看病疲れのひとに挨拶していたセルフィに、子どもたちが駆け寄ってきた。
男の子が開口一番でセルフィに謝っている。
「えー? なにー? なんで謝ってんのー?」
「セルフィがくれた、クマさんのぬいぐるみ、助けられへんかった!」
強い子だ。あんなに墓場を作ったほど人死にが出たのに
その場にいなかったセルフィに愚痴っぽいことを言うでもなく
もらったものを壊したことを謝っている。
セルフィはいい友達に恵まれているんだとこれだけでわかる。
「セルフィのクマちゃんは、そんなんでへこたれるほど、ヨワヨワちゃんちゃうで!
 あんたらみんなが無事やったらクマちゃんも喜んでるからね」
いいお姉さんでもあったようだ。
「聞こえるよ! クマちゃん、みんなをコッソリ見てるって」
子どもたちは顔を見合わせた。もちろん彼らには聞こえない。
でもセルフィが聞こえると言うのなら、多分そうなのだろう。そんな感じだ。
「クマちゃんが見てへんと思って、わがままゆうたり、メソメソしたらアカンよ!」
この関西弁はいったいどうなんだろう、生粋のひとからしたら。
以前、小説で方言の再現を目指したことがあったが
どうがんばっても不可能だった。京都人Aに書いてもらったそれをBに読ませると「ちゃうで」といわれる感じだ。
FF8はたくさん売れたという。この関西弁はどうだったのか?
これがオッケーなら、俺も方言バージョンに挑戦しようかと思える。


元気が出た女の子に、セルフィが好きかと聞かれた。
*きっとすき
 それほどでもない
この状況で後者を選べる奴がいるのか。いるな。このゲームの主人公だ。
でも子どもの気持ちは最優先されるべきものだ。前者を選ばせてもらう。
「じゃあアタシと一緒や!」
しまった。つまらない。後者を選ぶべきだった。
男の子に話しかけると
「セルフィって抜け道王なんやで!
 セルフィが見つける抜け道いっつも、ビックリするようなところに出るんや」
確かにドールでも、三人がかりでようやくたどり着いた電波塔に颯爽と登場してたな。
あれも抜け道王ならではのことか。
ミサイル基地からF.H.なんて大変な抜け道である。
大したものじゃないか。
「僕ら、いっつも驚かされんねん!」
俺たちも彼女には驚かされています。


建物は崩壊寸前だけど、人間はまだ折れていない。
食料計算に奮闘するもの、整備でがんばるもの
夢の中でトラビアを守るために戦っているものそれぞれである。
ちなみに、夢の中で戦う彼は師匠を召喚していた。
トラビアも『何でもあり』に切り替えたのか。
それとも、俺たちが夢の中で拳銃を撃つようなものだろうか。
その中で、古い日記を見つけだした男がいた。
ガーゴイル像から南へ五歩」と書いてあるという。
ガーゴイル像? 広場にあった残骸のことだろうか。
広場に戻ったら、セルフィと話していた女の子が座っていた。
セルフィだったら墓場に行ったという。
そっとしておくべきかとも思ったが
ミサイル直撃の瞬間この場にいなかったことはやはり引け目に感じているかもしれない。
そのためにトラビアの仲間に言いづらいこともあるかもしれない。
話を聞いてやろうか。ちょっと様子を見に行こう。
墓地では、セルフィが墓石の前でちょこんとしゃがんでいた。近づくとその言葉が洩れ聞こえる。
「……あたし、がんばったよ……!
 結局、ステージは壊れてしもたけど。あたし、夢のバンドやって見せたよ……」
文化祭実行委員会の仲間だったのだろうか。
「みんなと約束したよね。あたしたちだけで、あたしたちのために
 心に残ることをやり遂げよって。
 ……ね、ね、あたしがやったステージ
 みんながやりたがってたステージ
 みんな、見てたよね? みんな、聴こえてたよね?」
そうか。だからあれほど一生懸命だったのか。
セルフィなりに、トラビア・ガーデンの衝撃を受け止めるために
何かする必要があったのだ。


セルフィはこれからもがんばると墓石に誓った。この調子なら大丈夫だろう。そっとしておこう。
そのまま立ち去る。
ちなみに「ガーゴイル像から南に五歩」には
『月刊武器8月号』が落ちていました。
いまは3,4,5,6,8とそろっているから7月号もどこかにあるのだろう。
しかしガンブレードの最強バージョンは創刊号に載っているらしい。
創刊号を探そう。