がっくりうなあれたシド学園長が、ヒャダルコたちを見て驚いた。
「……見ていましたか?」
うなずくしかない。
「大人だからって、なんでもがまんできるわけじゃありません」
違う。
あんたはことカネに関しては子どもだから我慢できていないだけだ。
立ち去ろうとする学園長を見送りながらヒャダルコは思い出した。
シドに報告すべきことがあるじゃないか。あと保健室に行け。
しかしシドは学園長室で聞くといってエレベーターで去っていった。
ここでは安心して話ができないのか、それとも疲れてるのか。
両方だろうな。とりあえず保健室に行けくらいは言えばよかった。
確かにFF8のシドは小人物に思えるのだが、それが却って等身大の人間にみえて俺は好きだ。
まあヒャダルコは軽蔑しているだろうな。


いよいよマスターとの面会となった。
事務員が言うには
「ノーグさまが及びの時は3秒以内に来るように」とのこと。
なんて俺サマだい。シドもよくこんなのとやってこれたよ。
それとも生徒に対しては頭が高いってやつだろうか?
すると「三秒・までなーい」とくぐもった声が聞こえた。
マスターとの対面である。
それはまさに機械の山で、両脇に液晶のドームのようなものがついている。
頂上の部分が開くとそこに黄色い生き物がいた。
人間とはとても思えない。怪物だろうか。ヒャダルコも呆気にとられる。
こんな怪物に学園は経営されていたのか。ショックである。
「フシフルフシフル……おまえ・魔女のごと・報告せよ」
しゃべり方も、怪物が無理して人語をしゃべっているようだし。
外見は、頭髪がない頭に巨大な両手、あごの肉がぶあつい。
こんなあごがあったらよい滑舌なんて望めないだろう。
醜悪な怪物だろうがなんだろうが、マスターであることに変わりはない。背筋を伸ばして報告する。
まずは結果である。魔女イデアの暗殺に失敗しました。
あれだけがんばって、結果として表現するとこれだけだ。
情けない報告だ、と思わず自嘲してしまう。


「ガルバディア・ガーデンでシド学園長からの命令書を確認、
 ガルバディア・ガーデン所属アーヴァイン・キニアスをメンバーに加え
 バラム・ガーデンとの共同命令『魔女暗殺』の遂行に当たりました……」
そこまで報告したらノーグ、というか怪獣が怒り出した。共同命令だど?
「おまえら・ダーマされだ!」
だまされた? なによそれ。誰によ。
怪獣に命じられた事務員が説明してくれた話によれば
ノーグの元にはガルバディア大統領と魔女が手を結ぶ情報が早くから入っていたそうだ。
ガルバディアのマスター、ドドンナから相談を受けていたという。
なんとドドンナはノーグの手下だったそうだ。
思いもよらずカネ儲けになると気づいたノーグは、シドの理想追求の手段であるSeeDを省いたガーデンを
ドドンナを使って経営させたのだろう。
ガルバディア軍とう大口顧客があるガルバディア領内にしたのも正しい判断だ。
説明は続く。魔女とガーデンはいろいろと因縁があるから
魔女は必ず各地のガーデンを自分のものにしようとするはずと予想された。
そこでノーグはガルバディア・ガーデンに伝令を送ったのだそうだ。
この伝令が風神・雷神のことだろう。
伝令の内容は今のうちに魔女を暗殺してしまえと。
しかし、ドドンナは自分たちの戦力の消耗を避けるためと
万一失敗した時に攻撃の矛先をバラムにふりむけるために
たまたま飛び込んだヒャダルコたちを利用したというのがことの経緯らしい。
つまり、魔女暗殺の任務は本来バラム・ガーデンには関係なかったということだ。
しかし実行犯の大半がSeeDである以上、もう魔女の復讐はまずバラム・ガーデンに向けられる。
そこで彼らはなんとか魔女の怒りを鎮めようと思ったらしい。
さすがにヒャダルコが反論した


ノーグはヒャダルコの反論などに耳を貸さない。
「それには暗殺の関係者を魔女に差し出し、バラム・ガーデンの誠意を見せる必要があった。
 SeeDの・首・差し出して魔女に・従うふり・するのだ!」
てえことは、この三人は殺されるためによびだされたってことか?
シド学園長を探していたキスティス先生がここに来たのも偶然ではないのだろう。
誰かに「マスター室にいる」と言われたのだ。いや、それは誤報じゃなかったか。
「なんで魔女と戦わないんですか! 俺たちが毎日受けている訓練はなんのためですか!」
ヒャダルコのこの反論は、イデア許すまじからくる言葉なのだろうか。
それとも単に戦わずして降伏するのが悔しいからなのだろうか。
あまり読めないのだが、どちらにせよ風紀委員に車を乗っていかれても
すぐにあきらめたころから大きく変わったと思う。
「魔女に負けたくせに! 偉そうにほえるな!」
あ、いたたたたた。それを言われてしまうと……。
「学園長も同じことを言っていた」そう事務員が口走ると
その、学園長という単語がノーグの暴走の引き金をひいてしまった。
「シドだど!?
 シドのアホがSeeDを魔女討伐に送り出した!
 失敗したらどうする!? このガーデン・終わりだ。
 シド・あのアホ・許さん!
 貧乏シドに・ガーデン建設・金出してやったの・忘れたか!?」
SeeDの首と一緒にシドの首もさしだすべきだったと残念なご様子です。
「シド・捕まえろと・命令したら生徒・シドの味方・しやがった!
 わじの・ガーデンなのに・だ!」
ヒャダルコがさすがにさえぎった。学園には月謝を払っている生徒として
自分たちまで私物だと思われたらたまらない。
「あんただけのものじゃない!」
そしてノーグは驚くべきことを言った。
「シド学園長と・魔女イデアの・ものか!?
 あの夫婦のものか!?」
え? いまなんつったこの軟体動物は。