マスターを叩き伏せると、パルプンテに何がどうなったのか尋ねられた。
「気にするな。わけのわからないことが増えただけだ」
そうだよなあ。もうシド学園長も信頼できなくなった。
最近まで学生だったヒャダルコにとって、問題とは先生が回答を持っているものだったはずだ。
しかし、もう教育の最高位者であるシド学園長すら頼りにならない状況のだ。
それに反比例するように重荷は増えていく。
いまさら他の人間の不安まで抱えていられない。
「どうして俺に聞くんだ! わからないのは俺だって同じだ!
 俺、何も知らないんだ。なにも……知らないんだ。
 だから……だまされる。だから……利用される」
シド学園長に、どうしてMD層探索に行きたいのかと問われた時
ヒャダルコの脳裏に去来した中には確かに「ガーデンは家だから」というものがあった。
その直前にシドの同じ発言を聞いていたからには
シドはヒャダルコにとって家長も同じ存在だったろう。
頼りない家長だが。
しかし、そのシドにも結局は裏切られてしまった。
思い返せばドドンナにだまされ利用されたために
D地区収容所に送り込まれた。
そこでミサイル発射の情報を知ってしまったから
セルフィを止めることができずに、その結果ゼルとアーヴァインまで悪い事態に追いやったかもしれない。
何も知らないから、命じられたから、と生きてきた結果がこれである。
だました連中よりも、「何も知らない、考えない」に安住していた自分に腹を立てたかもしれない。


その背中にパルプンテが寄り添った。
ヒャダルコはすぐに身を離したけれど
自分への怒りと後悔に苛まれているときに身をもって受け入れてくれる行動は
ヒャダルコを癒してくれると思う。
それを見たキスティス先生は首を振っただけだった。
ヒャダルコを励まそうとできたパルプンテとできなかった自分を比べて
自分ではだめなんだ、と思ったような気がする。
「学園長に会いに行く」
そうだ。とにかく学園長に話を聞かないと。
もう「何も知らない」でだまされるのは真っ平ごめんである。
暗殺未遂犯として投獄された以上立派な関係者である。
知る権利はあるし、利用されない権利だってあるはずなんだ。
それに、単体としてみた時のシドは別に怖くない。
やつは椅子から立ち上がるときよっこらせとしていたり
ぐったりしたり
運転ができなかったり
ガーデンの事務員にやられたりしているから
たとえ逆上してもヒャダルコたちの敵ではない。


エレベーターで3階に向かったが、誰もいなかった。
どこにいったのだろう?
イデアとの関係がばれたと知って遁走したのだろうか?
ともあれ二階からしらみつぶしにしてみるとするか。
それに、シドとイデアが夫婦という衝撃の事実について本人から話を聞く前に
もう一度魔女のことについておさらいをしてみようと思ったのもある。
すると、文化祭実行委員のページがおかしなことになっていた。
もうなんというか、頼むからその目で見てほしい。
よくウェブサイトなんかでマウスのアイコンを変えるスタイルシートを使っているページがあるでしょう。
俺などはそれを見るたびに「滅べばいいのに」と思うのだが
セルフィ閣下はなんとお花をアイコンに使っていた。
って、話が前後したな。
唯一の文化祭実行委員になったセルフィが、自動的に文化祭実行委員長に就任したらしいのだが
「みんなでガーデン祭を盛り上げよう!」
という趣旨のページを作っていたのだ。
タイトルのそのページにはセルフィの日記などが載っていた。
昔の日記では、例えばドール公国でのSeeD認定試験のことが書いてある。
彼女のいるA班はやはり情報担当で、ヒャダルコたちB班を発見できなかった時に電波塔まで
行ったのはセルフィの独断だったらしい。
……お前は犬か? どうして発見できた?
それが原因で合格したんじゃないかと書いてあるが
確かに連絡を徹底させたのだから、信じられないくらいのファインプレーだよな。
あと、サイファーのことをいいやつなんじゃないかとも書いてある。
昔の日記を読み返すのって恥ずかしいという好例だ。
俺もこのプレイ日記を読み返すことができん。
ストーリーを知っている人にニヤニヤされるのもわかる気がした。
特に今日ね。どうせまたひどい考え違いをしているんだろうさ!
てか、想像できないだろシドとイデアが夫婦って!


それにしても
『全然担当じゃないところで班長が大暴れしてるの。
 なにやってんだ、もう〜〜!』
完璧に簡潔にサイファー様のなんたるかを表現した名文だ。やっぱり好きだわセルフィ。
他には図書委員からのメッセージで
「魔女の騎士(シナリオ版)」が入荷されたというのがあった。
なるほど、これはサイファーの依頼みたいだ。
シナリオ、というからには演劇でもなくて映画だろうか。
映像ソフトは既にあって、それだけじゃ物足りないサイファーがシナリオも読みたくなったんだろうか。
魔女をたたえる映画が作られるのはどちらかというとエスタのような気がするから
あるいは字幕ではなくエスタ語で読みたくなったのかもしれない。


セルフィの最新日記の最後には
『では、いちきます!
 無事に帰ってきま〜す!』
と書いてあった。
無事に帰ってくるといいな。
ディスプレイの電源を落とした時、ちょうど並び方がそうなったのか
三人がまるで帰ってこないセルフィを心配しているように思える。
人間の妄想力ってのは大したもんだと思う。
少なくとも、この日記は読み返せないこと必至だわ。


というところで時間がやってきたので
本日のプレイはこれでおしまいにする。
明日はかなりのナゾが明らかになるだろう。
この非常識な夫婦喧嘩のケツは誰にもって行けばいいのか。
シドがどういう風に自分の迷惑行為を弁解するのか。
楽しみである。