファーに「パルプンテを救いたかったらルナティック・パンドラらしいぞ」とだまされたあたりじゃないだろうかと思う。


デリングシティは相変わらず兵士による戒厳下におかれていた。
そして、形だけ戒厳体制でも話しかけるとのんきに会話してくれるゆるさも変わらない。
いろいろな話を教えてくれた。
イデアなきあと、この国の指導者はサイファー・アルマシーだ」
「ガルバディア軍は全権をサイファーに託したんだ。若き騎士にな」
「今度の魔女アルティミシアは、騎士サイファー・アルマシーとあたらしい契約をかわしたそうだぜ」
「魔女アルティミシアがバックにつけばハイテク都市エスタにも勝てるさ。魔女戦争の再来だ!」
……あー、わかったよ。
サイファーがどうやってこの国を手中に収めたのか。
魔女アデルにひきずられ、引き起こしてしまった大戦争
いまだ17年前の魔女戦争の記憶も新しいこの国、特にその当事者国であったガルバディア軍にとっては
直視したくない現実だったのだ。
ああ、調子に乗ってなんだかひどいことをしてしまったんじゃないのか、俺たちは。
どうする? いまさらゴメンナサイでいろんな国は許してくれるのか?
特に、バラム・ガーデン。
われらがガルバディア・ガーデンのプロ兵士たちをなぎ倒し
こともあろうに御伽噺の存在だった魔女をなぎ倒したSeeDたちは
危うく学園をクレーターにするところだったガルバディアを許さないだろう。
SeeDは各国に散らばっているし、それを言うなら見事クレーターにしたトラビアの卒業生たちもいる。
考えてみれば、デリング−カーウェイ体制の時も俺たち結構いろいろやってるよな。
そういう鬱憤が爆発したとき、誰がそれを背に負うんだ。
俺か。お前か。


そこに颯爽と登場したのは、魔女の騎士だったフケ顔の18歳である。
あまりの大事に呆然としているガルバディア国民にとって、フケ顔とはいえ美男子で、自信にあふれ
SeeDの学校の関係者でもあり(試験が好きだったことなどは、おそらく国民には知らされない)
生身の人間としてならそのあたりの兵士じゃ相手にもならないだろう。
ガルバディア・ガーデンもつんでれ師匠を捕らえていたように
師匠たちの導入に目を向けてきたところだろうが
師匠の活用について、サイファーには一日の長がある。
客観的に、サイファーはガルバディア軍でもっとも強い男のはずだ。
さらに、魔女イデアに信頼された男が、新しい魔女の存在を語っている。
サイファーは魔女の巫女となり、『魔女が引き起こした窮地に困っていた国民』たちは
「毒を食らわば皿までよ」の気持ちになっているに違いない。
もともと、デリングという優秀な男が17年間もリーダーシップを振るってきた国だから
この場で指導力を発揮できるような穏健派の政治家はいないはずである。
サイファーが声を出しさえすれば、力が転がり込んでくる仕組みになっていたのだ。
普通の神経なら、イデアに見捨てられたところで恥ずかしくて声など上げられないものだが
サイファーはああいう人だし、新しい魔女のお墨付きも得ている。
新指導者サイファーという笑えないジョークもいざ説明されてみると納得のいくものだった。
納得がいかないのはサイファーの人徳だろう。