サイファーよ、おまえもか。
この調子で風神も雷神も出てくるんじゃないだろうな。
ニーダやシュウも出てくるんじゃないだろうな。
まませんせいは実はカドワキ先生だったとか。
もうなんというか、この度の騒動は全部この石の家からはじまりましたーっていう感じの。
エルオーネが過去を変えたいのは、ラグナに石の家の関係者を全部殺してほしかったからだとか
そういうことになるんじゃないだろうな。
透けているヒャダルコが子供たちに触れていく。
サイファーはいつだってサイファーだった。今もそうだ。今後もそうだろう。
ゼルは泣いたり叫んだりうるさかった。そういう意味では変わってないな。
なんと!
(アーヴァイン? 悪いな、おぼえていない)
あははははははは! ひどいなー、お前。アーヴァインがセルフィだけを意識している子だったらわかるけど。
キスティスはこの頃から苦手だったらしい。
セルフィはいつも走り回っている子だった。
子どもたちに触れることで、ヒャダルコにもみんなの思い出が蘇ったのだ。一人を除いて。


場面はふたたびバスケットコートへとうつる。
サイファーもいっしょだったよ。パルプンテ以外みんな一緒だったんだ」
それ、本人気にしてるだろうにわざわざ口に出すなよ。
ついさっきまで、価値観の違いが怖いって言ってたのを忘れたか。
回想シーンが長くて1時間以上経ってしまっているけど
ゲームの中ではついさっきだぞ。
ってことは! セルフィが後ろを振り向いた。
あー、そうか。
先ほどみんなが共有した思い出に、彼らの視点では出てこなかった子がいたのだ。
しかしアーヴァインは「パルプンテ以外」と言った。
ということは、子どもはもう一人いて、その子はみんなとかかわろうとしなかった。
そいつは現在でもなるべく他人とかかわろうとしていない。
「ああ……俺もそこにいた」
「俺は……いつも『おねえちゃん』の帰りを待っていた」
ヒャダルコの回想のなかで、ちびヒャダルコは繰り返す。
お姉ちゃんいなくても大丈夫、なんでもひとりでできるようになる。
ヒャダルコは頭を抱え、全然大丈夫じゃなかったと認めた。
いいことだね、ほんとに。
エルオーネのことを覚えているのはヒャダルコだけだったようで
4〜5歳ほど年上だったから、みんなからおねえちゃんと呼ばれていたらしい。
「キスティス、ゼル、セルフィ、アーヴァイン、サイファー、エルオーネ、俺……
 どんな意味があるのかわからないけど確かにみんないっしょにいた」


どうして、エルオーネはヒャダルコたちにラグナの時代を見せるのか。
過去を変えたい理由はひとつしかない、と先生は指摘する。今が幸せではないのだ。
「そういうことなら力になってやりたいぜ! 同じ孤児院で育った仲間だもんな!」
ゼル……いいやつだなあ、お前。
こんなにいい子だと知っていたらエルオーネもまず事情を説明しただろうか。
いや、思い出していないから無理か。
孤児院の記憶を鮮明にもっているアーヴァインでも
エルオーネという名前とおねえちゃんは結びつかなかったくらいだしね。
それを彼はヒャダルコのせいにする。
「みんなおねえちゃんが好きだったのにヒャダルコがひとりじめしてたんだよね〜」
よく覚えているなあ。ほんとのことだけにヒャダルコもばつが悪いようだ。
でもそれはしょうがないのでは。
俺の推理では、母親であるレインと離ればなれになったヒャダルコ
石の家に落ち着くまで、世界にはエルオーネたった一人だったはずだ。
もしその流浪の間に辛い目にあったのなら、エルオーネ以外に心を閉ざしてもおかしくはない。
まませんせいはさすがに大人だったからその心をほぐしたらしいけど
子どもたちじゃあ無理だろう。
そしてヒャダルコは疑問に思い当たった。
ヒャダルコは、おねえちゃんのことばかりを思っていたから引き取り手が現れず
同じく性格に欠点のあるサイファーとともに五歳(サイファーは六歳)のときにはガーデンにいたはずだ。
しかし、孤児院のころの話をしたことがない。
五歳のころですら、そんなことを考えもしなかったという。
「変だと思わないか?」
キスティス先生も記憶をたどる。
「私……おぼえてる。いいえ、思い出した。私、引き取られた家でうまくいかなくて10歳でガーデンに来たの。
 その時、サイファーとヒャダルコに気がついたわ。サイファーとヒャダルコはいつもケンカをしていたの」
そのころの記憶はもうヒャダルコに残っている。たしかに、キスティスが止めに入ってきたことを覚えている。
サイファーはいつでも自分が中心にいないと気がすまない子どもだった。
 それなのいヒャダルコはいつも無視してて……。
 そしていつも最後はケンカ。ヒャダルコも逃げればいいのに黙って相手してた」
10歳くらいの1年差って、身体の大きさは結構ある。
くわえて、今の体格から考えてもその差は大きかっただろう。
そんな相手とのケンカは大変だったろうにな……。
見かねたキスティスが、相手しなければいいって言ってやっても
やられたヒャダルコはベソをかきながら
「1人でもがんばらなくちゃおねえちゃんに会えなくなる」
と言っていたそうだ。
そんなヒャダルコを放ってはおけず、先生はエルオーネの代わりになろうとしたらしい。


