場面は一気にF.H.の駅長室への通路へ移った。
駅長室のあたりでは巨大なステージが燦燦と光を発している。
夜でもこんな大量の電力を使えるあたり
風力発電も相当なキャパシティがあるのだろう。
ガーデンも技術供与を受ければいいのに。
ほぼ確実にたつきち師匠の同類から搾取しているんだろうからさ。
あたりには、ステージを眺めて気合を入れているセルフィと
ふたりを迎えるアーヴァイン
ステージを眺めながらおしゃべりに興じる女生徒がいる。
「よっ! おふたりさん!」
アーヴァインはヒャダルコだけを、セルフィとパルプンテから聞こえない場所に連れて行った。
いい雰囲気じゃない? と冷やかしてくる。
やっぱりまだこいつはヒャダルコのことがわかっていない。
一方が「お願い!」と両手をあわせて始まったデートに
いい雰囲気もくそもないじゃないか。
頭を抱えるヒャダルコにアーヴァインは続けた。
ふたりの思い出作りの夜にぴったりの場所があるんだ、と。
いい思い出になるならいいのだけれど。
ステージ横にいい場所がキープしてあるという。
雑誌を置いておいた、というがそんないい場所なら雑誌くらいでキープできないと思うのだが。
礼なんかいいって! とアーヴァインはこちらの話をまったく聞かない。
「我らのリーダーの役に立てばうれしいぜ〜」
ヒャダルコはふたたび頭を抱えた。しかし面倒くさくなって適当に話をあわせることにした。
「機会があれば使わせてもらう」
「僕らが行ったら交代してよね〜」
僕ら? ああ、セルフィとか。
このカウボーイはそっちの方で頭が一杯だったんだな。
もともと落ち込んでるセルフィを慰めて一歩でも前進するために始めたことが
ほかならぬそのセルフィの意志で「ヒャダルコ激励会」に変わってしまったのだから
藪から蛇というところだろう。
とりあえずみんなの手前、ヒャダルコのためにも(勘違いだが)働く。
しかし自分の目的は忘れていなかったのだ。
さすが、セルフィいわく「ずっと軍隊ぽい」というガルバディア・ガーデンでドドンナに目をかけられた男だ。
考えすぎで思い切りが悪いことを覗けば思考法は合理的で頼りになる奴なのだ。
でもまあ、お前がセルフィにかけようとしているモーションにはその思い切りこそが必要だ。
アーヴァインもセルフィもいい子たちなので健闘を祈りたい。


カウボーイはステージに感動して会話が聞こえていないかのような背中に近づくものの
思い切りの悪い彼は声をかけられずに立ち尽くしてしまった。
なんだかこっちを応援したくなってきたよ。
三人ともが近づいてきて、自分の後ろで立ち止まっているのはさすがに気味が悪かったのか
セルフィは振り返ってなんだと訊いた。
アーヴァインは応えず、身振りで先に行っててと合図をする。セルフィは従って走っていってしまった。
それを見ていたヒャダルコも、さすがに意地悪な気分になったのだろうか
「(今回は)震えていないみたいだな」
と古い話でからかう。時計台にいたパルプンテも同じことを思い出したか笑い出した。
もうずっと昔のような気がするが
あれがこの二人にとっては始まりだったのだ。
ガルバディア一国の利益よりも仲間をとったアーヴァインと
一人では何もできないということを思い知ったパルプンテ
あの時に二人のヒャダルコに向かう信頼は大きく膨らんだはずだ。
「忘れてくれよ〜」
時計台を思い出しても笑えたパルプンテと、みっともなさを指摘されても取り乱さないアーヴァイン
子どもたちは順調に成長していますよ、ドドンナ先生。カーウェイお父さん。