ラグナロクの自動操縦は至れり尽くせりで
無事にエスタの赤茶けた地表に着陸した。
待っていたのはエスタの神官だろうか、それとも権力者だろうか。
意外なほどに警備の兵はいなかった。
おそらくまませんせいの話を聞いて
エスタの魔女への知識はかなり修正されたのだろう。
子どものころから40を過ぎるまで、自分の意思で力を封印して幸せに暮らしてきた魔女が存在したこと。
その魔女は結局ガルバディアを牛耳ったが、なんのことはない、それは未来の魔女にのっとられただけであること。
つまり、魔女はその能力が危険なのであってその性格が危険なのではないこと。
しかしアルティミシアという未来の生き物がいる以上警戒は厳重にしなければならないこと。
さらに、エスタ・エアステーションの感触では魔女についている男は話し合いが通じそうなこと。
それらを勘案して
『まあ、魔女は封印する。
 けれど、たぶん魔女は説得できる。
 だから大軍を伏せておくとしてもファーストコンタクトは穏和にしておこう』
そういう計算があったことだろう。


想像通り、魔女のそのおつきの男もおとなしかった。
「さらにこいねがう。我らの招きを受け入れ、魔の力を封印せし部屋で眠らんことを」
「……はい」
交渉はおだやかに成立した。それを遠距離から聞いていた伏兵部隊の司令官は
安堵のため息を漏らしたことだろう。
その脇ではトランシーバーなんて知らない世代の兵隊たちが
「うわあ。箱から声が出とるで」
と驚いていることだろう。
とにかく、お友だちに最後のお別れをとの勧めにしたがって
魔女パルプンテヒャダルコに向き直った。
「……ジカンアッシュク」


パルプンテの中に魔女アルティミシアがいたとき
パルプンテはその考えを読むことができたらしい。
彼女の目的は、時間をぎゅーっと縮めてしまうことだとか。
その世界の中ではアルティミシア以外の生き物は存在できないのだそうだ。
そんなことをして、何になる?
そう思わないでもなかったが、わかる気がする。
彼女の力はハインから受け継いだものだとして
そのハインは、暮らしていく上で最初は怪物たちの存在に悩まされた。
そして次は、人間たちが頭痛の種になった。
あまつさえ身代金として力の半分を差し出させられる始末である。
だからハイン自身は
「もう共存なんてコリゴリだ。次の機会があったらあいつら全員たたっころしてやる」
と思っていたとしてもおかしくはない。
それが強迫観念として魔女の力に残ったか
あるいは、同じく「お一人さまが好き」なアルティミシアの性格と共鳴したのかもしれない。
なんかラスボスはアルティミシアじゃなくて、その奥にいるハインのような気がしてきたよ。
アルティミシアに時間圧縮をさせて、見晴らしのいい世界にしてもらったところで
ハインが彼女を排除してのんびり暮らす気なのかもしれない。
それにしても、もしその推測が正しければえらいドラゴンボールだ。

(弱)                                                              (強)
シド<<ヒャダルコ<<サイファー<<<<モルボル≦アデル<アルティミシア<<<<<<<<<<ハイン
俺の中ではこんな感じだ。
残り1.5枚のDiscで本当にクリアできるのか。


「そんなことに、私の身体、使われたくないから……だから行くね」
そう言って気丈に立ち去ろうとするパルプンテは明らかにキャラが変わったが
のっとられたアルティミシアの考えがそれほど邪悪だってことなのだろうか。
まあ、「1人殺せば犯罪者だが、100万人殺せば英雄」となるような人間の限界を超越した
「アタシ以外の人間は全員いらないわよ」というアルティミシアの女っぷりである。
小娘が萎縮するのもわからないではない。
ヒャダルコはなんとかパルプンテを引きとめようとするが
状況が状況なのだ。なんだか及び腰である。
恐れられ、嫌われる前に自分を封じてしまいたい。
その言葉には抗弁できなかった。
(……パルプンテが望んだことだ。……仕方ないんだよな?)
無力をかみ締めながら見送り、とぼとぼと船内に戻った。