エレベーターに乗り込むとロケットが空を走るムービーが始まった。
司令官の執念で発射されたそれは、しかしセルフィたちの干渉で誤差が少しはあるだろう。
どれくらいずれてくれるのだろうか。
エレベーターが止まってしまった。スイッチを押しても反応しない。
床を開いて、そこから階段を下りることにした。
「長らくひとがいなかった場所だから、なにがあっても驚かないこと」
ヒャダルコの言葉に2人がうなずいた。
しかし、階段を下りるときにパルプンテのヒラヒラは邪魔だよな。
腰にでも巻いとけばいいのに。
ヒャダルコは意外なところで我慢強い。
というか、パルプンテと口論するのがいやなだけかもしれない。
最深部に向けて潜る途中で
炎に弱い敵が沢山出てきそうだからと属性攻撃のドーピング方法を教わった。
そもそもゆうざん師匠が敵をすべてシャットアウトしてくれている。
何の心配も要らない。


ミサイルが迫る中、ついにMD層の最深部に到着した。
それにしても敵に出会わないってストレスがたまらなくていいな。
他の同種のゲームだったら、敵との戦闘は自分を強くする重要な要素だから
出会わなければそれはそれで困ることだけれど
FF8はレベルアップよりもドーピングが大事なゲームだからな。
なんでこのゲームの評価が低いのか、ちょっと理解できない。
それはさておき最下層だ。
なにをすればいいのだろうか?
来てみたものの、ヒャダルコにわかるわけがない。
とりあえずスイッチを入れてみた。
適当に操作すんなよ。押したボタン覚えとけよ。
適当に作戦を立てることでは人後に落ちないパルプンテにそう突っ込まれて
ヒャダルコはむっとするが、結果的にはよかったようで
MD層最深部にあったグロテスクな機械の柱が回転し蠕動し、ヒャダルコたちを乗せたまま
上へ上へと上がっていく。
板はそのまま学園長室をも貫き、棒立ちしていた学園長を拉致して
バラム・ガーデンのいちばん高いところへと登っていった。


いよいよ視認できる距離までミサイルが迫る。
しかしバラムガーデンはなんと空に浮いていた。
……動力は? ゆうざん師匠の同類が沢山とらえられているのだろうか。
三人組とシド学園長はただただ呆然とする。
シドがなにか合点したようだった。そういうことですか。
電波障害が起きたのは17年前である。
それまでは無線ミサイルは標準装備だったはずだ。
そして魔女が君臨していたのは西の大国エスタである。
つまりシェルターには次のいずれかの機能が要求されたのだろう。
それははじき返す力であるか
あるいは避ける力である。
しかし前者は、矛盾の言葉が示すように絶対はありえない。
いつか相手の技術力に凌駕される日が来る。
だったら、シェルターごと移動させてしまおう。そう考えたのだ。
D地区収容所のように沙漠だったら地中に潜るという選択肢を採っただろうが
バラムは海辺である。だったら海まで移動して航行できるようにしよう。
真剣に動力が心配なのだが、それさえ考えなければいい防御方法じゃないか。


目の前でミサイルの着弾を見て
さすがにみんなの頭も冷えたようだ。
二階廊下は脱力した生徒たちSeeDたちで一杯だった。
この内紛でどれくらいの犠牲者が出たかわからないが
悲壮感がそれほどないのだから、死者は少ないのかもしれない。
廊下のつきあたりから外を眺めることができた。
学園はいまバラム近郊上空を浮遊しており
それほどの速度は出していないようだった。鳥の群れが学園と一緒に飛んでいる。
それを見たパルプンテは嬉しそうに笑った。
無線がないこの世界では、飛行場を所有できる金持ちでもない限り飛行機には乗れないだろう。
高いところから、風に頬をなぶられながら世界を眺めるのは初めての経験だったのかもしれない。
ヒャダルコとキスティスは慣れたものだと思われる。
ガルバディア・ガーデンでは個人用飛行器具が実用化されていたから。
あれは確実に兵器として役立つから、それをSeeDが操縦できないなんてことはないだろう。
ダンスよりは優先度が高いはずだ。
のんびりしているヒャダルコをシュウ先輩が呼びに来た。


学園長が大至急来いと命じているらしい。
なにが起こったんだろう?
いってみると
ヒャダルコ! 操作が聞かない、というかわからないんですよ!」
いや、それを言われても。
これはもう、ヒャダルコでなくても「なに言ってんだ」と思うところだ。
シド学園長、あんたそれでも大人かそれでも学園長か。
この混乱で一時的に責任感や自信を喪失しているのか
それともシドとは所詮この程度の人間で、魔女に対してだけ執念を抱いているのか。
いや。
シドって案外運転免許を持っていなかったりして。
SeeDにとっては当然授業のうちだろうけど
考えてみれば、校長が中学校の授業を一緒に受けたことないもんな。
免許を持っていなければ、持ってさえいれば見よう見まねで何とかなるんじゃないのかとか
思うものかもしれない。
しかもヒャダルコは、MD層でこれを起動した実績を持つ。
この混乱で参っていて、なおかつ免許を持っていなくて、ヒャダルコの起動実績を誤解している。
そういう風に解釈してあげよう。
やけになったヒャダルコがむちゃくちゃに操作盤をいじったら
なんとか直撃ルートだけは回避することができた。
バラム・ホテルの従業員が驚く中
バラム近くの海岸に着水する。
どうやら、安全だけは確保されたようだった。