とりあえず近況を知ることができた。
では仕事に移ろう。
せっかく会った友人に、ラグナはここにいるようにと勧める。
レインは「働きさえすれば」と快諾してくれた。
で、仕事ってなんだろう?
店を出て少ししたらキロスがその質問をしてくれた。
「この村はよ、働き盛りの男たちをみ〜んな戦争に録られちまったんだ。
 残ってるのは、じいさんばあさんおとこのこおんなのこチョコボにいぬねこ。
 そのためにモンスターが村に入り込んでいる。
 この俺は、このウィンヒルのモンスター・ハンターよ!」
えー。
戦闘しなきゃいけないの?
せっかくゆうざん師匠がエンカウントなしを覚えているのに。
まあ、パトロールだけでいいらしい。困っている人を救うほうで今日は貢献しよう。
さて、困っている人はどこですか?
花屋では、老主人に
「ここは退屈だろうから、デリング・シティに帰ったら?」
といわれた。
いや、そうはいってもレインがいるし。
それにしても追い出したいのかいてほしいのかどっちともとれる言葉だな。
まあ、困ってはいないようなのでよしとする。


村の入り口まで、結局ゆうざん師匠に守られて到着する。
ここには道具屋があった。
えーと、道具屋を村の入り口に置くなよな。
旅人がここでテントを買い込んでまた出て行っちゃうだろう?
コンビニではかならず清涼飲料水が奥のほうにあるように
道具屋は村のいちばん中心部に作れよ。
そんな、村人のことを考えていない店に入ったら
怪我が治ったんならとっとと出て行けと言われた。
どうやらラグナは招かれざる客らしい。さっきの花屋の主人も追い出したいのかな。
でもそんなことでめげるラグナではない。
とりあえず世間話だ。
なんだ。この主人はレインに恋しているだけだった。
しかしこの村にはじいさんばあさんしかいないのだから
年寄りがレインに懸想しているってことか。
じいさん、もうあきらめろ。
数十年生きてきて奥さんができなかったのなら、もうお前は一生ひとりのままなんだよ。


何も言わずラグナの『仕事』につきあっていたキロスだったが
戻る道でとうとうしびれをきらしたようだった。
「世界を旅するジャーナリストになるんじゃなかったのか?」
やめろ。こいつをけしかけるな。
地図を間違えたり道を間違えたりが日常茶飯事の男だぞ。
魅力を『みりき』と読んでいる男だぞ。
お前を突き落としておいて一秒後に『自分から飛び降りた』と勘違いできる男だぞ。
間違いだらけの紀行文ができあがるに決まっているじゃないか。
「『ティンバー・マニアックス』知ってるだろ? そこの編集長と話をしてきた。
 世界の様子を紹介する記事ならいつでも欲しいそうだ」
おいこらティンバー・マニアックス編集長。
だからお前はスポニチとかと同じ扱いなんだ。
ラグナの記事を信用するな。日本人はもうチョンマゲを結っていないし
ネス湖には巨大な水棲恐竜はいないし
ふたりになると急にベタベタしてくるかわいい幼馴染はいないんだ。
「そりゃすげえ!」喜ぶラグナ。キロスも脈ありと喜んだのだろうか
一度あいさつに行かないとなとせかす。
しかしそう言われたラグナは背を向けてしまった。
レインのことがあるのだろう。
「もちっとここにいてもいいかな?」
「手始めにここを紹介するため、取材をするんだろう?」
「ここはダメだ。有名にしちゃだめなんだ」
あんまり目だって人が集まるとよくない。その言葉にキロスはため息をついた。
「……悪い奴がきてレインをとられる、か? ラグナ……あんた、変わったな」
キロスはラグナとは対象的で、失敗するとわかっていることや
誰かが迷惑をするとわかっていることに踏み出せない性格なのかもしれない。
だから、それを自然と踏み越えてくれるラグナと一緒にいたい。
ラグナという娯楽が必要だ、とキロスはパブで言ったが
ラグナが面白いのではなく、キロスの人生がつまらないのだ。
ジュリアならともかくレインはどこにでもいる女性である。
彼女を愛して添い遂げる役目は誰にでもできることだろう。
そんなことのためにラグナが落ち着いてしまうのは惜しいと
キロスは自分のために思っている。
もちろん自分の気持ちが利己的であることを知っているから強くも出られない。
誰だって変わることをキロスも知っている。
ラグナが変わるのなら受け入れなければならない。