どれくらい経ったろうか。ふたたび地上に現れた収容所から
これ幸いと車を二台かっぱらって逃げ出す。
流れで男カーと女カーに別れてしまいアーヴァインはガッカリしている。
まあ、今回の件では株を下げっぱなしだからなあお前は。
ヒャダルコは無駄なことは言わないし「結局狙いは性格だった」と思っているだろうから
時計台で彼がへこたれていたことを言わないだろうが
パルプンテはうっかりと言いそうである。
となるともともと下がる株は持っていないのか。
それにしても、時計台でへこたれたことをばらされ
なおかつ顔を引っかかれ
そして階段で蹴落とされる。
もし俺がアーヴァインだったら二度とパルプンテに近づかない。


しばらく走った後、車をとめて全員外に出た。
どうやらここは分かれ道らしい。
なぜここで止まったかといえばセルフィが希望したからだ。
ミサイル発射基地に行くならここから分かれないと!
だって、ガーデンが撃たれてしまう!
それを聞いても、相変わらず余計な仕事はしたくないヒャダルコは冷静に拒否する。
「俺たちにできることは可能な限り早くガーデンに戻って危険を知らせることだけだ」
そこで驚くべき発言をセルフィがした。
なんと、彼女はトラビアからの転校生だったという。
……初日の朝に廊下でぶつかった転校生がいたな。案内しろと言われて断ったあれだ。
その転校生は文化祭実行委員になったと聞いた。
そしてセルフィはSeeD就任パーティーの時に文化祭実行委員を集めようとしていた。
って、お前があの食パン娘だったのか?
どうしてそれを言わなかった?
なんで見分けがつかなかった? 俺のテレビが14インチだからか?
驚くヒャダルコに構わずセルフィは続ける。
「だからトラビア・ガーデンがピンチと聞いて黙ってるわけにはいかないの!
 だから、はんちょ、お願い!
 ガルバディア・ミサイル基地潜入計画! メンバー決めて!」
ヒャダルコは迷う。
そんな重大な決定は彼にとって「命じられるもの」だったからだ。
それをすることはSeeDとして正しいのか。
自分たちで可能なことなのか。
今から行って間に合うものなのか。
危険があったとき、誰がその責任を取れるのか。


迷うヒャダルコを尻目にパルプンテがさっさと決を採ってしまった。
ヒャダルコがメンバーを決める。
 ヒャダルコ班長だからバラムへ戻る
 反対の人は手を挙げましょう!」
「わたしも、どっちチームでも文句言わないからね」
その態度にヒャダルコはいらだつ。あんたは部外者だろうと。
思うだけで口に出さないでよかったよ、ヒャダルコ
それを言っていたらたぶんパルプンテにぶっとばされていた。
体力が最大にも関わらず腕からたまを発射して
全体に2,000ポイントのダメージだ。
ついで先生も
ヒャダルコ班長なんだからメンバーを決めて」
と急かした。これにもヒャダルコは反感を覚える。俺が頼んでなったわけじゃないんだ。
ヒャダルコの世界はいまだ狭く
まだ彼は自分をバラム・ガーデンに所属するSeeDであるとしか認識していない。
サイファーはバラム・ガーデンの人間であることを卒業し魔女の騎士になった。
キスティス先生は「教師」というよりどころを奪われて自分を探そうとしている。
パルプンテはガルバディア軍高官の娘という位置をすでに投げ出している。
アーヴァインも、パルプンテに要求されたとはいえ
ガルバディア国民そしてガーデン生徒である自分よりヒャダルコたちの仲間であることを選んだ。
ゼルとセルフィはいい。癒し系だから。
未だに自分自身以外の枠に縛られているのはヒャダルコのみである。
しかし不幸にも、知力胆力と周囲の人に与える説得力でヒャダルコ以外にリーダーはありえない。
だから、ヒャダルコにもSeeDの枠を超えてもらわなければならない。
誓ってもいいがパルプンテはこんなこと考えていない
しかしこれまた誓ってもいいが、彼女はこれを直感している。
だからヒャダルコに決を採って見せたのだ。
自分たちには立場があって
SeeDであったり、ガルバディア国民であったりガルバディアガーデンの生徒であったりしている。
しかしそれを越えて、目の前で発射されるミサイルを止めなければならないと考えているのだと。
だからヒャダルコにもSeeD云々ではなく
個人としてミサイルを止めたいかどうかを考えてほしいのだと。
父親が大佐であると知ったとき
パルプンテは単なる反抗期でレジスタンスに参加しているのかと思ったが
そんな理由でできることではないよな大統領誘拐は。
父親との不仲から透けて見える思春期で
やはり彼女なりに考えてきているのだろう。


ヒャダルコの沈黙で話し合いが膠着したその時、数発のロケットが発射されてしまった。
アーヴァインがいいにくそうに呟く。
発射のターゲットは、最初がトラビア・ガーデンで次がガルバディア・ガーデンであると。
くずれおちるセルフィ。
「ごめんな、トラビアのみんな。あたしなんもできへんかった……」
関西弁だ。トラビアは関西弁なのか。
「せやけど、みんなぶじにおってや。またあえるやんね」
いつまでも落ち込んではいなかった。ヒャダルコに再度はたらきかける。
「今のミサイルは……ハズレだよね〜」
ハズレだ。当たるわけないじゃないか。だから今からでも次の発射を止めに行くんだ。
そうしたら、まんがいちトラビアにミサイルが命中していたとしても
そんなことはありえないが、まんがいちトラビアが破壊されていたとしても
バラム・ガーデンだけでも救えるじゃないか。
ヒャダルコはんちょ、早くバラムに報告! 報告班、誰を連れてく?」
ヒャダルコも拒否はできなくなった。彼にとってはまったく予想外の事態である。
SeeDの仕事でもないのに
ガルバディア軍の最重要地であるミサイル基地に仲間を送り出さなければならない。
自分の責任でだ。
班長なんて……こりごりだ。わかったよ、選べばいいんだろう?)
もうあきらめ気味である。
でも、あきらめたということは
この連中をSeeDとしての理で押しつぶすことはできないと認めたことになる。
これまでヒャダルコの人生は誰かの理に従うことだけだったはずだ。
そして自分が従ってきたなかでもっとも重い学園の、SeeDの理を
この同い年(一人は年増)の連中は退けてしまった。
なぜ彼らはそんなことができるのか。なぜ自分はできないのか。
いやでも考えるようになるだろう。
「これは今までの任務とは違う。誰の命令でも依頼でもない。セルフィ、何か作戦があるのか?」
当然セルフィは考えていない。彼女の頭にあるのはミサイル発射阻止という文字だけだ。
幸いガルバディア軍の車に乗っている。これで中には入れるだろう。
そうしたら中で情報収集し作戦を立てればいいのだ。
命知らずな奴らだよな。
パルプンテもそうだが、目的地を決めるのは得意な奴らが多い。ゼルもそのタイプだろう。
若いからだろうか。
チーム分けをすることになったが
どう考えてもミサイル基地のほうが大変だろう。
ヒャダルコと並ぶ武の柱であるゼルをそちらにくわえることにする。
こいつなら殺されても惜しくない。
そしてセルフィ、ゼルときたところにパルプンテを付け加えたら
目的ばかり並んでだれも計画を立てない集団になってしまう。
かといって先生のリーダーシップは凱旋門の職場放棄で底が割れている。
アーヴァイン、その関西弁をしゃべるミサイルの手綱をしっかり握ってくれよ。