おっと、先生が危険水域に入りました。
言わなきゃいいことを言いそうな雰囲気ですよ。誰か、止めれ。
「私、教官になってからもヒャダルコが気になって仕方なかった」
あー、始まった。みんな、聞き流す用意はできているか?
「それは恋だと思ってた。私は教官だから気持ちを隠して隠して……でも違ったんだわ
 子どものころの姉のような気持ちだけが残っていて……」
そういうことだったのか、とキスティス先生はすっきりしたみたいだった。
それにしても口に出す必要もないことなのに、わざわざ言ったのは
パルプンテに対する気遣いだったのかな。
でも水を差すようで悪いが、その女はそんなことなんかまったく気にしないぞ。
自分と照らし合わせて、サイファーも同じことなのだろうと先生は考えた。
彼もまた、ヒャダルコのことは忘れているけれど
子どものころから無視され続けた気分だけが蘇るのだろう。
なおかつ今でも無視してくれるのだから、ヒャダルコにだけは相乗効果をもたらしたのかもしれない。
「……どうして忘れるんだ?」
ヒャダルコが本質に触れようとしています。
「子どものころから一緒にいて、それでどうして忘れられる……」
もちろん、師匠のためです。
師匠は力を与えてくれるけれど、住みつくのは脳の一部らしい。
だから記憶を失ってしまう。
学園の教師だったキスティス先生は反射的に批判しようとするが
そろいもそろって忘れている、しかしアーヴァインだけは覚えているこの状況は説明できないだろう。
「そんな危険なものシド学園長が許すはずないじゃない?」
いやあ、シドさんですから。しかもノーグもいたし。
それに、こうやって芋づる式に記憶が蘇るところから考えると
記憶は『消される』のではなく『思い出しにくくなる』ということだと思われる。
1人では思い出せないけれど、何人かが集まってヒントを与え合えば、復元できる。
だから、物心つく五歳から受け入れを開始しているのかもしれない。
五歳以前の記憶というのはそれほど重要ではないし、俺だってほとんど覚えていない。
五歳以後は、身の回りに友達がいるから、師匠に忘れさせられてもその都度思い出していける。
完全とはいけないが、全寮制の学園という仕組みをとれば
デメリットは看過できる程度でおさまると読んだのかもしれない。


「セルフィはどうなの?」
それでもキスティスはシド学園長の、学園の方針の善良さを信じていたいらしく
どうしてセルフィが忘れていたのかに疑問をぶつけた。
実地試験の当日に転校してきたセルフィは、当然その日が初師匠である。
そして師匠にお目見えする前にヒャダルコに会っているのだ。その時気づかなかったのか?
セルフィが言うには、12歳の時に野外実習にいったとき
倒したモンスターにいた師匠を一時期お迎えしたことがあったそうだ。
そこで記憶が抜け落ちたのだろう。
っていうか、12歳でもう野外実習でモンスターを倒していたのか……。
多分、セルフィはその時にいくつかのことを忘れたことがあるのだろう。
セルフィの日記に、わざわざ師匠の記憶障害について書かれていることは
その経験から生まれた不安を全員が師匠と仲良しのバラム・ガーデンの人間に否定してほしかったのか。
でもまあ、あの日記は誰も読んでいないよきっと。
キスティスが折れた。どうやら師匠の記憶障害はほんとうにあることらしい。
「どうする?」
とキスティスが誰にともなく呟く。
「どうするって……それはそれでいいだろ?」
ヒャダルコの言葉にゼルが驚く。
以後、『師匠』は『G.F.』と脳内で変換してください。
「ここでやめるのか? 師匠をはずしてほしいか?
 戦い続ける限り師匠が与えてくれる力は必要だ。
 その代わりに何かを差し出せというなら俺は構わない」
ものすごくSeeDらしい考え方だ。
その考え方に不安を抱いたパルプンテが契機となって始まった話なのに
着地点は結局そこなのか、お前たち。
セルフィはもう少し建設的だった。日記をつけよう!
「きっかけがあれば思い出せるよ!」
だから、交換日記のコーナーにお前も書けやヒャダルコ、というところか。
確かにセルフィは正しい。
今回も、、みんながヒントを与え合って石の家のことをかなり思い出せた。
記憶はなくなってしまったわけではないのだ。
詳細な日記をつけていたら、それがきっかけになってくれるだろう。
ただ、ヒャダルコやキスティスあたりが詳細な日記を書いたら自殺するきっかけにもなるかもしれない。
ゼルの日記だったらパンの種類だけ、アーヴァインの日記だったら女の子の名前だけ
そういう偏った日記になりそうだ。
仕方ない、ということでパルプンテに日記役を頼んだら
もし挨拶の言葉を忘れても「おハロー」しか補充されないので困ります。
わだかまりを感じているゼルだったが、結局は納得した。
記憶はきっかけがあれば蘇るものだ。
そして、師匠の力は両親を守るために必要な力なのだ。