黙って自分を睨むだけのヒャダルコを、パルプンテは身をまげて下から見上げた。
「ね、コンサート、一緒に行こう?」
このポーズ、この子は好んでするのだがどうしてだろう。
よくmixiのプロフィールに載っている、女の自分撮りが見上げ顔ばかりなのは
少しでもかわいく見せようというけなげな計算だとどこかで読んだことがあるが
やはりここ一番として自らの最強の角度をもって勝負に臨んでいるのだろうか。
それとも、これは悲しい想像だが
ヒャダルコは黙りこくると視線を下げてしまうのかもしれない。
視線を合わせようとすると自然と上体を下げてしまうのかも。
とにかく今のパルプンテができる努力を全てしているのは間違いないだろう。
がんばれパルプンテ。その男をどうにかしてくれ。
それにしても、ヒャダルコの無関心というか関心を押し隠す態度は相変わらずだ。
ヒャダルコのコンサートに関する最新情報は
セルフィがガラクタの前で泣いている、というもののはずなのだ。
それからヒャダルコはシドに呼ばれ
延々と部屋で考え事を続けてきた。
そして、みんな何してるんだ? と考えた。
つまりコンサートホールが再建されて、みんなが練習しているとは知らないのだ。
それなのに、「コンサートができるようになったのか?」などとすら訊こうとしないのだ。
事情は知らないが、コンサートができるようになったらしい。俺には関係ないが。
そう世間を断ち切ってしまっている。悲しいことだ。
もう少し考えれば「セルフィは喜んでいるだろうな」まで想像が進んだだろうに。
そこまで考えが及べば、まさか「俺には関係ないが」とは思うまい。
退屈だったときに(みんな)と自然に思ったくらいだから
明らかに、この5人は重要な位置にいるはずだ。


さてヒャダルコの選択肢だ。
*(……そんな気分じゃない)
 (……そんな気分じゃない……けど)
落ち込んでいたセルフィを慰めてやるために無愛想なりにがんばった。
いま、コンサートができるようになったのならば彼女は大喜びしているだろう。
いくらヒャダルコでも、見にいってやろうと思うはずだ。
だから後ろの選択肢のほうが自然なのだが
ここはぜひ、この無愛想を引っ張り出すという大仕事を
この白いドレスの魔女がどう果たすのか見てみたい。
ということで、拒絶させてもらうことにする。そんな気分じゃないんだ。
「どうして?」
おお。パルプンテが成長している。
ティンバーにいたころの彼女なら「命令よ」と言ったはずだ。
そしてヒャダルコは命令に逆らえない。
セルフィもそれを期待していたと思うのだが、パルプンテは気持ちをほぐすことでヒャダルコをつれてこようとしている。
やっぱりもう、みんなとの間に「命令」を挟みたくないのだろう。
「あんたには関係ない」
話し合いの余地があると知ったヒャダルコはつっけんどんな物言いになる。
ヒャダルコの両肩にはずーんと責任が乗せられている。
目の前の女ではなく自分の肩にだ。
「どうして」に答えるにはその責任を話さなければならないだろう。
重荷を乗せられたら自分はいやだから、誰かに投げ出すことをしない。
これはヒャダルコの美点のひとつである。
仲間は水臭いと思うだろうが、程度を間違えなければこれは正しいのだ。
するとパルプンテが笑い出した。
「リアクションがキスティスの言った通りで面白すぎ!」
失礼な女だな。
でもこの場でその失礼を言ってしまったってことはやっぱり緊張していたのかな。
ゼルとキスティス先生が通路に来ていたのも
ギリギリまできっと勇気がもてなかったからではないだろうか。
この失礼さはその反動ではないかと思える。


ともあれ、笑ってばかりではヒャダルコの苛立ちが危険水位まであがってしまう。
パルプンテは話を進めた。お出かけ気分になれないのはわかる。
「とっても思い命令を受けたんだもんね。でもね、わたし、みんなの代表として
 ヒャダルコとお話したいの」
ヒャダルコもさすがに気をそそられたようだった。
みんな何してるんだろう? と気になって天岩戸からでてきたところなのだ。
そのみんなが自分のことについて考えたことは気になるに決まっている。
「キスティス、セルフィ、ゼル、アーヴァインに、わたし」
みんな、を具体的にひもといてみせた。
五人の名前はそれなりの重みがある。
自分はその五人の期待を背負っているのだと。
そしておそらく、その五人があなたを心配しているのだということも
同時に伝えたいのだろう。
だからわたしの顔も立ててくれというお願いにヒャダルコは考え込んだ。
確かに気になっているらしい。
*(行ってみるか)
 (気になるけど……やめとく)
ここまできて後者を選んだら却って不自然だけど
パルプンテがどういう奥義でヒャダルコを引っ張り出すのかも見てみたい。
しかし、それを見てここに転記するという作業は
たぶん俺には苦行になると思うんだ。
だって、パルプンテはいざとなったらものすごく恥ずかしいことをするはずだから。
ということで、ヒャダルコにはおとなしく従ってもらうことにする。
どうせ二周目をやることは確定しているのだから
次にあがいてもらうことにするか。
うなずいて同意を示すとパルプンテは飛び上がって喜んだ。
大命を思ったよりも簡単に果たすことができたことが嬉しかったのだろう。
いい子だ。