トラビア・ガーデンに到着した。惨憺たるありさまだった。
もとはドームに近い構造だったようだが
ミサイルの直撃のためか一部をえぐられた学園は見下ろすとパックマンに見えるはずだ。
残骸から読み取れる建物の色は白をベースにして青の模様が入っており
ガルバディアの赤、バラムの青というきつい色ではないところで弱さが感じられる気がする。
中に入ってみよう。
「ひどい有様だな」
ヒャダルコのその言葉にキスティス先生もアーヴァインも答えられない。
その外壁の傷み方汚れ方は、誰もそこまで手をかけられないことを示している。
一歩間違っていたらバラムもこうなっていたのかと思うとぞっとしているのだろう。
そして母校が“こうなってしまった”娘が耐え切れずに駆けてきた。
「ミサイル……直撃?」
ずっと信じたくなかっただろうが、現実は動かない。セルフィはぐったりする。
「……あたし、行ってくる」
セルフィはお猿さんか何かのように身軽にネットを登って行ってしまった。
気をつけろよとは言ったものの放っておくわけにも行かない。距離を置いてあとについていく。
勝手知ったる風情で駆けていってしまったセルフィに続いて歩いていくと
ゼルとパルプンテもセルフィを追ってやってきた。
どうやら止めるのも聞かず飛び出してしまったらしい。
「あいつ、きっとショックでかいんだろうな……」
アーヴァインが心配そうに呟いた。。
ガルバディア、バラムの両ガーデンは無事でいる。デリングシティもバラムもそうだ。
誰もふるさとを失っていないから、セルフィの気持ちは想像するしかない。


広場のようなところに出たら、セルフィが誰かと話していた。
どうやら、生き残りも避難せずこの廃墟にこもっているらしい。
何しろ周囲は氷雪吹きすさぶの印象があるツンドラを思わせる気候である。
トラビアの周辺は、山塊に囲まれた盆地となっており、比較的安定してそうだが
その盆地を出たらやはり極寒を覚悟しなければならないだろう。
それよりは、トラビアへならば物資の流通ルートも確立しているだろうから
せめてここで温暖な気候になるまで待った方がいいはずだ。
とはいえ、ゲームの中の季節は夏である。
夏ですらこの積雪だったらいったいいつが温暖な気候なのよという気もする。
セルフィと話している女性は私服を着ているが同年輩のようだ。
見守るうちにセルフィが全身で喜んだ。
被害も出ただろうが、思ったよりはいい状況なのかもしれない。いいことだ。
近づいていくと、「セルフィがお世話んなってます」ぺこりと頭を下げられた。
*(世話なんかしてない)
 (適当に合わせるか)
選択肢だ。どちらかというとセルフィには世話になっている方なのだが
まあ、ここでそんな説明もばからしい。
「……セルフィは良くやってくれてる」
友達の前でほめられて、セルフィは顔を隠してしまった。その様子に友達も驚いている。
「どないしたん?」
「全然ヒャダルコっぽくない〜」
(……悪かったな)
おー! 俺、この「悪かったな」を完全に予想してました。
さすがに60時間もゲームをやっていると理解が深まります。
友達は、セルフィと話したら元気が出たと言ってくれた。
まあ普段はヒャダルコたちと同じく「わかったからお前ちょっと黙れ」ということが多いのだろうが
つらい時にセルフィはいい薬ですな。
どうやらここは安全なようだ。セルフィが友達との用事を済ますまで
一人にしておいても大丈夫だろう。
言われたとおり運動場で待つことにするか。


歩いていたら、寂しげな一角に入り込んでしまった。
たくさんの墓石が並んでいる。
しかし、そこには規則正しさがない。
ミサイル直撃ででた死者たちを、とりあえず埋葬したために
区画整理もなにもなかったのだろう。
墓石のひとつにはファーがついたジャケットがかけられている。
墓石の持ち主の遺品なのだろうか、生きている人間からの供養なのだろうか。
しかし墓場にゾンビーのドローポイントがあるというのはどんなもんだろう……。
広場に戻ったが、セルフィはさっきの女の子とまだ話していた。
横を通り過ぎるヒャダルコたちにも目もくれない。
一番の友達だったのかな。せめてその子が無事でよかったよ。広場をあとにする。