しかし、ガルバディア軍の所業を実際にしたわけではない市民たちは案外と醒めている。
「悪い夢を見ていたみたい。だれかが何とかしてくれるだろうって
 そんな心の隙間を突かれたのよね。だから魔女なのよ」
自分を落ち着いて振り返り、あれが心の隙間だったと冷静に反省しているものもいれば
「軍の動きがあわただしくて不安になる。いよいよ世界を敵にまわした全面戦争なのか?」
軍の動きに同調はしていないし
「あたらしく指導者になったサイファーが何か大きなことをたくらんでる
 イデアとは違う、もっと大きな悪と組んでこの星に何かをしようと……」
姿を表すことのできないアルティミシアだったが、サイファーとその軍の行動から
なんとなく悪い予感を感じ取っている人間もいる。
ルナティック・パンドラなどという、バカ殿がほしがるようなものを掘り出したことは
兵士から一般人に伝わっているのか。
あるいは、侵攻などがいよいよ苛烈になっているのか。
とにかく、自暴自棄めいた危険な風潮になっている軍部と
冷ややかにそれを見つめる市民の対比が面白い。
「毎日のようにサイファーさまにラブレターを送っているわ。この思い、届くかしら」
たまにはこんなのもいる。


ついでにカーウェイ大佐に話を聞きにいった。
パルプンテのこと、頼むよ」
辣腕のお父さんも、娘のことはお手上げになってしまったらしい。
パルプンテの過去の述懐によれば
お母さんは生きていたころはいつも抱きしめてくれて
カーウェイ大佐も、やさしかったころはいつもひっついていたそうだ。
カーウェイ大佐が娘と距離を置くようになった時期はわからない。
でも、ジュリアが事故でなくなったことも関係しているだろう。
ジュリアという癒されどころ、弱者の視点を教えてくれる相手がいなくなったカーウェイは
これまた、自分たちが蓄えた力をそのままエスタに投影しておびえ始めたデリングと一緒に
猜疑心と悪意のインフレスパイラルに突入する。
それらの日々は、パルプンテを立派なバカに育て上げたが
カーウェイからも、娘にぶつかるという勇気と自信を奪ってしまったのだ。
それもこれも、諸悪の根源はエスタじゃないか。
アデルが引き起こした魔女戦争を、アデルを倒すことでケリをつけた。
反アデルの急先鋒である実行犯が大統領になった。
各国に対して平和共存のアピールをする最高のお膳立てであり、タイミングであったはずだ。
それなのにエスタがしたことは
アデルを宇宙ですべてから遮断するために電波障害を起こし
それだけならまだしも自国の情報を完全に閉ざすという極端な鎖国に走った。
エスタが平和路線を打ち出して、ガルバディアと(不平等でもいいから)きちんと修好を保っておけば
今日のこの日はなかったんじゃないか?
もちろん、エスタ人はそういう気風の民族で
大統領もそうだったか、大統領はエスタにおける対アデルの切り札だからあまり反対できなかったのだろう。


「今度の軍指揮官? まあ、お手並み拝見だね……フン」
カーウェイ大佐のもとには再起の機会は与えられなかったらしい。
そりゃそうだ。
魔女の登場を危機とみなし、戦友であるデリングがまだ存命だったときですら
カーウェイは魔女を殺すために動いていた。
その彼からすれば、どうしても表情に
「ほら、魔女はよくないって言ったじゃん」
という態度が現れてしまうだろう。
それは若い指揮官たちにはけむったいのだ。
過去の人デリングと同世代の古い英雄は
教科書の中だけにいてほしい。
そう思う気持ちはわかる。
「いまいましいことだよ」
そう吐き捨てて、しかしカーウェイは何もする気はないようだった。
じゃあ、シュミ族の村に向かおうか。
もう行った後だけど、アップは明日にでも。