エレベータを登っていよいよ魔女の部屋となる。
直前にセーブポイントがあるのは、やはり強敵だからだろうか。
ヒャダルコたちがのんびりとセーブをして、お互いにハイポーションを使って
ドーピングの再チェックをしている間もサイファーとイデアは待ってくれていた。
イデアは紙のように薄く、ゆらゆらと漂っている。
画面が小さいからわからないけど、透明な椅子に寝そべっているのかもしれない。
サイファーがおどけた調子でガンブレードを振り回した。
「なんだよ、久しぶりに母校にいこうと思ってたのによ」
あんな連中引き連れてか。どこの暴走族だお前は。
しかしヒャダルコは相手にしなかった。ただ一言
「だまれ」
そこにいるのはサイファーでもまませんせいでもない。『敵』である。
しかしサイファーは黙らずに続ける。
「おまえ、まませんせいを倒しに来たのか? ガキの頃の恩は忘れたか?」
サイファーも石の家のことを思い出していた。
そして、ヒャダルコたちも思い出しただろうと踏んでいるのだ。
ヒャダルコが必死にまませんせいのことからあたまを切り替えようとしているだけに
目ざとくそれを読み取ったのかもしれない。
サイファーの揺さぶりは続く。今度の標的はパルプンテだった。
パルプンテ、おまえ、オレと戦えるのか? 1年前はよ……」
おーい、サイファー。男がそれをくちにしちゃいけないよ。
別れた女のことは、訊かれても「手も握らなかった」って言うようじゃないと。
サイファー番長がすばらしい勢いで自分の株を下げています。
そりゃ、風神雷神も愛想を尽かすわよ。
多分風神にもこんなようなこと言ったんだ。
そして風神に蹴っ飛ばされた。
お次はキスティス先生だが、これは一筋縄ではいかなかった。
「キスティス先生、オレはかわいい教え子だろ?」
「そんなこと忘れたわ」
一蹴である。
それにしても、セルフィをつれてくればよかった。
どうせゼルにはチキン野郎と言うに決まってるから興味もないが
セルフィやアーヴァインになんと言うのかは知りたかったな。
二周目ではどちらかを確認しよう。
それにしても、キスティス先生の切り返しはステキである。
金髪・めがね・ムチの本領発揮というところだろう。


「俺たちの気持ちをぐらつかせようとしても無駄だ」
ヒャダルコサイファーに釘を刺した。
「あんたは何者でもない。あんたはただの『敵』だ。
 あんたの言葉は届かない」
痛烈な一言である。
そうまでしないとサイファーとまませんせいとは戦えないのだろう。ヒャダルコは刀を抜き放った。
「あんた、俺たちにとってモンスターと同じだ」
さすがにサイファーは気に障ったようだった。
「モンスターと同じだぁ?」
そして大笑いをする。
「オレは魔女イデアの騎士だ。
 群れて襲いかかるモンスター。
 そりゃ、お前たちだ」
しかし、どこの世界で魔女が守られる存在になってるんだ。
サイファーが図書館に取り寄せを依頼した『魔女の騎士』だが
映画版でもいいからいっぺん観たくなってきた。
群れて襲い掛かるモンスターに悲鳴をあげるべき魔女のしてきたことを見ろ。
デリング大統領には影武者としてモンスターを分け与え
パルプンテにはやはり獣をけしかけ
つんでれ師匠をひっとらえてきて抑留した。
イデアのほうが明らかにモンスターの親玉じゃないか。
そういう現実を見ていないのか
サイファー一人だけが別の世界で別の物語に生きているような気がする。
「さあて、モンスターを退治するとするか!」
結局、戦いが始まった。


サイファーからはヘイストが吸い取れるので、とりあえず3人ともドロー放つで自分を早くしておいた。
そしてキスティス先生が何度かぶんどりにチャレンジするが
なかなか成功しない。
結局、大事をとったパルプンテのケアルを2回かけたあたりで
ようやく『メガフェニックス』というものを8個もらうことができた。
さあ、やってしまおう。
ヘイストを吸い取っていらい何もしないでいたヒャダルコが連続剣を起動すると
サイファーの夢は砕け散った。
「なぜだ! なぜお前に勝てない?」
いや、三対一だし。
師匠がこっちにたんまりついてるし。
ヘイストドローさせてくれたし。
お前さんがどうして勝てると信じられるのかがわからんよ。
「……役立たずめ」
おい、言われたぞサイファー。
騎士ってのは、守る姫君から信頼されたり心配されたりはしないものなのか?
俺は騎士だ、大事な存在なんだと思ってるのはお前さんだけじゃないのか?
ていうかさあ、まませんせいも。
ほんとにまませんせいの心のままだったら
石の家の子どもたちが切りあってるのを止めなさいよ。
シドとの結婚生活で、そんなに心が歪んだのか?


