ジュリアの部屋へと向かう。
慎重にな、ラグナ。
不用意においしい思いをしそうだったら
逃げたほうがいい。
やっちゃったあと怖いオジさんが出てきてすごい慰謝料を請求される可能性大だ。
……っていうか、それだったら上級将校を狙いそうなんだけどな。
それに、ヤクザがジュリアのバックについていたとしても
ヤクザってのは自分より強いものとはケンカしないだろうし。
そしてこの町でいちばん強いのは軍隊なんだよな。
罠という可能性はとても低いのが客観的に見た結論だが
でも許せないだろう?
「ピアノ演奏中に乱入し、足を吊ったら相手に部屋に誘われる」んだぞ。
それなんて赤松健


ジュリアの部屋へ案内されると、先ほどのドレスのままのジュリアに出迎えられた。
座れと言われてベッドに座ってしまい、あわてて窓辺にある椅子に向かう。
すごいな、ラグナ。
もう足は吊らなくなったのか。
この肝の太さは立派だと思います。
お酒を出されたらもうラグナの独壇場になっていた。
ジュリアはおとなしくベッドに座って聞いている。
軍隊は好きではないが、いろいろ見て回れるから楽しいと。
2人の楽しい仲間のこと。
兵隊をやめたらジャーナリストになりたいのだということ。
なぜジャーナリストになりたいのか?
自分が見たり聞いたりしたことを他人に知らせるのが楽しいのだということ
それを聞いているもう一人の聴衆であるヒャダルコ
ただそのなじむまでのはやさとその人物に驚くばかりだったろう。
ヒャダルコは知ることも知らせることも大嫌いで
ラグナは知ることも知らせることも大好きだ。
ヒャダルコにとってラグナは対極にいる存在で
それが今、憧れの女性の前で熱弁をふるうという幸せを経験している。
これで、少しは違う価値観に興味をもってくれたらいいのだけれど。
最初は確かにラグナに対して拒否反応を抱き軽蔑もするだろう。
でも冷静に「こういう生き方もある」と評価してほしい。


ラグナが我にかえってみると、自分だけがしゃべっている。
その気まずさ、よくわかります。
で、とってつけたように相手の土俵に話をうつすんだよな。
でも気がつけば自分ばかりがしゃべってしまうんだ。
自分にとっては損で、他人にとっては迷惑な性格だなお互いに。
でもジュリアは夢を語ってくれた。
ジュリアの夢はピアノ演奏だけではなく歌も歌いたいというものだった。
いまの日本だったらちょっと売れたタレントは歌を歌えるものだが
この世界では難しいのだろうか。
仕組みの問題ではなく、本人が歌詞を作れないらしい。
そうか。
たとえ作詞家という存在がいたとしても
たかがホテルのピアノ奏者にそのお金は払えないのだろう。
しかし他人の歌を歌うのでは意味がない。
ジュリアにも表現したい自分がいて
それを歌にすることばがみつからない。
気分転換にいつもニコニコ自分を見ているファンを呼んでみた。
そんなところだろうか。
確かに自分をとらえなおすとき
他人からみた自分はどうかを考えるのは非常に参考になる。
ただ問題は今回呼んだファンは
極度の自分語りだったということだ。
それでもジュリアには参考になるはずだ。
何しろ目の前にいるのは「自分を表現する」ことしかできない男なんだから
その言葉の一つ一つを自分に引き寄せて考えれば
やり方は見えてくると思う。
ジュリアもそれをつかんだようだ。
感動してそばによって、さあいい雰囲気だ。初めて会話してここまで行くか。
そう身構えたら
当然のようにキロスとウォードが呼び出しにやってきた。
任務です! ラグナさん!
まあ、今回はここまででしょう。
ラグナたちの拠点が動かない限り
ジュリアにはいつでも会えるから。
ただ、嫉妬に狂って「遠くに飛ばしてやる」という上級兵がいたんだけど
ウェッジの給料を減らせるといったビッグス少佐を考えれば
ガルバディア兵の赤い制服組は、自分の権限を過大評価していると思っていいだろう。
次はモザイクの準備をお願いします。