「決まったみたいね」
ヒャダルコの表情の変化をキスティス先生が見て取った。
これまで鉄の行動力の男だったヒャダルコ
先生はずっと近くで見てきている。
その行動力は、自分が傷つかないために極度に行動を制限した結果得たものだが
今度のものは、自分が幸せになるために極度に他者への配慮を制限した結果のものだ。
どっちもたちが悪いが
とにかくヒャダルコは復活した。
「なんとかパンドラや魔女アデルなんてどうしたらいいかわからない。
 おねえちゃんの行方も今は見当がつかない。
 わかってるのはパルプンテのことだけだ。
 パルプンテを取り返しに行く!」
なんというか、目先のことだけ考えているこのヒャダルコって
会計や強度計算をごまかす人とか
明日の予定を忘れたフリで酒を飲んじゃう人とか
そういうバカどもと同じ匂いがするのですが
キスティス先生、あなたの教え子は消極的なバカか積極的なバカかどちらかにしか
なれないんですか?


そこでラグナロクが揺れた。
カメラが切り替わり、ガラスの向こう晴れた空を呆然と眺めている
キスティス、ヒャダルコ、ゼルの姿になった。
三人が見守る空の色は
まるで色調データをケチったかのようなすっきりした晴天だったが
ちょっとおかしいのは、雲が異常に早い速度で流れていることだ。
「あの……飛んでるんですけど」
状況を把握できていない風情でキスティス先生が呟いた。
しかし誰も正解を与えることはできない。
できるのは推測することだけだ。
そしてそれは、奇妙なことに皆が一致していた。ゼルが呟く。
「あんまり考えたくないけど操縦席にセルフィが座ってて……」
やはり、メンバー内での認識は一致しているようだった。異論もなくキスティスがあとを継ぐ。
「『飛んじゃったよ〜!』って楽しそうに……」
そしてヒャダルコは口に出さなかったが、その隣りで嬉しそうにしているアーヴァインをはっきりと想像した。
石の家でのアーヴァインをまったく覚えていなかったのにね。
アーヴァインもじゅうぶんキャラを立てることができたのだろう。


リフトを上がって駆けつけた操縦席ではまさにその光景が繰り広げられていた。
「飛んじゃったよ〜!」
セリフまで一緒である。
となりでは爺やもうれしそうだ。
「セルフィ、すっごいだろ〜?」
操縦できたのか? というヒャダルコの問いにたいして
セルフィはあくまでも大物だった。
「テキトーにやったら飛んだんだよ〜! でも、なんか、簡単だからなんとかなるかなあ」
そしてもう一発「でも」である。
「でも、落ちない保証はな〜い!」
雲の流れからもそのすさまじい高度と速度が想像できるこの状況で
あっけらかんと言い放たれてしまった。
しかしヒャダルコはもう毒を食らわば皿までの心境になっているらしい。
(未来の保証なんて誰にもできない、だよな?)
そういうことじゃないと思うぞ、ヒャダルコ
いろいろな偶然がからまって、未来に起きること。
未来に自分がすること。
前者は誰にも保証できないけれど
後者は努力次第のものなんじゃないのか。
17年ぶりに地球に帰還したラグナロク
これからエスタのスタッフによっていろいろなデータ取りとかされるんじゃないのか。
それに、セルフィがすいすいーっと操縦できるくらいに洗練されたシステムの飛行船だったら
純粋に乗り物としての利用価値も高いだろう。
エスタとしては「はよ返せ」と思っていてもおかしくないと思う。
セルフィとアーヴァインという英雄とぼんくらの名コンビだから
おそらくエスタからの自動操縦は何らかの形で無効化していることだろう。
もしかしたら、通信を偽装して墜落したことにすら
「テキトーにやったら〜」
しているかもしれない。
そういうこと全てに目を瞑り
ヒャダルコは皿を食べることに決心した。
「セルフィ、エスタへ行ってくれ。たぶん『魔女記念館』だと思う。パルプンテ奪回作戦だ!」
悪の象徴である魔女を
ハイジャック犯たちが救出に行きます。
ぶじパルプンテが巣食われたとしても
話の流れはどんどんと救いのない方向に向かっていると思う。


ということで、いよいよ地上に復帰しました。
とりあえずはタレコミにあったサボテン島に遊びに行き
宇宙空間にいたこの2ケ月ほどずっと後悔していた
ウィンヒルとシュミ族の村という二つの観光名所を見にいきます。
あとは、そうだな。
サイファーの情報を仕入れるためにデリングシティにも行ってみたいし
電波障害が終わったことによって、ドールのテレビ塔になにか変化がないか見てみないと。
あと、鉄パイプを手に入れなければ。六本。
モルボルの触手はぽちに任せようと思う。