とぷん。
イデアは自分の影の中に溶け込んだ。しかしヒャダルコは下の会に行ったのだろうと見当をつける。
くたばっているサイファーに話しかけると
「おまえら……まませんせいには勝てねえな……」
もういいから黙ってろサイファー。
なんだか切なくなってきたよ。
一人で10対以上の師匠と対決して力尽きて、投げられた言葉が「役立たずめ」だぞ。
目を覚ませ、みっともないな。
ともあれトドメをさすまでもないと判断したようで
三人は魔女イデアを追って大講堂へと向かう。
すると、今度は男の声で例の魔女の歌が聞こえてきた。
そして上部につるされている表示パネルを粉砕して、イデアが降ってきた。
「おまえが伝説のSeeDだったのか」
伝説のSeeD? 自分が作った、まだ12年の歴史しかないものなのに伝説もクソもないだろう。
ヒャダルコ聞く耳を持たない。
(意味不明……だまれ)
この頑なさは、もうまませんせいの声なども思い出しているのだろう。
どんな内容であっても、その声を聞くだけで戦意をそがれてしまうのだ。
自分の声の効果を知ってか知らずかイデアは続けた。
「なるほど立派なものだ。おまえ、じゅうぶん立派だよ」
このあたりの会話からして、やっぱりイデアはなにかに(たぶんアデル)に乗っ取られているんだろうな。
「……立派すぎて目障りだ。ここで消してやろう……」
さて、いよいよ魔女イデアとの二度目の戦いだ。
パレードカーの上と比べるとヒャダルコは比較にならず強くなった。というかドーピングした。
それでも、あの判定拒否の氷の刃を防げるだろうか?
死亡者がボロボロ出てきそうな気がする。
幸いにサイファーからメガフェニックスを8個もらっているから
それをフル活用していってみたい。


懲りずにまたサイファーが出てきた。
「……役立たずめ」
また言われたぞ、サイファー。
しかしその冷たさがヒャダルコを確信させた。
(『まませんせい』じゃない)
あそこにいるのは、姿は同じだが中身は別のものだ。
「SeeDなぞ消えてしまえ!」
自分が生み出したものに対しては不自然な憎しみをこめてイデアが叫んだ。
また、第一ラウンドはサイファーになった。
不死身か、おまえ。
「俺は魔女イデアの騎士だ。俺がいる限り指一本触れさせない」
バカもそこまで行けば立派なもんだな。
今度はへたばる姿勢だから、どんどんと雑魚散らしをかけてくると思う。
ヒャダルコたちの特殊技の言語道断さから考えるに
サイファーの特殊技も死人が数人出てきそうだ。
ぶんどりはあくまでチャレンジするけれど
やばいようならとっとと倒してしまおう。
その切り替えがよかったのか、それほど経たずに『英雄の薬』を手に入れた。
そしてまた、ヒャダルコの連続剣がサイファーの根性を刈り取った。


続いて魔女イデアである。
ためしに吸い取りをかけたら、アレクサンダーという師匠を従えていた。
キスティスが『ヒュプノクラウン』をぶんどるのを確保してすぐに
やはりヒャダルコの連続剣が勝敗を決した。
「あ、ああ……」
イデアはうめき声を上げる。赤い光を全身から放ち、視界は白く染まる。
その光の中、ヒャダルコは身体を動かせない。
見守る中で、何かに憑かれたようにパルプンテがよろよろとサイファーのもとに歩み寄りひざまずいた。
そして、彼を抱き起こしてキスをする。
意外なことにパルプンテは、惚れた男がダメになったらほうっておけないタイプなのだろうか。
当然、それを見てヒャダルコはショックをうける。
なんでいきなりここでラブコメになるんだと文句も言いたいところだが。
パルプンテの意識がそこで途切れた。キスをした方が倒れるってのは斬新な童話だが
された方であるサイファーは、倒れたパルプンテに一瞥も与えずに歩き去った。
ようやくキスティス先生が駆け寄る。
しかしパルプンテは動かなかった。